第468話 待っている人がいる湖
ケイトと合流したグレン達はエンドレスアイスを向けて歩みを続けた。しばらくして八十三階と同じように林道へ入る。先頭はクロース、ケイトとダグオンとララが続きグレンが居て最後尾にクレアが続く。
林道を進むグレンは周囲を見渡す、木々の間から静かに波打つエンドレスアイスが見えてのどかな光景が続いていた。
「やに静かだな……」
「別にいいじゃない。八十三階でもこんな感じだったでしょ」
静かだとつぶやくグレンにララが少し小馬鹿にしたように答える。グレンはララに向かって眉間にシワを寄せて睨む。ララは舌をだして前を向く。
クロースが静かに降り返って二人にほほ笑む。
「ほら! グレンさんがそんなこと言うからお迎えが来たみたいですわよ」
視線を前に向けたグレンは林道の先から何かが近づてくる気配を感じた。同じ気配を感じたのかクレアが最後尾から前に向かって来て声をかける。
「みんな。道からそれて木の後ろに隠れてください」
「わっ!? なっなによ! クレア」
「わかった」
「えっ!? グレンさん!?」
クレアがララを抱えて連れて道の外へ向かい、グレンはクレアと同じようにダグオンを抱えて続く。
道から林の中へ入ったグレン達はそれぞれ木の後ろに隠れた。クロースとケイトがそれぞれ木に隠れて様子をうかがう。クレアはララ、グレンはダグオンを前に置いて抱えるようにして木の裏に隠れている。
木に背中をつけこっそりと林道を覗くグレンだった。
「あれは……」
林道の先から右手に槍を持った冒険者風の男が歩いて来た。男は目が赤くわずかに光り、口元に牙が生え端からよだれを垂らし足元がふらついている。
「グアラ達みたい…… ねぇ!? 彼らはなんで自我がなくなったんですか?」
歩いて来た男を見たケイトがクロースに尋ねる。クロースはグレンと違い木と向かい合うようにして密着しながら首を斜めにし男とを確認する。
「あれは吸血拒否症状ですわね…… 噛まれた時や吸血症の症状が出た時に強い拒否感情を持つと自我を失ってしまうんですのよ」
「へぇ」
「吸血拒否症状が出ている時はヴァンパイアたちに支配され彼らの命令しか聞きません。完全にヴァンパイアになると自我が戻ってきます」
男を見たクロースがケイトに答える。人がヴァンパイアに噛まれると吸血症になり時間が経つとヴァンパイアへとなってしまう。ヴァンパイアになることに恐怖や嫌悪感を覚え拒否すると自我を失ってしまうのだ。
「なるほど…… 噛まれ気づいた時には自分がヴァンパイアなんて最悪ですね……」
「えぇ。だから彼らに好き勝手させてはいけませんのよ」
話を聞いていたケイトは顔をしかめている。クロースは彼女を見て小さくうなずくのだった。
「クロースちゃん…… お願いします」
「わかりましたわ」
顔を前にだし横に向けクロースにクレアが指示を出す。クロースはうなずいて答える。
「どうするんですか?」
「ヴァンパイアは処分ですわ…… でも……」
ケイトに答えるクロースはクレアに向かって口を開く。
「血清は? まだありますの?」
「大丈夫ですよ。余分に持ってますから! ただ…… 念のためラピちゃんとキティルちゃんの分は残しておかないといけませんね」
「わかりました。じゃあ…… すぐに準備をしといてくださいまし」
「はーい」
クレアの返事を聞いたクロースは笑顔で、うなずくと背中のハルバードに手を回して外すと木の陰から出て林道へ向かった。クロースは右腕を伸ばしハルバードを先を下に向け持って、ふらつきながら歩く男の前に飛び出した。
「うがあああ!?」
目の前に現れたクロースに驚き、一瞬ひるむ男だったがすぐに槍を構え彼女に向かって突き出す。クロースは右腕に持ったハルバードを勢いよく振り上げた。クロースのハルバードが男の槍を弾く。
「うがあああああああああああああああああああ!!!」
槍を弾かれた男は両手を上げた姿勢になり、衝撃で槍が離れて背後へと飛んで行く。クロースは左腕を伸ばし振り上げたハルバードの柄を掴むと両腕を引いて体の近くに持って来て前に出る。
