第475話 がめつい人々
ダグオン達の会話をドレスを挟んだ反対側でクロースとケイトが聞いていた。ケイトの視線が下に向き床に広げられたドレスに向けられる。
「ねえ! ダグオンさん! 銀の糸って貴重なんだよね? それにこの装備も!」
ケイトは手を上げてダグオンに質問をした。ダグオンは少し考えてから彼女の質問に答える。
「そうですね。ノウレッジでは最近になって加工できるようになってますね。世界ではまだまだ貴重ですが……」
ドレスを見ながらダグオンが話をしていた。銀を加工して作った糸は貴重品だが、鉱石が豊富なノウレッジでは少しずつ生産されるようになっていた。
「装備としてどうでしょうか…… 魔力反応を起こすにはそれなりの訓練が必要でしょう」
難しい顔でケイトを見て答えるダグオンだった。話を聞いたケイトの目が輝いて足でドレスを踏み身をかがめてドレスへ伸ばした。ケイトの動きに反応しグレンの目が鋭くなった。
「もうこのドレス……」
ケイトがドレスを掴む直前にグレンがより早くドレスを掴んで持ち上げた。
「おっと!」
「キャッ!!!」
ドレスに片足を乗せていたケイトはグレンが引っ張ったことで、足を払われたようになり尻もちをついた。
「なっなにするんですか!」
尻もちをついたケイトが手をあげてグレンに叫ぶ。彼女を無視してグレンはドレスを横に突き出しララの前にだした。
「ララ! このドレスをたたんどいてくれ」
「えっ!? いいわよ」
両手を伸ばしてドレスに向けるララだった。彼女が手を動かすとドレスが浮かんだまま綺麗にたたまれていく。
「どっどうして? なんでたたんじゃうんですか!」
たたまれるドレスを見ながら悲痛な声をあげるケイトだった。グレンは前に出てケイトを見下ろして口を開く。
「ケイト…… お前ドレスを売る気だろ?」
「えっ!? あっ…… それは……」
グレンはジッとケイトを見つめながら話す。視線をそらしてしどろもどろで答えるケイトだった。
「売るなんて! とんでもない! 研究すればもっと!」
話を聞いていたダグオンが声をあげた。グレンは振り向いて小さくうなずいた。
「まぁそうだな。でも…… 決めるのは……」
グレンは視線をクレアに向けた。ノウレッジのルールではこのドレスの所有権を有しているのはクレアだ。
「どうする? クレア義姉ちゃん? これ!」
ララの前に浮かんでいるたたまれたドレスを指して、グレンがクレアに声をかけた。クレアは視線をダグオンに向けうなずいた。
「ダグオンさんに預けます。研究をお願いします」
「はい! 任せてください」
大きく力強くダグオンがうなずいた。クレアは微笑み続いてララに顔を向け口を開く。
「ララちゃん。ダグオンさんにドレスを渡してください」
「わかったわ。はい」
両手でダグオンはドレスを受け取った。ダグオンは上着のポケットから小さな宝箱を取り出してドレスをその中へしまうのだった。
「せっかくのお金が……」
ドレスがしまわれた宝箱を見ながら残念そうにつぶやくケイトだった。
「まったく油断も隙もねえな。自分のでもねえのに」
「大丈夫ですよ。お金にしたらちゃんとクレアさんには半分払いますよ」
「そうじゃねえだろ……」
売って金にしたら分け前を払うというケイトにグレンは苦い顔で首を横にふるのだった。会話を聞いていたクレアは口を尖らせる。
「嫌ですよ。売ったらそれで終わりですけど…… 研究してもらって作れるようなった方が儲けられますもん」
「ははっ。クレア義姉ちゃんの言う通りだな」
グレンとクレアは顔を見合わせて笑っていた。
「まったく…… クレアもずいぶんとがめつくなりましたわね」
「私達も教会務めじゃなくなりましたからね。しっかりと稼がないと大陸から追い出されちゃいますから!」
