第476話 水の中に潜むもの
聖堂から出たグレン達は通路に戻り先にある螺旋階段を上がっていた。しばらく歩くとグレンがハッとして上を向いた。
「なんか…… 上の方から波みたいな音がしないか?」
「湖から水を引き込んでいるのでしょうか……」
耳に手を置きクロースもグレンと同じように顔を上に向ける。グレンが言った通りにかすかに波の音が聞こえる。
「嫌な感じがしますわね。少し急ぎましょうか……」
「そうね! みんな行くわよ!」
「わっ!? ララさん!?」
クロースの言葉にララが大きくうなずき、ダグオンの手を引っ張って階段を駆け上がっていく。二人の後を追いかけグレンたちも続き階段を駆け上がっていくのだった。
階段を上がったグレン達は広く水が張られたフロアへとやってきた。
「水!? 大きなお風呂だね……」
「すごいですね。プール…… いや水槽ですかね…… でもこんなに巨大な水槽に何を……」
湖のように波打つ水を見ながらダグオンが難しい顔で考えていた。二人のすぐ後からクレアとクロースも張られた巨大な水槽を見て驚いていた。
「お城の中にこんなところが……」
「クレア! 上ですわ!」
「へっ!?」
クロースが何かに気づいて天井を指した。水槽の中央に天井から鎖でつるされた、鉄格子の牢があり中には……
「ラピ!!! キティル!!!」
吊るされた牢の中に両手を縛られたラピとキティルが居た。ララは二人の名前を叫ぶと地面を蹴って飛んで行った。
「ララ! まったく…… もう!」
「クロースちゃん! グレン君! ダグオンさんをお願いします」
「わかった!」
飛び出したララを追いかけクロースが飛び上がる。クレアもダグオンを守るようにグレンに指示し、二人に続けて飛び出して行った。
寄り添うように牢の中に居たキティルとラピに飛んでくるララの姿が見えた。
「ララちゃん! ダメ! こっちに来ちゃ! すぐに逃げて!」
「何を言っているのよ! 大丈夫よ…… すぐに助けてあげるからね」
キティルが接近するララに気づき声をあげた。ララは彼女の言葉を聞かずに牢へと接近するのだった。
「えっ!? ちょっと!? 何よ!」
もう少しでララが牢に到達しようかという時、天井から伸びている鎖が巻き上がり牢が天井へと上がっていってしまった。ララは必死に足をばたつかせて牢を追いかけるが、彼女が飛ぶのが苦手なのもあるが牢が上がる速度が意外と速く追いつけなかった。
必死にもがくように飛ぶララの足元に見える、水面に底から何か大きな影が近づき牢の影と重なり徐々に大きくなる。長い影の先の方に青い光が二つ見えた。
「ララ! 下から何か来ますわよ!」
「えっ!?」
水面がせり上がり口を開けたブルーモースが姿を現した。水を纏ったブルーモースの開いた口が飛ぶララに向かって迫って来ていた。ララは必死に手足を動かしブルーモースの口から逃れようとしていた。しかし、彼女が飛んで逃げるよりも早くブルーモースの口が閉じられようとしていた。影で覆われていくララは青ざめて恐怖に顔が引きつる。
「キャッ!!!」
ララの背中に衝撃があり急激に浮かび上がっていった。直後に大きな音がしてブルーモースの口が完全に閉じられた。間一髪ララはブルーモースから逃れた。
「大丈夫ですの?」
「うっうん……」
背後から声がして振り向くとクロースが居た。ララは彼女にうなずいて返事をした。飛んで来たクロースがララを抱えて急上昇して助けたのだ。
二人が下を向くとブルーモースは急速で水面へと落ちていき水の中に消えていった。鎖が全て巻き上がったようでキティルとラピが淹れられた牢が天井に到達し止まった。グレンは視線を上に向け悔しそうに眉間にシワを寄せた。
「こうなったら…… チッ!!!」
舌打ちをしたグレンが右手を剣へと持って行き体を横へ向ける。彼は剣を抜いて振り上げた。金属の音が水槽に響き渡った。振り上げたグレンの剣の前には細長い剣を振り下した姿のバーガンが見えた。必死な形相のバーガンとグレンの目が合った。バーガンはニヤリと笑って口を開く。