クロースは左腕を引いて男とすれ違いながら、同時に左腕を前にだし柄で男の腹を殴りつける。
「グギャ!!!」
柄で腹を叩かれた男はくの字に曲がり苦しそうな声をあげた。苦痛に顔を歪め男は足から力が抜けて膝をついてうずくまる。クロースは男の前に移動するとハルバードを振り上げ、柄頭を男の頭に向けて勢いよく振り下ろした。
「がはっ!!!!!」
鈍い音が林道に響き男は声をあげうずくまったまま動かなくなった。クロースは静かに林道の脇に並ぶ木に視線を向け声をかける。
「クレア! もう大丈夫ですよ。彼に血清を」
「わかりました」
木から顔をだしクレアはクロースに返事をした。彼女が振り向いて木を背にして鞄を腹の前に置いて血清を探す。クレアの前でララがって血清を探す様子を真顔で見つめていた。
グレンとダグオンとケイトはララとクレアよりも早く林道に出て来た。グレンが男を見張るクロースに声をかける。
「あざやかなだな」
「えぇ。すごいです。さすが勇者オリビアの第一の仲間”白い閃光”ですね」
「やめてくださいな」
ダグオンとグレンに褒められ恥ずかしそうにするクロースだった。ちなみにダグオンが口にした白い閃光とは勇者パーティ時代のオリビアの通称であり主に子供の間に流行った。
「あった! よし行きましょう」
クレアは血清の入った瓶を鞄から取り出した。すぐにクロースの元に向かおうとするクレアだったが、何者かが彼女のスカートの裾をつかんで止めた。
「どうしたの? ララちゃん?」
止められたクレアは振り返るとララが真剣な顔で彼女のスカートを強く握っていた。クレアは優しくほほ笑んでララニ問いかけた。
「ねえ…… クレア」
「はい」
「あっあいつの治療…… 私にやらせて……」
男の治療を自分にやらせてほしいというララだった。ジッと自分を見るララにクレアは首をかしげた。
「どうしてですか?」
「わっ私は見習いだし…… 色々経験をしないと…… 使い方は教わったけど自信ないし」
真剣な表情をして治療をしたい理由を話すララだった。ララの言葉を聞いたクレアは彼女の頭を優しく撫でる。
「そうですね。わかりました。いいですよ」
「ありがとう…… それで…… それでね。一緒に……」
「もちろんですよ。ちゃんと見てますよ」
しゃがんだクレアはララに血清が入った瓶を渡した。ララは笑顔で瓶を受け取った。クレアはララと手をつなぐ。二人は手をつないでクロースの元へとやってきた。クロースの視線がララが持つ血清の瓶へ向かう。
「あら!? ララがやるんですか?」
「そっそうよ。任せて」
少し自信なさげに返事をするララだった。クロースはクレアに視線を向けた。クレアはクロースに自信あふれる笑顔でうなずいた。小さく息を吐いたクロースはララニほほ笑む。
「頼みましたわよ」
「うっうん」
うなずいたララが男の横にしゃがみクレアも続いて彼女の隣にしゃがむ。ララは男の装備を外し服をめくって胸を露出させる。
「はい。これを……」
クレアは鞄から二十センチほどの細長く先が尖った葉を取り出しはララに渡した。葉の中は空洞になってストローのようになっている。
「これが聖針…… カロン樹の葉っぱですね。聖水とアルコールで消毒してあります」
「瓶の口にこれを差し込んで……」
口に出しながら血清が入った瓶の口をあけカロン樹の葉を差し込むララだった。
血清の瓶の口とカロン樹の葉の幅はほぼ同じで差し込むのにララは苦労していた。クレアは彼女のつたない手つきを心配そうに見つめている。
「出来た!」
声をあげララがクレアに瓶を見せて来る。しっかりと差し込まれたカロン樹の葉を見てクレアは笑顔でうなずき口を開く。
「聖針をつかんで圧迫して持って…… 心臓に一気に差し込んで手を離すんですよ」
「うっうん…… わかった」
クレアの指示通りララは左手で、瓶の口元のカロン樹の葉をつまんで潰すようにようして持ち右手に瓶を逆手に持って振り上げた。視線を男の胸に向け一気に振り下した。尖ったカロン樹の葉が男の胸に差し込まれた。ララが左手を離すと瓶の中の血清が男へと流れこんでいくのだった。




