第464話 夜の移動は避ける
ニコライとのエンドレスアイス行きを賭けた勝負は順当にグレンが勝利した。グレン達はエンドレスアイスへと向かうため広場から移動を始めた。
広場から通りに出たグレン達は道の脇に立ち止まっていた。地図を開いたクロースを中心にグレン達が囲むように立っている。
「今から移動すると夜になりますね……」
「途中で休憩が取れる場所はありますか?」
エンドレスアイスは少し遠く今から移動すると夜になるというクロースにクレアが尋ねる。地図を下したクロースは残念そうな表情をクレアに向け首を横に振った。
「ないですわね。湖の脇に狩人が利用する宿泊所があるだけですわね」
天井監視所からエンドレスアイスの間に宿泊所はない。エンドレスアイスの近くに狩人が利用する宿泊所があるだけだという。クレアは少し考えてから口を開いてクロースに答える。
「じゃあ…… 今日は町に泊まって早朝に移動しましょう」
「ダメよ! キティルとラピが捕まっているのに!」
夜間の移動を避けて泊まろうというクレアをすぐにララが拒否した。ララはいち早くキティルとラピを助けるべきだという。
「落ち着きなさいな。雪も深いですし慣れない場所を夜間移動するのは危険ですよ」
クロースは彼女を見て優しい口調で話す。夏が始まったといえまだ雪深い夜間のセントリバリティ山脈を移動するのは、餌をもとめる魔物急襲や天候の急変などがあり危険で避けるべきだ。
「うー…… でも……」
クロースにたしなめられたララだったが、納得がいかないのか食い下がろうとしていた。グレンがララの肩に手を置いて声をかける。
「大丈夫だ。殺すつもりなら二人をさらったりはしない」
「そうだけど…… やっぱり……」
うつむいてまだ納得できずにララだった。グレンがララの肩から手を外し次にクレアが彼女の前にしゃがんで声をかける。
「ララちゃん。二人をすぐに助けに行きたいのはあなただけではありません。皆同じです」
「うっ……」
顔をあげたララに優しくほほ笑みクレアは手で皆を指していた。
「ただそれには私達もしっかり準備しないといけませんから…… 今日はここで休みましょう」
左右に首を動かしララはグレンとクロースに視線を向けた。二人は笑顔でララに向かってうなずいた。
「わっわかったわ。でも明日になったらすぐに行くわよ」
「はい」
嬉しそうにうなずきララに返事をしたクレアはララの頭を優しく撫でた。立ち上がったクレアはクロースに顔を向けた。
「じゃあクロースちゃん…… 門の近くの宿を案内してください」
「わかりました。こちらですわ」
返事をし地図を折りたたんだクロースは皆を引き連れて通りを歩こうとした。
「ちょっと待って! 私は帰るわ!」
ケイトが手をあげ自分はもう帰ると言い出した。
「へっ!? 付いて来ないのか?」
「違うわよ。私はここに家があるから! 明日の朝ここに来ればいいんでしょ?」
自宅に帰って明日また合流するというケイトだった。クレアは笑顔でうなずいた。
「良いですよ。じゃあまた明日」
「はーい。じゃあねえ!」
右手をあげたケイトは振り向いて走り去っていく。グレンはケイトの背中に向かって声をかける。
「遅れたから置いて行くからな」
「別にいいもん! どうせ行く場所はわかっているしー! じゃあね!」
振り返ったケイトはグレンに向かって舌を出すと、すぐに前を向き走って町の中へと消えて行った。
「じゃあ行くか……」
「そうですね。行きましょうか」
ケイトの姿が見えなくなるとグレンたちは宿を目指した歩き出すのだった。
グレン達はクロースの先導により、最初に町に入った時と逆側へとやってきた。通りの脇に平たい赤い屋根の建物が見えて来た。建物の屋根には大きなレンガ造りの煙突が三つならんでもくもくと黒い煙を吐き出している。
