第463話 外堀りを埋められる
医療班の一人がニコライの横にしゃがんで治療を開始する。もう一人はグレンが切り落とした腕を拾い上げていた。
「よし! 今です!」
「えっ!? ちょっとクレア!? あなた? 何を……」
扉を開けてクレアが訓練場の中へと入り、グレンに向かって駆けていくのだった。クレアの行動にクロースは驚いていた。
「私も行く! ほら行くわよ」
「えっ!? えぇ!?」
「ララ! ダグオンさんも! もう! 私たちも行きますよ」
「はーい」
ララがダグオンが手をつかんでクレアを追いかける。クロースとケイトはララ達に続いて訓練場へと入るのだった。
「グレンくーん! やりました」
「わっ!? なっなんだよ! あぶねえだろ」
先頭を行くクレアはグレンの名前を呼びながら、笑顔で両手を広げ彼に抱き着く。いきなり抱き着かれバランスを崩しそうになったグレンだが踏ん張って何とか耐える。抱き合いながら二人は見つめ合って笑う。
「まったく心配してませんでしたけど嬉しいです」
「あぁ。俺があんなのに負けるかよ」
「えへへっ! そうですよね!」
得意げな顔で鼻を高くするグレンにクレアは愛おしそうに微笑む。駆けつけて来たクロースやララは二人を見てやれやれと言った様子で笑っていた。クレアの視線が鋭くなりクロース達を見てニヤリと口元が緩む。まるで皆が集まるのを待っていたかのように……
「さっ! グレン君! 私と結婚しましょう」
「へっ!? なっなにを!?」
左腕を伸ばして観客に向けクレアが大きな声で自分と結婚しようとグレンに行った。いきなり結婚と言われたグレンはひどく驚き意味が分からず困惑していた。
困惑するグレンにクレアは彼の顔を見てにっこりとほほ笑む。
「だってニコライさんが勝ったら私とニコライさんが結婚するんですから! グレン君が勝ったら当然私とグレン君が結婚するべきですよね?」
「えっ!? ええええ!?」
自らを指で指してニコライとグレンが自分との結婚を賭けて試合をしたと主張するクレアだった。そんなつもりで試合をしてなかったグレンはさらに驚く困惑していた。
「ねえ!? ハインリッヒさん!」
困惑グレンを見てクレアはにんまりとほほ笑み、顔をハインリッヒに向け首をかしげ同意を求める。クレアはグレンが正気に戻る前に結婚を賭けての試合だと確定させようとしているようだ。
「フフ。そうですね……」
話を振られたハインリッヒは焦っているグレンを見て笑った。顎に手を置き視線を上に向け、わざとらしく何かを考えている風に装い間を開けから口を開く。
「一方がクレアさんとの結婚を賭けるならグレンさんもクレアさんとの結婚を賭けるのが自然ですね!!!」
「なっ!? ハインリッヒ!? 何を!?」
宣言をするような大きな声でハインリッヒが答えた。
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
ハインリッヒの声が聞こえた観客が歓声をあげている。歓声を聞いたグレンの顔に焦燥感があふれていく。焦るグレンの顔を見てハインリッヒはニヤニヤと笑って答える。
「そんなに心配しなくても任せてください! ルドルフ従兄さんと一緒に牧師試験を取りましたから 承認に結婚証明もすぐに出せますよ!」
「おっおい! 勝手に話を……」
胸を張ってグレンに答えるハインリッヒだった。ハインリッヒは結婚の承認や説法などの教会仕事を担当できる。ちなみにアーリア教会の現生主義派では、神父は本業が神職の人で、牧師は本業が別に持つ人である。以前は神父は神職専業で牧師は兼業という意味だったが、ノウレッジの運営を任されるようになると神父も兼業することが当たり前になり現在の形になった。
慌てるグレンに抱き着いたままほほ笑むクレアを見てクロースがつぶやく。
「クレア…… もう…… 通りで簡単にニコライの条件を受けると思いましたわ」
