第471話 これは二人の分
湖の上を大きく迂回しながらグレン達が城へと迫っていた。城より高い位置にダグオンを抱えたグレン、ダグオン、ケイト、クロース、ララが飛んでいる。湖面スレスレを一人でクレアが飛んでいて彼女はグレン達よりもかなり先行していた。
「うん!? そうか見つけたのか?」
視線を下に向けたグレンがつぶやいた。クレアが振り向いてグレン達に手を振って前を指した。視線をクレアが指方角へ向けるグレンだった。城の下部は崖のようになっていた。崖の湖面に面したところに真新しい木で組まれた桟橋がグレンに見える。桟橋には三人の人が立っているのが見える。おそらくヴァンパイアだろう
「あっ!!!」
グレンが声をあげクレアが左手を前に突き出した。細長い光の剣が伸びていった。一瞬で桟橋に到達した光の剣は桟橋に立っていた三人の胸を貫いた。
クレアが右腕を引くと光の剣が消えていった。彼女は振り向いてグレンに向かって再び桟橋を指して速度を上げて飛んで行く。グレン達は彼女を追いかけて飛んで行く。
「ふぅ」
クレアが最初に到着した。彼女は右手を大剣に手をかけ倒れたヴァンパイアの元へと駆けていく。そこから次々にグレン達が桟橋に到着した。
「あーあ……」
ララを桟橋に下したグレンは桟橋の上に転がる三体のヴァンパイアを見て声をあげる。胸を貫かれていたが心臓を外れていたのか傷が修復していく。クレアは大剣の先で倒れたヴァンパイアの顎を上げ首筋をジッとみつめている。
「何しているの? クレアは?」
「遠くから仕留めたからヴァンパイアか確認しているんだろ?」
「うん!?」
首をかしげるララだった。グレンは彼女を見て尋ねる。
「ヴァンパイアと吸血症の違いは?」
「あっ! そうか! 吸血症は首のどこかに牙で噛まれた痕みたいな痣ができるのよね。ないやつはヴァンパイア!」
「正解だ!」
クレアは倒れたヴァンパイアが本物か確認していたのだ。首筋を確認し大剣の先を下に向け、クレアは淡々とヴァンパイアへと振り下していく。
「ギャッ!!!!」
「ギャッ!!!」
「ギャッ!!!!」
次々にヴァンパイアの心臓を大剣で貫くクレアだった。クロースはクレアの手際の良さにあきれて笑っていた。桟橋の奥には城への入り口か金属の鉄格子の扉が見える。
「なっなんだ!? こいつら!!!!! クソ! みっみんな……」
扉が開けて中から剣を持った紫色の魔族が出て来た。魔族は扉を開けて桟橋に立つグレン達に気づき中へ戻ろうとした。
「グレン君! 魔族とヴァンパイアは排除! それと…… えっ!?」
大剣を構えクレアが振り向いてグレンに指示をだす。指示の途中でクレアの視界がコートで覆われた。直後に彼女の横を剣に手をかけた姿のグレンが猛スピードで通り過ぎていった。グレンがコートを脱ぎ捨て魔族へ向かっていったのだ。
一瞬で通り過ぎていくグレンの動きに、反応できたのはクレアとクロースだけだった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
グレンは魔族との距離をつめ前に移動した。魔族は視界にいきなり現れたグレンに驚いていた。ニヤリと笑ったグレンは剣を引き抜くと同時に魔族の首を斬りつけた。魔族の首が床に転がり体が後ろに倒れ鉄格子の扉を閉じて音を立てた。グレンは倒れた魔族を見て顔をクレアに向けた。
「吸血症は治療だろ? ほら! 血清を用意しときな。俺が全部片づけてやるからな」
「ダメです! 私が先に……」
「やーだよ! 天使の涙と違って暴れて良いんだからな!」
振り向いて舌を出し手を振ってグレンは一人で扉の中へと消えていった。
「もう! 行きますよ。みんな!」
クレアは慌てて彼を追いかけるのだった。彼女をケイト、ララ、ダグオンも追いかけていくのだった。
「まったく…… 二人とも無茶苦茶なことしますね。というか迂回して隠密に侵入した意味は! もう!」
