第472話 食事にはなりません
崖から侵入したグレン達はじめじめとした階段を駆け上がり、薄暗い広い通路に出た。
「地下牢ですね……」
「そうだな」
クレアが大剣を持ったままつぶやいてグレンがうなずく。彼女らが来た通路はわずかな灯りが照らす石造り壁に鉄格子の扉が埋め込まれ並ぶ地下牢だった。
前を指すグレンが先行し前にでて鉄格子が並ぶ通路を進む。後から慎重に鉄格子の中を確認しながらクレアたちが進んでくる。通路進ん先にある扉をグレンは開いて中へ入った。
「どうやら当たりだな…… みんな来てくれ!」
グレンが扉の中から顔を出し皆を手招きして呼んだ。クレア達はグレンを追って扉の中へ入る。扉の中は小さな机が置かれ左右に武器が置かれた棚がある。牢屋の見張りの詰め所だろう。
「なにがあったんですか?」
「あれを!」
グレンが左側にある棚を指した。皆の視線が棚に向けられる。棚を見たクロースがやや弾んだ声を出す。
「あれはラピの金棒とキティルの杖ですわね」
棚の上にキティルの杖をラピの金棒が置かれいた。二人の物が置かれていることでグレン達はキティルとラピがここにいると確信した。
「急ぎましょう! もっと上に」
「あぁ。そうだな。行くぞ」
「待って下さい。あれを持って行きましょう」
ララとグレンを止めたクレアは棚の前へと移動し鞄を開ける。彼女は杖と金棒に手を伸ばしてつかんだ。
「絶対に助けますからね……」
クレアは強く誓うようにつぶやいて、杖を金棒を鞄の中に杖を金棒を鞄にしまうのだった。グレン達は地下牢から出て階段を上がった。
広く白い壁の廊下に出たグレン達だった。広い廊下には左右に並んだ扉がある。グレンとクレアは何もいわずとも左右に別れて扉を開けた。グレンは右、クレアは左の扉を開けた。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「こっちは終わりました」
「外れだ……」
扉を開けたクレアは中にいたヴァンパイアを大剣で真っ二つに切り裂いた。グレンが開けた扉には誰もおらず彼は顔をしかめて残念がった。扉を閉めた二人は顔を見合わせて笑うと前を向いた。
「なんで…… 敵が居ないと残念がっていると嬉しそうなんですの…… ノウレッジは野蛮ですわね」
意気揚々と前に出たまた扉を開けるグレンとクレアを見てあきれるクロースだった。
魔族とヴァンパイアを排除しながらグレンとクレアは玄関ホールへとやって来た。
「あれを!!」
クレアが玄関ホールの正面を指した。聖堂の扉が開いていて中の光景が見えた。
「敵だ!」
「殺せ!!!」
叫びながらグレン達の接近に気づいたヴァンパイアたちが聖堂から飛び出して来た。グレンとクレアは顔を見合わせるとすぐに駆け出していく。
「だから! 二人共! もう! させませんわよ!!」
ララとダグオンの横に立っていたクロースが怒りの表情を二人に向けた。彼女は持っていたハルバードの石突で地面を勢いよく叩きつけた。玄関ホールが暗くなりゴロゴロという音が鳴った。直後にけたたましい音が鳴り響き青白い光が激しく瞬く。
「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」」」
飛び出して来たヴァンパイアたちの真相が槍のようになった稲妻が貫いた。声をあげヴァンパイアたちは地面に倒れた。走っていたクレアとグレンが振り向いた。
「ずるいぞ! クロース」
「そうですよ! 抜け駆け禁止ですよ」
一斉にクロースに文句を言うグレンとクレアだった。クロースは眉間にシワを寄せ二人を叱りつける。
「なにがですか! 二人とも暴れすぎですわ! 一人くらい生かしておかないと話も聞けませんでしょ!」
「えっ!? あっ! 悪い…… つい熱くなって競争しちまった」
「そっそうですね……」
グレンとクレアは申し訳なさそうにしたのだった。
