第480話 学者は水を抜きたい
心臓を貫かれたブルーモースは背中をのけ反らせた。胸が沈み込み体が湾曲して尻尾と頭が水面に立っていた。青く光っていた目から光が消えた。クレアは伸ばした
波打つ水面から徐々にブルーモースの姿が消えていく。ブルーモースは水槽の中へと沈んで行った。
「あぁ……」
桟橋で沈んでいくブルーモースを見ていたダグオンが嘆くような声をあげた。彼の後ろに立って戦況を見ていたグレンが彼の言葉に反応する。
「なんだ? ブルーモースに興味があるのか?」
振り向いたダグオンは大きくうなずいた。
「はい。ヴァンパイアなんですよね…… 調べて見たかったなぁ…… あっ!! そうだ」
ハッとしたダグオンは桟橋を駆けて行く。グレンは慌てて彼に声をかけて止める。
「おっおい! 待て! どこ行くんだ!」
待てと叫ぶグレンだが、彼の声が聞こえないのかダグオンは止まらずに桟橋から通路へ駆けていく。
「まったく…… クローディアが苦労するわけだな」
首を横に振って笑ったグレンはダグオンを追いかけ、すぐに桟橋から通路の境目あたりで追いついた。
「勝手に行くなよ」
追いついたグレンはダグオンに声をかけた。通路に止まってジッと水面を見つめいたダグオンは彼の声に反応せずにいた。グレンは呆れながらダグオンの側に立っていた。
「この水はきっと魔導ポンプで湖から…… 排水は…… 湖に……」
難しい顔でつぶやきながら水面を見て水槽が置かれた部屋の奥を見つめた。
「こっちか!」
「おい! 今度は…… もう!」
叫んだダグオンは通路を部屋の奥へ走って行く。グレンはダグオンを追いかけ一緒に部屋の奥へ向かう。通路の先は金属の扉がありダグオンは扉を開けて中へ入って行った。
壁の向こうは通路が続き同じように水槽が横に見える。扉の向こうと水槽はつながっているようだ。十メートルほど通路が続き壁と大きな金属の扉が見えた。通路の横の壁には大きなレバーが見えその前にダグオンが立っていた。
「なんだここ…… あの扉は……」
グレンが驚いた顔をすると彼に気づいたダグオンが扉を指さした。
「壁の向こうは湖です。扉は栓の役割をしててレバーで開けると水を湖に戻せるみたいでね」
「なるほど……」
「水はおそらく横か反対側から魔導ポンプでくみ上げているんですね。いやあ。古代文明の技術は素晴らしい!」
ダグオンの話をグレンは真面目な顔で聞いていた。話しながらダグオンはレバーに手をかけた。
「うん…… えっ!? 水を抜くのか?」
「はい! これで水の底にあるブルーモースを調べられますよ!」
「でも、いきなり動かして大丈夫か? 罠かも知れないぞ」
嬉しそうに笑いながらレバーを強く握りダグオンはグレンに答える。グレンは不安げな表情でダグオンに尋ねる。何か仕掛けがあって危険があるかも知れないと、グレンは警戒し慎重になっていたのだ。
「大丈夫ですよ!」
「あっ! こら!」
ダグオンはレバーを当然のように下したグレンが声をあげた。大きな音がしてゆっくとり扉が外側へと開いていった。開いた扉の隙間から陽が差し込み湖の湖面が見えた。水が外に向かって流れだす。
「いっけえええ!!」
湖に向かって流れていく水に向かい、ダグオンは右手をあげ嬉しそうに声をあげていた。グレンは彼の後ろであきれて笑っていた。
水槽の上に浮かんでいるクレアはジッと沈んでいく、ブルーモースを見つめていた。スーッとブルーモースの体が水の中へ沈んでいき、姿が消えるとクレアは小さく息を吐いた。
「ふぅ。終わりましたね…… さて…… 二人を助けないと……」
振り向いて天井を見上げ吊るされた牢を見てつぶやくクレアだった。牢の斜め下にララを抱えたクロースがいる。ララはブルーモースが沈むと嬉しそうに笑って振り向いた。桟橋にララの視線が向けられると彼女は驚いた顔をする。
「あれ!? グレンとダグオンは?」