「ふふ」
うなずいてしっかりとした口調で答えるクレアにクロースは微笑むのだった。
ダグオンは宝箱を上着のポケットに入れるとクレアに向かって口を開く。
「もう大丈夫です」
「じゃあ行きましょうか」
うなずいたクレアが前にある聖堂を指す。グレン達は玄関ホールから聖堂へ移動するのだった。中は男女の十人以上の冒険者がベッドに縛られた状態で寝かされていた。首筋にいくつも噛み傷があり裸に近い恰好でベッドに寝かされた冒険者たちの惨状にララが思わず声をあげる。
「ひどい……」
悲し気な表情をするララの横をクロースとクレアが通り過ぎて行った。クロースはクレアに手を差し出し口を開く。
「クレア! すぐに血清をお願いします」
「はい。グレン君は見張りをお願いします」
鞄を肩から外しクレアは聖堂の中央の床に置いて開けた。クロースは鞄から血清を取り出し治療に向かう。クレアも彼女に続く。二人の姿を見たララは手をあげた。
「私も手伝う!」
「ぼっ僕も手伝います」
ララが名乗りをあげるとダグオンも続ける。二人を見てクレアは優しくほほ笑みうなずいたのだった。クレアたちは血清を持って冒険者達の治療を始めた。
「……」
聖堂の扉の脇に立って見張りをするグレンだった。扉の中央にはケイトが立って心配そうに聖堂の中を見つめていた。グレンは静かに彼女を見つめていたのだった。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとう……」
「グレン君! 終わりました」
冒険者の治療を終えてクレアがグレンに声をかける。グレンは玄関ホールを見て異常がないことを確認するとクレアの元へ歩いていく。
「ふぅ……」
治療を終えたクレアは鞄から水筒を出して一口飲んだ。そこへグレンがやって来た。
「数が多いな…… 確か十人じゃなかったか行方不明になったの?」
聖堂を見渡しグレンが首をかしげた。天井監視所で彼らがナウローから聞いた、行方不明の冒険者は十人だったが聖堂には十人以上の冒険者がいるのだ。グレンの言葉にクレアが答える。
「まとめていなくなったのが十人なんでしょう。その前や後にも行方不明者はいるってことですよ」
「あぁ。そういうことか。なるほどな……」
クレアの推測どおりで冒険者が大量に行方不明になったのが目立っただけで、前後に行方不明者なった冒険者もヴァンパイアにさらわれていたのだ。クレアの言葉にグレンは納得したようにうなずいた。
「グレン君も飲みますか?」
「あぁ。もらう」
クレアが持っていた水筒を差し出して来た。手を伸ばしてグレンは水筒を受け取り口を付けると、視線を聖堂の扉に向けた。
「ケイト! お前の仲間はここにいるか?」
「えっ!? あっ…… そうね……」
右手の親指を指して聖堂の奥を指してケイトに尋ねるグレンだった。ハッとしてケイトが聖堂の中へと駆けていく。ベッドに寝かされた冒険者たちを確認する彼女をグレンとクレアは静かに見つめていたのだった。
ケイトはベッドを回りながら冒険者達の様子を見ていた。彼女は冒険者を見たらすぐに次のベッドに移動していた。ケイトが何度目かのベッドの冒険者の顔を確認し振り向こうとした。
「いた!?」
「わっ!!!!!」
後ろからララが声をかきた。ケイトは痙攣したようにビクッとなって、背筋を伸ばし大きく伸ばした大きな声をあげた。
「ごっごめん…… でも…… そんな驚かなくても…… 患者さん起きちゃうよ」
「はははっ…… そうだね。ごめんね。いきなり声をかけられビックリしちゃったわ」
頭に手を置いてごまかすように笑うケイトだった。ララは不思議そうに首をかしげたのだった。近くで二人のやり取りをクロースが黙って見つめていた。