目的地はこの建物のようでクロースは大きな入り口の前に立ち止まり振り返った。入り口を指しながらグレン達に笑顔で口を開く。
「ここですわ。宿”寒空の癒し”ですね」
グレン達は宿へと入った。宿の中は正面に壁に埋め込まれたようなカウンターがあり店主と思わしき中年女性が立っていた。カウンターの左右に奥へと続く入り口が見える。カウンターの右手は廊下で左手には大浴場と看板が掲げられている。
部屋を取ったグレン達が移動しようとするとララが大浴場の看板に気づいた。看板の前に立って彼女は首をかしげる。
「なに? 大浴場……」
「はい。ここは地下から温泉をくみ上げていますのよ」
「へぇ! すごい! ねぇ。後で行こう」
「もちろんですわ」
クロースはララに向かって笑顔でうなずいた。カウンターで受付をすましたグレン達は廊下を歩いて部屋へと向かうのだった。
宿の部屋は四人部屋でグレン達はダグオン、グレンとクロース、ララ、クレアで男女に二部屋に別れた。
部屋は廊下に沿うような長方形になっており、廊下側に二つと向かい側の窓際に二つベッドが並んでいる。
入り口から奥側にある窓際のベッドにダグオンが腰かけ本を読んでいる。壁際のベッドにはグレンが腰かけている。入り口の扉がノックされグレンが立ち上がって対応しようと扉に手をかけた。
「ご飯の前にお風呂に入って来ますね」
「おぉ。わかった…… うん!?」
グレンが扉を開けるとクレアとララが立っており、彼の姿を見てクレアが笑顔で声をかけてきた。グレンの返事をすると、扉の脇からララが顔をだし部屋の奥で本を呼ぶダグオンに手招きをした。
「ダグオン! あんたも一緒に行こうよ」
「へっ!!? 僕は…… さすがに…… 女性と一緒には……」
「そうですよ。女湯にはダグオンさんは入れませんよ」
「そうか。じゃあ待ってなさい」
ダグオンを指して命令するようにするララだった。グレンとクレアは顔を見合わせて笑う。クレアとララを見送りグレンは扉を閉めた。ベッドへと戻り腰かけるグレンに本をベッドに置いたダグオンが見えた。
「でも…… ちょっとだけ大きなお風呂に入ってみたいですね」
「なら俺と一緒に行くか?」
「いいんですか?」
嬉しそうに顔を前にだすダグオンにグレンは首をかしげるのだった。二人は大浴場へと向かうのだった。宿の正面まで行って大浴場と書かれた入り口をくぐる。中は廊下で右側の壁に入り口が二つあり男湯と女湯と書かれた看板が掲げられている。廊下の奥には青い制服に腰に剣を指した男女二人が見張っている。
男湯と書かれ青い木製の小さな球が通された、縄のれんをくぐって脱衣所へ二人が来る。二人は棚に置かれた籠の前に立って服に手をかける。
「しかしダグオンが風呂に入りたがるなんて意外だな」
「そうですか?」
服を脱ぎながらグレンがダグオンに声をかけた。ダグオンは首をかしげ尋ねグレンはすぐにうなずいていたずらに笑って口を開く。
「あぁ。ダグオンは風呂を入る暇があったら研究してそうだから」
「はは…… 僕だって大きなお風呂に入ってのんびりしたい気持ちはあるんですよ。ただ…… 護衛がクローディアさんなんで……」
よく彼に逃げられるがダグオンには常に護衛のクローディアが同行する。昼夜を共にする彼女は風呂にも入って来るのだ。
「クローディアは護衛なんだろ? 一緒に入ってもらえばいいじゃねえか?」
「そっそんな…… 僕は一緒になんて…… クローディアさんだって女性なんですよ!!」
「何気にひどいこというな……」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして叫ぶダグオンだった。二人は裸になり手ぬぐいを巻いて大浴場へと入るのだった。




