第477話 妹の頼みはすぐにでも
天井から鎖が伸びて行き牢が水槽へと近づいていっていた。クロースに抱きかかえられたままララは下がって来る牢を見つめていた。
「キティル! ラピ! 待ってね」
ララはクロースの手首をつかんで強引に外した。自分で飛んだ彼女は両手を下へ伸ばし、水槽へと向かう牢へと向けた。
「助けるってどうする気ですの?」
「見てなさい!」
牢に向けたララの両手が白く光りだした。ララの腕が光ると牢の落ちていく速度が徐々に遅くなっていく。
「もっと! もっとよ!」
叫んだララの両手がさらに強く光り出す。
「あっ! 止まったべ」
「そうだね……」
牢の落下は止まりホッと安堵の表情を浮かべる。しかし、直後に……
「へっ!? ララ!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
いきなり浮力を失ったララは水槽に向かって落下し悲鳴をあげた。同時に止まっていた牢屋がまた水槽に向かって落ち始めた。
「ララちゃん!」
「何しているべ!」
猛スピードでララは牢屋を追い越して水槽へと向かって行って落ちて行く。
「もう…… しょうがないですわ!!」
慌ててクロースがララまで飛んで行き、水槽に落ちる寸前で彼女をつかんだ。ララを抱き抱えた上へと上がるクロースがあきれた顔をする。
「まったく飛ぶの苦手なのに無理して!」
「無理してないもん! 出来るもん」
口を尖らせて不満げにララにクロースは優しくほほ笑み。天井の近くまで再び上がって来たクロースはララの脇に手を入れてそのまま両腕を牢屋へと向けた。
「ほら! 私が支えてますから魔法に集中しなさいな」
「う…… まぁいいわ。お願いね」
「えぇ!」
ララは再び牢に両手を向けた。彼女の両手がまた白く光り出した。牢屋
「やりましたわね? ララ!?」
牢が止まって喜んでララに声をかけたクロースだった。しかし、ララは必死の形相をして手を震わせていた。
「グッ!!!」
「だっ大丈夫ですか?」
「うん…… でも重い! クレアーーーー! なんとかして!!!」
両手をさらに激しく光らせ苦しそうにクレアに助けを求めるララだった。
「なんとかしてですか…… お姉ちゃんなら妹の懇願は叶えてあげないとですね……」
ララとクロースから少し離れた場所に居たクレアは嬉しそうにほほ笑んだ。彼女は大剣を構えると牢へ向かって飛んで行った。
視線を前に向けていたクレアが厳しい表情に変わった。水面が盛り上がってごつごつとしたブルーモースの皮膚が見えて来た。
「ブルーモース!!! もう邪魔しないでください!」
口を開いたブルーモースが水槽から、飛び出し口を開け牢へと迫って来た。速度をあげたクレアはブルーモースとの距離を詰めると横から大剣を勢いよく振り抜いた。クレアの大剣はブルーモースの上あごの横に命中した。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
大きな音が響いた。ブルーモースは悲鳴を上げながら吹き飛んで水槽に叩きつけられた。腹を上にしてブルーモースは沈んで行った。クレアは大剣の刀身を見て首を傾げた。
「はっ!?」
クレアの背後の水面が白く湯気のような煙をあげた。直後に水面から白い冷気が光線のようになってクレアへと飛んで来た。冷気の接近に気づいたクレアは体を斜めして冷気をかわした。わずかに冷気がかすりクレアの肩に二十センチほどの氷の塊が出来ていた。
「アイスランスですか…… やりますね……」
左肩に出来た氷の塊を見てつぶやくクレアだった。氷は徐々に胸や腕の先へと広がっていく。直後に眼下に見えるクレアにララが声をあげる。
「もう! クレア! 早くして……」
「はーい。ちょっと待ってくださいね!」
