第478話 かちこみお姉ちゃん
グレンは視線を水槽の中央に向けた。クレアとブルーモースの戦いが続いていた。クロースに支えられたララは必死に牢を支えている。苦しむララを見て彼は焦りだす。
「よしやっぱり一つずつ全部……」
「待って下さい! ちょっと!!!」
レバーに手を伸ばすグレンをダグオンは腕を伸ばして慌てて止めた。しかし、焦っているグレンはダグオンの肩を押してどかそうとする。
「いや…… 急がねえと」
グレンがダグオンを押しのけて右にあるレバーに手をかけた。ダグオンは押されながら必死に口を開いた。
「違います。わかったんです。真ん中のレバーを引いてください」
「えっ!? どうして……」
「説明は後です。早くレバーを引いてください」
「わっわかった」
うなずいたグレンは右のレバーから手をはなし。ダグオンに指示された中央のレバーに両手をかけた。
「はっ!!」
手に力を込めたレバーを勢いよく引くグレンだった。木と金属がこすれたりきしむ音がして最後にガチャンと何かがかみ合った音がした。
水槽の中央で必死の形相をしていたララの前でゆっくりと牢が上に移動し始める。
「あれ…… 上に…… よかった……」
「えぇ。頑張りましたわね」
ホッと安堵の表情をしたララにクロースが横で微笑んでいる。クロースに視線を向けるララだった。優しくほほ笑むクロースに恥ずかしくなったのか、頬を赤くしたララは得意げな顔をする。
「まっまあ…… 天才である私の魔法なら当然よね!」
胸を張るララにクロースはあきれた顔をして首を横に振った。
「いいえ違いますわ。きっと彼らですよ」
「えっ!?」
クロースは顔を水槽の奥に向けた。ララはクロースと同じく視線を水槽の奥に向ける。桟橋に立つグレンとダグオンが二人に向かって手を振っていた。
「ダグオン…… グレン…… ありがとう……」
嬉しそうに目を輝かせるララがつぶやく。クロースとララは顔を見合わせて笑うのだった。すぐにララは視線を下に向けブルーモースと戦うクレアに向かって叫ぶ。
「クレア! こっちは大丈夫よ。さっさとそいつをやっちゃって!」
「えっ!? はーい。わかりました」
ララの声が聞こえたクレアは上を向いた嬉しそうに笑って返事をした。大剣を持つ手を強く握って前に視線を向けた。
水面からブルーモースがいきおいよく姿を現し口を開けた。ブルーモースの大きな口がクレアを飲み込もうと迫って来る。タイミングを計ってクレアは口が閉じられる直前に横に飛んだ。
音がして口が閉じられた。クレアは剣を振りかぶり自分の体を浮かび上がらせる。閉じたブルーモースの上あごが起こした風によりクレアの髪がなびく。クレアは上あごに上までくると勢いよく大剣を振り下した。
「ブフウウウウウウウウ!!!!!!」
クレアの大剣がブルーモースの上あごに叩きつけられた。硬い皮膚にクレアの大剣がめり込み、下に向けて殴られたようになったブルーモースは前ヒレを広げた状態で水面に叩きつけられ水しぶきが舞い上がる。
白く舞い上がった水しぶきによりブルーモースの姿一瞬だけ消えた。素早くクレアは大剣を引いて構えた。
「終わり…… えっ!?」
水しぶきがおさまるとブルーモースの姿が消えていた。大きく波打つ水面にわずかに泡が浮かぶ。どうやらブルーモースは素早く水に潜ったようだ。
「ふぅ。水の中に隠れられると厄介ですね……」
小さく息を吐いたクレアは視線を下に向け静かに水面を見つめていた。彼女は視線を横に動かし首をわすかに後ろに向け指を広げた。
「そこ!!!」
振り向くと同時にクレアは左腕を前に突き出した。指先から五本の光の剣が伸びていき水面に突き刺さる。クレアの光の剣が突き刺さった水面には巨大な影が浮かび上がっていた。影はブルーモースで背後から彼女を襲おうとしていたようだ。
光の剣がブルーモースを貫いたはずだが影は何事もなかったかのように水中へ消えて行った。