桟橋の上で一人残されたクロースが叫び声をあげ、あきれた顔で皆を追いかけていくのだった。
城内へ侵入したグレン達は岩がごつごつした通路を進んでいた。通路ではヴァンパイアや魔族たちが襲い掛かって来たが彼らは手当たり次第に排除していった。
何人目かのヴァンパイアの胸をグレンの剣が貫いた。グレンは左手をヴァンパイアの肩に手をかけ押して引き抜いた。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
背後で声が聞こえグレンは顔を横に向け視線を後ろに持って行く、冒険者風の男が剣を振りかぶりグレンへと迫って来ていた。グレンは即座に振り返りとっさに左肩をつかんでいたヴァンパイアを盾にする。グレンは左腕一つでヴァンパイアの体を持ち上げ振り下される剣の軌道へ持って行く。
「ガウア!??!!!!!!!」
男の剣が盾にされたヴァンパイアの頭に落とされ鈍い音が響く。男は悔しそうな声をあげる。グレンはそのまま前に出てヴァンパイアを押し付けるようにして男にぶつかる。
「ゴウフ!!!!」
グレンは左腕を強く押し出し手をはなす。男はヴァンパイアで押し潰されたようになり、声を上げバランスを崩す。男とヴァンパイアが折り重なるように倒れた。仰向けに倒れた男の上にヴァンパイアがうつ伏せに折り重ねっている。右腕を引いてグレンはヴァンパイアの背中に勢いよく突き出した。
「グギャアアアア!!!」
男はグレンの剣で腹を付かれて悲鳴をあげた。床に血だまりが広がっていく。グレンはヴァンパイアの背中に足を乗せて剣を引き抜いた。
グレンはヴァンパイアを蹴り上げ男の上からのけた。彼は首筋を確認すると心臓を剣で貫いた。
「グギャッ!!」
「こっちはヴァンパイア…… こっちは吸血症か…… クレア義姉ちゃん! 血清を!」
後ろを向いて男の首筋を確かめた、グレンは左手をクレアに向け出して血清を要求する。クレアは黙ったまま動かずに大剣を肩にかついでグレンに口を開く。
「グレン君も持ってますよね? 自分のを使ってください。皆! ここはグレン君に任せ先に行きますよ」
「あっ! クソ! もう……」
大剣をかついだままクレアはクロース達を連れて廊下を先に行ってしまった。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
クレアが曲がった先で悲鳴が聞こえる。おそらく彼女が大暴れをしているのだろう。悲鳴を聞いてグレンは顔をしかめた。
「お前は行かないのか?」
「別に良いでしょ!」
視線を横に向けたグレンに腕を組み不服そうにしているララが見えた。グレンはポケットに手を突っ込み血清が入った瓶を取り出し適当にララに投げた。
「暇ならこれをやれよ!」
「わっ!?」
グレンは倒れた男を指してララに治療をするように指示をした。彼女は血清の入った瓶を持って不服そうに口を尖らせる。
「なんで私が!」
「あっそ…… じゃあ俺がやるからそこで見てろ」
「やるわよ! どいて」
ララはグレンをどかして男の元へ向かう。顔をしかめ不服そうなララだったがどこか嬉しそうだった。手際よく治療を終えグレンの元へララが戻って来た。
「終わったわ……」
「もう大丈夫そうだな」
「ふん。当たり前よ。私は天才なんだから」
うなずくグレンに腕を組んで胸を張って勝ち誇るララだった。グレンは嬉しそうに彼女を見て笑った。
「じゃあ…… これを持っておけ」
「わっわ! 危ないでしょ」
グレンはポケットから二本の血清の瓶を出してララに投げた。ララは瓶に手を向け特殊能力で受け取った。
「なんでこれを私に?」
受け取った血清の瓶を見ながらララはグレンに尋ねる。グレンは剣の血を拭い彼女に答える。
「二人の分だ…… キティルとラピがお前も治療できるように渡しておく。二人以外には使うなよ」
「わかった!」
パッと顔を明るくしてララはうなずいた。二人はクレアを追いかけて城の奥へと進んでいく。