「これが俗にいう外堀を埋めるってやつね……」
「えぇ。クレアさん…… やり手ね。私も見習おうっと!」
あきれるララとクロースの後ろでケイトがうなずいて笑顔をクレアに向けていた。三人の言葉を聞いてダグオンは顔をしかめていた。
「うわあ。女性は怖いですね」
横を向いたララが胸を張り勝ち誇った顔をした。
「そうよ。だからあんたは私を大事にしなさいよ」
「えっ!? なんでララさんを?」
「うるさい!」
「やっぱり怖い……」
眉間にシワを寄せうるさいというララにダグオンは怯えるだった。二人を見ていたクロースがほほ笑む。
「ふふ…… さてグレンさんはどうしますか?」
クロースがグレンに問いかけるとグレンは顔をしかめた。グレンは丁寧にクレアを地面に下して困った様子でクロースに答える。
「どうって…… いきなり言われても…… 俺はそんなつもりは……」
「ムっ! 私と結婚したくないんですか?」
「いや…… そんなことはない…… けど……」
プクっと頬を膨らませ背伸びして詰め寄るクレアに、必死に首を横に振るグレンだった。二人を見ていたララが声をあげる。
「いいじゃん! 結婚しちゃいなよ。どうせ今でも二人は結婚しているみたいなもんじゃん!」
「ララ!! いいか? 物事には順番が……」
「なによ! じゃあ……」
にやりと笑ったララは両手を広げてグレンを指さした。正確にはグレンとクレアの二人を指しただ。
「いきなり結婚は難しいんだったら。なら二人にキスしてもらいましょう! 誓いのキスよ!」
「へっ!? おっおい!」
「ララちゃん!? なにを?」
大きな声でグレンとクレアにキスをしろとララは指示をするのだった。
「そうだ! やっちまえー!」
「いけー! グレン!」
ララの言葉に周囲の観客が反応し困惑したグレンは顔を左右に動かす。恥ずかしそうに顔を赤くしているクレアも困惑している様子だがどこか嬉しそうにしている。
「「「キース! キース!」」」
観客は手を叩いてグレンを煽るように声をあげている。観客の声を聞いていたハインリッヒはグレンとクレアに顔を向け手を向けた。
「グレンさん。クレアさん! 観客の希望を答えないと!」
観客の希望に答えろというハインリッヒだった。クレアは恥ずかしそうに頬を赤くしてどこか期待した顔をグレンを見ている。グレンは悔しそうに顔をしかめるとやけくそに答える。
「クッ! わっわかったよ」
「グレン君……」
クレアに手を伸ばしたグレンは強く抱き寄せると、顎に手を置き彼女の顔を上に向けさせた。目をつむり少し強めにグレンはクレアと唇を重ねた。
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「「「キャアアアアアアアアア!!!!」」」
キスした二人に歓声と女性達の黄色い声が上がる。
「ん…… んちゅ…… えっ!? グッグレン君!?」
唇がはなれ目を開けたクレアにグレンが優しくほほ笑んでいた。顔を真っ赤にして彼はクレアを強く抱きしめると耳元でささやく。
「今のが俺の精一杯だから…… いつかちゃんと……」
「は…… い……」
目に涙をためうなずくようにクレアは顔を下に向け返事をした。クレアは下を向いた手で涙をぬぐうのだった。
「ほら! これでいいだろ?」
グレンは顔をあげてハインリッヒと観客にたずねた。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」
訓練場は割れんばかりの歓声に包まれるのだった。ハインリッヒはグレンに向かって笑顔でうなずくのだった。
「クソ!!! グレン……」
医療班は治療を続けニコライを担架に乗せていた。魔法により腕はくっつき包帯で巻かれている。訓練場から担架で運び出される、ニコライは歓声を受けているクレアとグレンを悔しそうに見つめていた。