「なっなにをしている!!!!」
レイニーが二階の通路の上から下を見て、グレン達に向かって叫んでいた。通路の柵に身を乗り出すようにして倒れたヴァンパイアを見たレイニーの表情が怒りに満ちていく。
「同胞たちを……」
「あなたは誰ですか?」
大剣を持ってクレアがレイニーに声をかけた。レイニーはクレアを睨みつけ自分の胸に左手を置いて名乗る。
「我が名はレイニー! ガーディアンフォースの一人だ。貴様ら! よくも同胞たちを!」
怒りながらヴァンパイアの死体を指すレイニーだった。クレアは余裕の笑みを浮かべて答える。
「あなた達がだって人間を捕まえて血を吸ってますよね? だからこんな目にあうんですよ」
「貴様らも家畜を飼うだろ! 私達に食事をとるなと…… ぐわあああああああああ!!!!」
大剣を構えクレアが飛び上がりレイニーが立つ通路の近くへと飛んで来ていた。クレアは通路に向かって大剣を勢いよく振り下ろした。激しい音がして通路は大剣により破壊され崩れ落ちていく。
頭に血が上っていたレイニーはクレアの動きに気づかなかった。通路が破壊されいきなり足元がくずれバランスを失いレイニー通路の瓦礫と共に落ちていく。
「クソ!」
両手をレイニーの背中のドレスを浮き破り翼が出てきた。彼女は翼をはためかせ上へと戻っていく。
「なっなにをする! 貴様……」
戻ってきたレイニーはクレアを睨み叫ぶ。クレアは崩れた通路の前に浮かびながら剣先を床に向けそっとレイニーに顔を向け大剣を構えた。
「そうですよ…… 食事になりたくないから私は戦うんです。私達は勝ち取るんですよ! ヴァンパイアの居ない世界を!」
言い終わるよりも前にクレアはレイニーとの距離を詰めていく。
「クックソ!!!」
近づくクレアを見たレイニーの両腕が強く緑に光った。棘が生えたバラの茎が彼女の両腕に螺旋状に巻き付いた。クレアはレイニーの距離を詰めると彼女の首を狙って大剣を横から繰り出した。
レイニーは左腕をクレアの大剣の軌道へと持って行った。大きな音がしてクレアの大剣とレイニーの左腕が激突した。しかし、レイニーの左腕はクレアの大剣を止められず押し返される。
「なっ!? クソ!」
左腕が弾かれそうになり慌ててレイニーは右腕を大剣にぶつけ両腕で防ごうした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
耐え切れずにレイニーは吹き飛ばされて壁にぶつかった。大きな音がして壁が丸くへこみ砂埃が天井から舞う。クレアは視線をレイニー向けると大剣を構え飛んで行く。
「なんて奴なの! ハッ!!」
首を横に振りレイニーは両腕を広げるようにして胸を突き出いた。ドレスの中央のバラが赤く光って無数の棘が生えたバラの茎がクレアに向かって飛んで行く。
「はっ!」
大剣で最初に向かって来た茎を切り落とす。次々に迫る茎をクレアは素早く大剣を動かし切り払って行く。横から大きく迂回した茎がクレアのが背後から迫って来た。視線をわずかに動かしたクレアは左腕の拳を握った。彼女の拳から小さな光の剣が伸びた。
「はああ!!!」
勢いよく振り向いたクレアは持っていた光の剣を背後から迫る茎に向けた。光の剣が伸びて行き茎を切り裂いた。
すぐに前を向いたクレアの視線に大量の茎が映った。右手に持った大剣と左腕の光の剣をクレアはクロスするように振り抜いた。二つの剣が前から迫る茎を全て切り裂いた。
クレアへと向かって来た茎は全て切り落とされて床に無数のバラの棘が落ちて行った。
「強い…… バカな…… なぜだ…… このドレスは…… 力は…… 勇者オリビアさえも凌駕する…… はず」
レイニーから十メートルほど先に二本の剣を持って黙ってクレアは浮かんでいた。
「無理ですね…… オリビアちゃんはもっと強いですよ。馬鹿にしないでください」
首を横に振って笑ったクレアは両手に持った大剣を構えた。




