第466話 事後処理はちゃんとして
早朝。カーテンから木漏れ日が差し込む薄暗い部屋。キーっという音がして扉が開き暗がりから誰かが侵入してきた。
男女の交じり合った独特の匂いが、湿った空気と共に漂っている。部屋に入った灰色の髪に侵入者が手を口と鼻に軽く当てた。
「まったくもう少し声を押さえてくださらないと…… うるさくて眠れませんでしたわ」
クロースが首を振りムッとした顔をした。彼女の視線先にはベッドの上に仲良く並んで眠る、グレンとクレアの姿が見える。
かけられたシーツの隙間から覗く二人の肌が夜に燃え上がったまま眠りついたことを物語っている。
「いやらしい…… でも少しだけ……」
グレンに頭を抱え込まれるようにして抱きしめられて寝る、クレアをうらやましく見つめるクロースだった。彼女はベッドに座るとグレンの肩に手をかけ軽く揺らして起こす。グレンはパッと勢いよく目を開いた。
「はっ!? くっクロース…… なんでここに……」
「ふふふ」
目の前で座ってクロースの顔を見て、グレンが目を大きく見開いて驚き動揺していた。グレンの姿を見てクロースはほほ笑みすぐに渋い顔をして扉を指した。
「不用心ですわよ。鍵もかけず……」
「えっ!?」
扉を指して答えるクロースだった。グレンは飛び上がるように体を起こし青い顔で扉を見つめていた。熱くなりすぎた二人は戸締りを忘れていたようだ。グレンの様子を見てあきれた顔をした。
「それにあんなに激しい声をだして……」
「うへっ!? きっ聞こえてのか?」
「えぇ。あんなに大きな声で互いの名前を呼べば聞こえますよ」
「うっ……」
うなずいて少し恥ずかしそうに話すクロースだった。彼女の話を聞いてハッとしたグレンは青ざめて頭を抱えるのだった。グレンを見てクロースは口元を緩ませ話す。
「大丈夫ですわ。ララとダグオンさんは寝てましたから私にしか聞こえてませんよ……」
「そっか……」
「ふふ」
ホッと安堵するグレンだった。クロースはふと彼の後ろに視線を向けいたずらに笑う。
「えっ!?」
クロースはグレンと並ぶようにしてベッドに腰かけ彼の膝に手を置く。彼女の行動にグレンは驚いて声をあげている。
すっと体を密着させたクロースはグレンの肩に頭をのせ、彼の胸に手を持って行き指先でなぞる。
「次は私も少し愛されたいですわね…… 良いですか?」
「クックロース!? 何言っているんだ! ダメに決まってるだろ」
グレンはクロースの両肩をつかんで離した。クロースは舌を出してグレンにいたずらに笑って彼の手を肩から丁寧に外して立ち上がる。クロースは体を傾けグレンの顔を覗き込む。
「冗談ですわ。すぐにクレアを起こしてくださいまし…… 出発しますよ」
「えっ!? ホッ…… あぁ。すぐに行く」
安堵の表情を浮かべるグレンにクロースは笑顔で手を振って部屋から出て行った。
「今は…… 冗談ですけどね……」
扉を閉めたクロースは背中を扉につけてうつむいてつぶやくのだった
「まったく…… たちの悪い冗談……」
閉じられた扉を見てグレンは両手を背中の後ろに置いて天井を向いた。
「じー……」
「えっ!? あっ!? クックレア義姉ちゃん!」
視線を感じて振り向くとクレアが頬を膨らませグレンを睨みつけていた。グレンは必死にごまかそうと笑顔で彼女に口を開く。
「えっと…… 見てた? どこら辺から?」
「クロースちゃんが隣に座ったくらいからですね」
「そっそっか…… ごめん」
いろいろとごまかそうと考えたグレンだったが、諦めた彼は素直に謝ることにした。だが、謝罪だけで義姉は許さない。
「浮気者! 私のだって言ったのに!」
「ちっ違うだろ! 俺は何も……」
「べー! 嫌いです」
シーツを持って寝返りを打つようにして、グレンに背中を向けるクレアだった。慌ててグレンはベッドに膝を乗せて彼女にまた謝るのだった。
「ごめんって……」
「ぶー。グレン君は隙が多すぎです」
「わかったよ。今後気をつけるから……」
「プク」
