第470話 城の中は
白い壁に囲まれた広い廊下。床はフカフカの絨毯が敷かれ、高い天井には豪勢な金色に装飾されたランプが灯りをくれる。輝く棚には置かれた金色に塗られた燭台や綺麗な花が飾られている。
「見ろ! つい昨日まで湖にあったとは思えないだろ! 一切の汚れがない」
両手を広げてバーガンが振り返った。彼のすぐ後ろを歩いていたキティルとラピが立ち止まって周囲の壁や棚に視線を向ける。二人の後ろにはケイオスが監視するように立っていた。牢屋から出されキティルとラピは階段を上がってこの廊下へと連れて来られた。
「はぁ……」
「んだな……」
興味なさげにバーガンに相槌をうつ二人だった。バーガンは二人の反応に軽く顔をしかめるとすぐに前を向いた。次に棚に飾れた花の花瓶を手に取った。
「うーん。やはりここの装飾品は素晴らしい。ここは古代文明の王侯貴族が使用したんじゃないか」
金色に輝き綺麗な絵のような模様が施された、花瓶をまじまじと見ながらバーガンは嬉しそうに唸っている。ラピとキティルは彼の様子を静かに見つめていた。
二人の様子に気づいたバーガンが首をかしげ口を開く。
「なんだい? つまらなそうにして…… 君も冒険者だろ? 古代の遺跡に興味はないのかい?」
「まぁ…… そうですが……」
気の抜けたような返事をするキティルだった。バーガンは失望したように顔をしかめた。
「チッ…… 面白くないやつらだ。だったらこういうのはどうだ?」
バーガンが右手を後ろに持って行きマントをさすった。彼のマントが銀色に変わった。
「あれは……」
「銀色だべ!」
驚いた顔をするキティルとラピにバーガンは満足そうにうなずいた。
「面白いだろ? ここにはこういうものがたくさんある。さぁさっさと行くぞ」
顎で廊下の先を指した、バーガンはキティル達に背中を向けズカズカと歩き出した。キティルとラピは彼の後に続いて歩き出す。ケイオスは黙ったまま三人の後を付いていくのだった。
廊下を歩き少しして巨大な金属の扉が見えて来る。扉の脇に見張りの背中から翼を生やした紫色の魔族が立っている。歩いて来るバーガンを見た魔族は扉を開ける。巨大な扉がゆっくりと開かれ音が廊下に響く。
扉まで来たバーガンは立ち止まりキティルとラピに体を向け中を指す。
「さぁ。中へ!!! 城の主が君達を待っている」
「えっ!? えっと…… わっ!?」
「押すなべや!」
廊下に立ち止まりキティルとラピが躊躇するが、すぐに後ろからケイオスが二人を押す。二人は押し込まれるように扉の中へ入る。
中は長方形の空間で石の床には綺麗な魔法陣のような細工が施されている。両脇には白く綺麗な柱が等間隔に並んでいる。バーガンがキティルとラピを先導し三人の後を少し離れてケイオスが続く。
「あっあの人は……」
部屋の中ほどで前を見ていたキティルがつぶやく。奥には色とりどりのステングラスから光が差し込み、高い台座の上に玉座が置かれているのが見える。玉座にには赤い色の体色をした紫色の髪の長い魔族の女性が座っていた。魔族の体色は赤く長い髪を後ろに丸め、横には羊のような丸い角が生えている。顔はやや細長く顎が鋭く目は丸く真っ赤な瞳をもち鼻は高く唇は薄いピンク色をしている。濃いピンク色のドレスに白のヒールが高い靴を履いている。ドレスの中心はバラの模様に細工されていた。
玉座の前で歩いて来るとバーガンは立ち止まり魔族の女性に頭をさげる。
「連れて来ました……」
「遅いわよ! まったく……」
不機嫌そうに足を組んでバーガンを睨みつける魔族の女性だった。女性は視線をキティルとラピに映した。
「これがヴァンパイアハンター…… ふっ…… さっさと潰せそうね……」
「なんだべ! おめさは!」
「ラピちゃん…… ダメよ」
二人を見て馬鹿にしたように笑う魔族の女性にラピが指を指して叫ぶ。慌ててキティルがラピが止めにはいるのだた。魔族の女性はラピを見下し笑って自らの胸に手を置いた。
「あたしはレイニー…… ガーディアンフォースの一人でウォルフ様からこの城を任されているわ」
「レイニー…… ガーディアンフォース……」