早くしろとせがむララにクレアは笑顔で大剣を持つ右手をあげ答えた。直後に彼女は大きな氷がついた左肩へ向けて大剣の柄頭を振り下した。大きな音がしてクレアの左肩の氷は粉々に砕けった。砕けた氷が水槽に落ちて音を立て水紋が広がっていった。
「しつこいですね」
クレアは前に向かって素早く動く。水面からいくつもの白い冷気が飛び出してクレアに向かって飛んで行った。クレアは壁に伝いに飛んで行く。クレアを冷気が追いかけいき壁にぶつかった。
壁を駆け上がったクレアは宙返りをして水槽へと戻った。冷気が壁にぶつかり柱のようになっていた。
「さすがのクレア義姉ちゃんもブルーモースには手こずるか」
扉の脇に立ち水槽を覗いていたグレンがつぶやく。彼は自分の前にダグオンを立たせている。ダグオンは顔を横に向け不安そうにグレンと同じように水槽を覗いてい。グレンは前を向き視線を下に向け水槽を覗くダグオンに声をかける。
「大丈夫か?」
「はっはい…… ブルーモースはなぜバーガンさんを」
「血の臭いに反応したんだろうな。肉食の魔物の嗅覚は鋭いからな」
視線を戻すグレンだった。水槽の上ではクレアとブルーモースとの戦闘が続いている。彼の視界の端には通路のヘリにしゃがむずぶ濡れのケイトの姿が見えていた。
「ララの体力がいつまでもつか…… あの鎖の動きを止める方法を探さないとな…… うん!?」
目を少し開いて驚いた顔をするグレンだった。ダグオンが腕を伸ばし水槽の向こう側を指で指していた。
「あっちの方角に天井からつるされた鎖を操作するスイッチがあると思いますよ」
「なんでそんなこと分かるんだ?」
首をかしげるグレンにダグオンは顎に手を置いて小さくうなずいた。
「バーガンさんがさっき矢を放ちましたよね。直後にあの鎖が動き出しました」
「あぁ。なるほど…… わかった。行くぞ」
「はい!」
返事をしたダグオンを連れグレンは通路に戻った。彼は視線をしゃがんでいるケイトに向ける。ケイトは通路の手すりをつかんだまま静かにジッと水面を見つめていた。
「ふぅ。よっと!」
小さく息を吐いたグレンはダグオンを左腕一つで脇に抱えると飛び上がる。
グレンはダグオンを抱えて水槽を横断する。波打ち水面の上を飛ぶグレンがおもむろに右手に持った剣を見てダグオンに尋ねる。
「なぁ。ダグオン…… お前は人を斬れるか?」
「なっなんですか急に……」
「ちょっとな。確かめておきたいんだ……」
唐突なグレンの質問に動揺するダグオンだった。ダグオンは視線を下に向け、水面に映る自分の影を見ながら考えてから首をゆっくりと横に振って答える。
「無理です。僕はただの学者ですから…… 危険なら逃げるのみです。だいたいそんなことできたら護衛なんかつけませんよ」
「そうか。そうだよな。悪い。気にするな……」
ダグオンの答えを聞いたグレンはうなずき笑顔を向けた。グレンは速度を上げた。水槽の反対側は同じように通路があった。グレンは通路に着地するとダグオンを床に下した。
下ろされたダグオンは首を左右に動かした。
「えっと…… あっちですね」
「わかった。行くぞ」
螺旋階段がある方角と反対の水槽の奥を指してダグオンはグレンを連れていく。
「あそこですね」
ダグオンが通路の先を指した。通路の奥は水槽に突き出た桟橋のような足場が組まれていた。足場の先に少し広めのスペースがあり、床に三つのレバーが並んでいた。レバーは右と中央のレバー二つが奥に倒され一番左にあるレバーが手前に引かれていた。
レバーの前に立ってダグオンは難しい顔をしていた。
「レバーが三本…… おそらく前後左右に上下ですかね……」
「適当に全部引くか?」
「ダメですよ。下手に動かして外れたら牢が動いてララさんが支えられなくなりますよ……」
「あぁ。そうか」
ダグオンは左右に首を振り床を見てから再度レバーをジッと見つめた。