頭をかきながら答えるグレンを疑った顔で見つめるクレアだった。クレアはプクっと頬を膨らませた。
「じゃあ抱っこ! 抱っこしてくれたら許します」
両腕を広げ抱っこを抱っこをせがむクレアだった。シーツがずれて彼女の胸があらわになり、わずかにずれた隙間から昨日の大浴場で聞いた胸の下にある小さなほくろが見える。グレンの視線が揺れて見え隠れするほくろに釘付けになっている。
ジッとしているグレンにクレアは口を尖らせた。
「早く! 抱っこー」
「えっ!? わかったよ。ほら!」
「わーい」
グレンはクレアに近づき彼女を抱きしめるとそのまま下がってベッドから下りた。ベッドの横でグレンはクレアを背中と膝を持ち、いわゆるお姫様抱っこをしていた。なお、二人は愛し合ったままの姿…… つまり全裸である。グレンの首に手を回し顔を近づけ頬を赤くするクレアだった。
「グレン君! さすがに少し恥ずかしいですね……」
「大丈夫だよ。うるせえな」
「んっ…… もう…… んっんちゅ」
クレアの口を自分の唇で塞ぐグレンだった。クレアの目はとろんとして目をつむり彼の下半身が再びたぎりだす。グレンとクレアは裸のまま熱いキスをし二人の世界に入っていく…… 直後に部屋の扉が勢いよく開かれた。
「グレーン! まだ着替え終わらないの? ダグオンが準備を…… いっ!?!?!?」
「ララちゃん!? どうして」
「しまった! 鍵を……」
開いた扉からララが勢いよく飛び込んで来た。裸でクレアを抱っこするグレンの姿を見てララは固まった。ララの視線はグレンの大きな股間に固定されているようだ。
慌てるクレアとグレンだった。ララに続いてクロースが部屋に入って来る。
「ララ…… ダメですわよ勝手に……」
クロースが部屋に入り裸の二人を見て大きく目を見開き声をあげる。
「まぁ! 何してるんですか!」
「グレン君!」
「わっわっ」
慌ててクロースとララに背中を向けるグレンだった。クレアはシーツをベッドの引っ張って体にかける。
「なっ何もしてませんよ」
「そうだ。急にララが入って来たんだよ……」
グレンとクレアの二人が必死に言い訳をする。クロースは腕を組んで二人を睨みつける。
「わたくしは注意をしましたよね? 鍵もかけず不用心だと!」
「うっ……」
「ごめんなさい……」
しょんぼりとする二人を見て満足げにうなずいたクロースはララの肩に手をかける。
「だからダメって言いましたわよね」
「うっうん…… ごめん…… あっあんなに…… 怖いけどすごい……」
ララは小さくうなずき目を大きく見開いたままうなずいていた。クロースはララを引っ張り部屋の扉から出て行く。
「さっさと準備しなさいね!」
扉の手前で振り返ってグレンとクレアに注意をして出て行くクロースだった。ばたんという大きな音が部屋に響いたのだった。
「準備しましょうか……」
「あっあぁ……」
グレンはクレアを下した。グレンは萎えてしまった自分を隠そうと下着を探す。クレアはベッドの下に落ちていた、黒く丸まったショーツをを拾い伸ばして履くのだった。
「まったく…… ララに謝りなさいね」
「わかってますよ」
「あぁ。何度も言うなよ」
宿の前でクロースに注意を受けるグレンとクレアだった。ララはダグオンの準備を手伝いまだ宿から出て来てない。
「お待たせてしました」
少ししてララとダグオンが一緒に出て来た。グレンとクレアはララに声をかけようと近づく。
「ララちゃん……」
「ララ……」
「あっ…… いいよ。大丈夫! いいなぁ。二人は仲が良くて!!!」
「わっ!? ララさん!?」
グレンとクレアから目を逸らして気まずそうにララはダグオンを引っ張って行ってしまった。グレンとクレアは寂しそうにララを見ていた。
「ふふ。しばらくは気まずいでしょうね。覚悟はしてたといえ…… 憧れの人が愛し合っているところ見てしまったんですから……」
三人の様子を見ていたクロースはほほ笑んでいた。グレン達はエンドレスアイスを目指して出発するのだった。