キティルはジッとレイニーを見つめていた。レイニーはキティルを見てニヤリと笑いバーガンを手招きして呼ぶ。バーガンは頭を下げるとすぐにレイニーの横へ移動する。
「もうちょっとこっちに来て」
「はっ!?」
レイニーはバーガンにさらに近づくように手招きする。身をかがめたバーガンの耳元でレイニーはキティル達に目を向けささやく。
「こいつらの仲間は?」
「早朝に町を出たはずです。そろそろ到着するかと」
バーガンが小声で答えるとレイニーは満足そうにうなずいた。バーガンが体を起こすとレイニーは立ち上がった。
「二人は第三血療室行きよ。バーガン! 一緒に来なさい」
「あそこですか…… 行くまでに襲われてしまうのでは?」
「だからあたしが連れて行くんでしょ……」
「わかった。ケイオス! 二人を連れて来い!」
レイニーはバーガンに指示を出すとツカツカと一人で歩いて扉へと向かって行く。バーガンは彼女に続く。ケイオスはキティルとラピを引っ張りレイニーの後を追わせる。
扉から出た三人は廊下を先ほどと逆に進む。しばらく行くと吹き抜けの空間へと出る。ここは城の玄関ホールで扉から正面に開かれた巨大な高さ五メートルはあろうかという金属の扉が見える。キティル達は二階におりホールの手前に横断するようなある通路を歩いていく。
「あれは…… 血を……」
通路の途中で巨大な扉の向こう側を見たキティルがつぶやいた。扉の向こうは教会の聖堂のような場所のようで奥に祭壇が見える。祭壇の手前にはベッドが並び冒険者風の男女が寝かされている。彼らにはヴァンパイアが上から覆いかぶさるようにして血を吸っていた。
「あぁ。あれは新血療隊ね。あたしたちには新鮮な血が必要だからね。あいつらに頑張ってもらっているさ。盛り上がったら性欲も処理もしてもらっているのさ」
視線を扉の向こうに向けレイニーが弾んだようすで答える。バーガンが視線を巨大な扉からそらしていた。聖堂の中を見たラピがレイニーに怒りの目を向ける。
「おめらは…… なしてこんなことをするだべか!」
振り向いたレイニーはラピにムッとした顔で答える。
「なんだい? あたしらには食事をするなと言っているのか?」
「えっ!? なっなして……」
言葉につまるラピを見下したような目を向けレイニーはさらに言葉を続ける。
「あんたららは家畜を飼うだろ? 肉を食べたいか血を飲みたいかの違いしかない」
「でっでもな…… がっ!」
ラピの口にキティルが手を置いて黙らせた。口をふさがれ驚いた目をキティルに向けるラピだった。キティルはラピに優しくほほ笑み首を横に振った。
「いいのよ。ラピちゃん。間違いじゃない。彼らにとって食事だもん。私達は……」
「ふーん。あんたは物分かりが良いみたいね……」
キティルの言葉にレイニーは笑ってすぐに前を向いて歩き出した。レイニーが歩き出すとキティルはラピから静かに手を離した。
「なっなして…… オラたちは…… グッ……」
静かにするようにと口元に人指し指を当てラピに首を横に振るキティルだった。ラピはキティルの指示に悔しそうに従う。キティルは満足そうにうなずいた。
「えぇ。そっちが食事だというなら…… こっちにとってヴァンパイアは言葉が通じるだけの害獣なだけよ……」
誰にも聞こえないようなすごい小さな声でつぶやいたキティルはレイニーの背中へ冷たい目を向けたのだった。
レイニーの先導で廊下を端まで進んだ。端は尖塔につながっていたのか螺旋階段があった。キティルたちは階段を上っていく。しばらく階段が上がると
「ここは…… 水が……」
階段の先には広い部屋だった。部屋は水が張られ水槽もしくはプールのようになっており、縦横百メートルほどの大きさがある。
プールの壁には幅一メートルほどの通路があり階段から通路へと移動しキティル達が歩く。
「すごいだろ? 城の中に湖があるんだ…… そして底には……」
歩きながらバーガンがプールの底を指した。キティル達が視線を向ける。波打つプールの底に巨大な黒い影があり丸く大きな二つの巨大な青い光が見えた。