「えっ!? いませんわね…… どこへ」
「もう! 二人してどこで遊びに行ったのよ!」
腕を組んで口を尖らせるララだった。クロースは苦笑いをしていた。
「クロース! 上に連れてって!」
「何を言いますの! もう大丈夫でしょ。一人で飛びなさいな!」
「うっ……」
天井の近くにある牢へと連れて行けという、ララをクロースは叱って一人で飛ぶように指示を彼女から手を離すのだった。
「ケチケチおばさん……」
「聞こえてますよ!!」
手を離されて一人で飛んで牢へ向かうララがボソッとつぶやいた。クロースは彼女のつぶやきを聞いており眉間にシワを寄せ怒るのだった。ララは必死にバタバタと両手足を動かし牢へと向かって飛んで行く。
「まったく……」
必死に飛ぶララの横をスッと通りすぎてクロースは牢へ向かう。
「ほらしっかりしなさいな…… えっ!?」
ララを追い越したクロースは彼女を気にかけ振り向き声をかけた。クロースは目を大きく見開きララを見て固まっていた。
「どうしたの? うん!? えっ!?」
クロースに首を傾げたララだった。ララは彼女の視線が自分ではなく後ろに向けられているのに気づいた。クロースと同じようにララも振り向いた。
「みっ水が!!」
ララが声をあげた。水槽に張られていた水がものすごい勢いで減っていく。水が抜けていく水槽をララとクロースは呆然と見つめていた。クレアも二人と同じように呆然と水槽を見つめていた。
しばらくして水が水槽から完全に抜けた。石畳みの床に巨大なブルーモースの死体が転がっていた。
「皆さーん! 水を抜きました! いまから牢を下しますねぇ!」
桟橋からダグオンが手を振り三人に向かって声をかけていた。彼の後ろでグレンがレバーに手をかけていた。二人は水門を開けた後に桟橋へ戻って来ていた。
「グレンさん! お願いします」
「おう!」
返事をして桟橋の床にならんグレンは右端のレバーを押した。大きな音がして天井付近の牢屋が動き出した。
「キャッ!」
「えっ!? 動いた!」
牢屋が横に動き水槽の底に転がっている、ブルーモースへと向かって動き出した。横に動き出した牢を見てグレンは困惑し声をあげる。
「あれ!? えっ!? なんでだ!?」
「グレンさん! 下すのは真ん中ですよ!」
「えっ!? あっ! そうか! すまん!」
慌ててグレンは真ん中のレバーを引いた。横に動きながら牢が床に向けて下りて行った。キティルとラピが乗った牢はブルーモースの五メートルほど前の床に下りた。
「行きましょう!」
「あぁ」
桟橋から牢を指すダグオンにグレンはうなずいて返事をした。グレンはダグオンを抱え飛んで行くのだった。
牢屋の前にはクレア、ララ、クロースがすでに集まっていた。ダグオンを抱えたグレンが飛んで来て着地した。
「グレン! 気をつけなさいよ! 中にラピとキティルがいるのよ!」
「悪かったよ……」
レバーの操作を間違えたグレンに不満をぶつけるララだった。グレンは気まずそうに謝り二人を見ていたクロースとクレアは笑っていた。
「あまり怒らないでララちゃん…… グレンさんだってわざとじゃないんだから」
「甘いのよ。キティルは……」
牢の中からキティルがララをなだめるのだった。ララは不満げに口を尖らせる。
「さぁ! 早く助けましょう! みんな離れて! 二人は伏せててくださいね……」
クレアが指示を出した。指示を受けグレン達は牢から少し離れた。クレアは皆が離れると両手で大剣を構えた。彼女は牢を斬って破壊しようというようだ。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」
いきなりけたたましい声が響き渡った。床に転がっていたブルーモースの目の周りと口の隙間から赤い光が漏れている。ブルーモースの口がゆっくりと開かれていく。