「いやああ…… さすがだね。不意打ちは効かないか」
「そうだ…… なっ!!!」
「クウ!!!」
グレンは剣を軽く押し出した。押されたバーガンは必死に踏ん張ったが、耐え切れず床を滑るようにして二メートルほど後退した。床に焦げたような痕がついて砂煙が上がっていた。
「お前は…… バーガンか」
「そうだよ」
顔があげにこやかに答えるバーガンだった。グレンは視線を天井に浮かぶ牢へ向け右手に持っている剣を強く握りしめた。
「キティルとラピを解放しろ…… じゃなきゃ排除する」
「あっ! そうですか!」
「チッ!? えっ!?」
バーガンは素早く左手を腰につけていたクロスボウに手をかけて抜いた。身構えるグレンだったが、彼は振り向いて水槽の向こう側に向け矢を放った。矢は放物線を描いて水槽の奥へと飛んで行った。乾いた音が水槽に響いた。
「キャッ!!!」
「また下がったべ!」
悲鳴が聞こえ視線を上に向けたグレンに牢屋が再び下がって来るのが見えた。
「なっなにをした!」
バーガンに向かって叫ぶグレンだったが彼はにっこりとほほ笑んで水槽に目を向けた。
「ブルーモースの食事の邪魔しちゃダメですよ…… たとえあいつがヴァンパイアでもね……」
「なんだと……」
目を光らせたブルーモースはヴァンパイアだというバーガンだった。
「さて…… あの二人がブルーモースの餌になる光景でもずっと見ててください」
ニヤニヤと笑い左手で牢を指すバーガンだった。
「なんだと!?」
眉間にシワを寄せるグレンにバーガンは満足そうにしていた。
「僕は高見の見物と……」
バーガンの左手が矢筒に伸びていった。彼は白い筒がついた矢を引き抜いた。直後にグレンの目が鋭くなり地面を足で蹴りかれとの距離が
「なっ!? なんだと……」
「不意打ちなんかするやろうのする事なんかすぐにわかんだよ!!!」
グレンは叫びながら剣を勢いよく振り下した。剣は鋭く伸びて行きバーガンの左腕を切り落とした。バーガンの左腕は回転しながら、矢を持ったまま水槽の中へと落ちていき音を立てた。円形の水紋が水槽に広がっていき矢から出た白い煙が立ち昇っていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 腕が……」
剣を捨てバーガンは右手で左腕を押さえる。グレンはバーガンに視線を向け右腕を引いて剣先を彼に向けた。しかし、彼は何かの気配を感じすぐに剣を下し視線を横に向けた。
「チッ!」
水面が盛り上がりブルーモースが姿を現した。青く光った二つの目がバーガンを照らす。彼の頬は青く照らされた上に恐怖で青ざめ文字通り真っ青になっていた。
「ひい!」
「おっと! 逃げるなよ」
「ギャッ!?」
悲鳴をあげ振り向いて逃げようとするバーガンだったが、グレンが足元を払いのけた。前のめりの倒れるバーガンの背中を見てグレンは笑った。彼は即座に振り向いて走って逃げる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
口を開けブルーモースが水槽のヘリにある通路ごとバーガンに噛みついた。
「ブヘ!!!!」
倒れたバーガンの背中にブルーモースの牙が突き刺さった。バーガンの背中から腹をブルーモースの牙が貫いた。彼の身に着けていた赤いマントにも穴が開き周囲が銀色に変わっていった。
「バーガン!!!!!」
悲鳴のような声を上げるケイトを一瞥してグレンが彼女の横を走り抜けていく。直後にブルーモースが姿を現したことにより起きた波が通路へと向かって来た。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
波が通路を覆い付くした。ケイトは柵につかんで必死に耐える。グレンは走りながら、立っていたダグオンを左腕を伸ばして抱えると螺旋階段へと飛び込んだ。入り口の入ってすぐ横に背中をつけて立つグレンだった。直後にグレンの横を大量の水が流れていくのだった。