「効きませんね。確かブルーモースは水中障壁を使いこなすんでしたね。釣り出すのは…… 難しいですね」
左腕を引いて戻しながら悔しそうにつぶやくクレアだった。すぐにジッと水面を見つめ右手に持った大剣に力を込めた。
「だったら…… カチこむまでですね!! スウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!」
水面を見つめたクレアはニヤリと笑うと大きく息を吸い込み、大剣を肩に担いで水に飛び込んだ。彼女は水槽を泳ぎながらブルーモースを探す。
「!!」
勢いよくクレアが振り返った。彼女に向かって水を切り裂き音を立て、尖った氷が回転しながら向かって来ていた。右手に持っていた大剣をクレアは氷に向かって振り上げた。振り上げられた大剣は氷に叩きつけられ氷を砕いた。粉々になった氷が泡だった白い線を描きながらクレアの横を通り過ぎていった。
彼女の目がまた鋭くなって瞳が横に動く。
「もう一つ!!」
再び背後に勢いよく振り返ったクレアだった。尖った氷が二つクレアに向かって飛んで来ていた。クレアは大剣を振り上げた姿勢で飛んでくる氷にタイミングを計り今度は勢いよく振り下ろした。
一振りで大剣は二つの氷を粉々に打ち砕いた。クレアの耳元を氷の破片が通り過ぎキュイーンという音が聞こえた。
「どこへ……」
おそらくブルーモースであろう気配がクレアの前後左右に漂っている。ブルーモースが彼女の周りを泳ぎながら円を描いているようだ。
左右に首を振るクレアの後ろからブルーモースが音を立てずに静かに忍び寄っていた。大きな口を開けブルーモースがクレアに近づく。
「来た……」
大きな影に覆われてクレアが勢いよく振り向いた。ブルーモースの巨大な口がクレアに向かって迫って来ていた。
「フッ!」
口元を緩ませてクレアは素早くと両手で大剣を持つと一気に浮上した。
「グギャ!!!!!!!!」
上昇したクレアは両手に持った大剣をブルーモースの上あごに突き刺した。彼女はそのまま体を上昇させ続けた。クレアに押されるようようしてブルーモースの体も勢いよく浮上していった。ブルーモースの体が水面に近づきそのまま一気に飛び出した。
「ブハアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
水槽にブルーモースの声が響く。クレアは止まらずにさらに上場を続け天井近くまで上がった。
「アガガ……」
顎を強引に上にあげさせられ苦しそうな声をあげるブルーモースだった。クレアは満足そうにうなずくと今度は顔を下に向けた。飛び出したブルーモースの巨体で波打つ水槽からクレアは視線を横に動かす。
「水中から出ないなら強引に引きずりだすまでです……よ!!!!!」
ブルーモースに向かって優しく声をかけた、クレアはいきおいよく大剣を振り下した。大剣からブルーモースの顎が抜けた。放り投げられたブルーモースは水槽があるフロアの壁に激突し大きな音がした。
「キャッ!!」
「わっわ!?」
ブルーモースが壁に激突した衝撃で城が揺れ天井から砂埃が舞う。キティルとラピが入った吊るされた牢が揺れて二人は思わず声をあげるのだった。
衝突により壁はへこみ一部は崩れ砂埃が舞っていた。クレアは刀身にブルーモースの血が付いた大剣を下に向け水面をジッと見つめている。彼女の視線の先には壁に張り付くブルーモースがいる。ブルーモースは尻尾を天井にし逆さまに壁にめり込んでいた。下に向けられた大剣をつたってブルーモースの血が垂れて水槽へと落ちていく。
「さて…… もう終わりに…… うん!?」
「ガガガ……」
大剣を構えようとしたクレア、直後に苦しそうな声をあげたブルーモースの長い尾っぽとヒレがかすかに動いた。ヒレをバタつかせ壁から這い出るようにしたブルーモースは水槽へと向かって行くのだった。




