第461話 小枝から大樹へ
視線を左に向けたグレンに槍が鋭く伸びて来る。タイミングを計って地面を蹴って飛び上がるグレンだった。
「なるほど…… これがあいつの特殊能力か……」
槍が軌道を変えて上に上がりグレンへと向かって来た。グレンは手をかけていた剣を強く握り素早く鞘から抜き左から迫って来る槍に向け左手を添えた。大きな音が響いて反動でグレンの体が後ろに下がっていった。
「ふぅ」
槍を受け止めたグレンの体が足が地面に付いた。引きずられるようにしてグレンの足の痕が地面に線を描いた。小さく息を吐いたグレンは剣に添えていた左手を外した。
「受け止めただと……」
ニコライが悔しそうにグレンを睨みつけ両手に力を込めた。グレンは地面を蹴ってニコライの槍の間合いから距離をとる。
「クソ! まだだ!」
「ほっ!」
両腕を引き槍の刃先を前に向け、ニコライが叫びながら前に出てグレンとの距離をつめる。一気に距離を詰めたニコライはグレンの胸を狙って槍を突き出した。グレンは右手に持った剣を勢いよく振り上げた。
ニコライの槍に振り上げたグレンの槍とぶつかり大きな音をあげる。強い衝撃でニコライは両腕を上に持って行かれ後ろに後ずさりする。
「受け止めた…… だと……」
「ふぅ。やるじゃん」
槍を受け止めされて驚愕する、ニコライに小さく息を吐いてグレンはニヤリと笑った。ニコライが笑うグレンを見て眉間にシワを寄せ槍を強く握りしめた。
「クソオオオオオオオオオオオオ!!!」
刃先を前に向けグレンの胸に向けて突き出すニコライだった。グレンは左拳を出して突き出された槍の前に拳を持って行った。槍は拳を滑るようにして軌道がそれていく。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
声をあげたニコライは槍を素早く引いてまたグレンに向かって突き出した。グレンは同じように拳をだして防ぐ。ニコライは何度も同じように槍を突き出すのだった。
必死にグレンに向かって槍を突き出し続けるニコライを見て首をかしげるクロースだった。
「どうしてグレンさんは彼の槍を防げますの?」
クレアは笑顔でグレンを見ながらクロースに答える。
「必中槍術は必中で回避も不能…… なら受け止めるまでってことですね」
「そんなことして大丈夫ですの?」
特殊能力により必ず当たるニコライの槍をグレンは受け止め防いでいるという。彼女の言葉に驚きながらクロースはさらに問いかける。クレアは彼女の顔を見て優しくほほ笑む。
「一つの枝は弱いかも知れませんが…… グレン君は大きく育った大樹です。それに…… 月は彼を優しく照らしています」
「はぁ……」
右手を胸の前に置いて話すクレアだった。彼女の言葉の意味がわからずクロースは首をかしげてあきれていた。二人の横で観戦していたララが両手をあげてグレンに向かって叫ぶ。
「ちょっと! グレン! あんたさっきからやられてばかりじゃない!」
「えっ!? こいつが強いんだよ。うわあああああ!!」
「グレン!!!」
ララに答えたいたグレンが隙を付かれて右肩に槍を受けて叫び声をあげ肩を押さえうずくまった。グレンの上から何度も槍を叩き落とすニコライだった。
「うおおおおおおおおお!!! やっちまえニコライ!」
「結婚ですね!! いえーい!!」
ニコライが押し始めたことで観客は歓声をあげる。自分が声をかけてことでグレンがピンチになりララの顔が青ざめていく。
「どっどうしよう。私のせいだよね……」
「ふふ。大丈夫ですよ」
「えっ!?」
そっとララの肩に手を置いてクレアは優しく声をかけた。クレアはプクっと頬を膨らませグレンに視線を向けた。
「もうグレン君! ララちゃんをからかわないの! さっさと起きなさい!」
「えっ!?」
子供に向かって注意するようにグレンに向かって声をかけるクレアだった。うつむいて槍を受けているグレンの口元が緩み鼻から吹き出すように息が漏れる。
「よっと」
「いっ!!!!!?????」
グレンは左手の拳を握り腕をあげ鋭く横に振り払うように動かした。グレンの拳がニコライの槍にぶつかって彼の槍は横へと弾かれる。グレンは槍を弾くとゆっくりと起き上がった。
歓声をあげていた観客達が一斉にだまり静まり返る。
「なぜだ!? なぜ私の槍を受けて……」
後ずさりをしながら起き上がったグレンを見てニコライは驚愕の表情を浮かべている。
「お前の槍は絶対に当たるんだろ? 回避は意味がないよな。それに正確に急所を付いてくる」
「だからなんだ!」
にこやかに話すグレンの回りくどいと感じているのか、いらいらした様子でニコライがグレンに大声で叫ぶ。
「だから絶対に当たるんだから当たって耐えれば良いってだけさ……」
「そんなことできるわが! ないだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
叫びながらニコライが前に出た。ニコライは槍を鋭くグレンに向かって突き出した。正確にグレンの胸へとニコライの槍が鋭く伸びていった。グレンはニヤリと笑ったまま槍に対して何もしないで見つめていた。グレンの胸へと槍が届き激しい音が訓練場に響いた。
「あっあああああ……」
槍を突き出した姿勢のままニコライは声を震わせている。グレンの胸に向かって突き出された槍が彼の胸の前に現れた緑色の透けた壁によって防がれていた。
グレンはニコライを見て満足そうに笑うと、ようやく左手を動かして彼の槍を横に叩いた。動けずに固まったままのニコライにグレンは淡々と口を開く。
「フォレストガーディアン…… まぁ魔法障壁さ。大樹の樹皮のように皮膚が硬くなるんだ」
「なんだと……」
緑色の壁はグレンの魔法だった。硬い壁によりニコライの槍は阻まれていた。グレンはさらに左手の人さし指を立て空に向けた。
「そしてもう一つ。俺には月の加護がある」
「へっ!?」
驚愕の表情を浮かべるニコライだった。扉の前で二人の戦い方を見たクレアが嬉しそうに話す。
「もう一つはルーナディレイ…… 相手の動きを一瞬だけ遅くする。本のわずかな時間ですが威力を軽減できます。さらにグレン君の速度ならそのわずかな時間にダメージの少ない場所に攻撃を誘導できます」
「絶対に当たるなら全て受け止める…… 本当に発想がめちゃくちゃですわね…… グレン君は……」
「そうですね。すごいめちゃくちゃです」
「何がめちゃくちゃですか。あなたですわよね。彼に戦い方を教えているの!」
クロースがあきれて声をあげていた。クレアは横で気まずそうに笑う。クレアはグレンにとって姉であり師匠であり保護者でもある。グレンの言動に多大な影響を与えているのはクレアなのは当然だった。
ニコライは後ずさりをして槍を大きく横に振りグレンを睨みつけた。
「だったら…… その全てを私が…… 壊すまでだ!!!」
槍を構えニコライが前に出た。グレンは向かって来るニコライに口元を緩ませつぶやく。
「じゃあ…… そろそろ本気だすか……」
「へっ!?」
グレンの姿が消えてニコライの前にいきなり現れた。彼は反応できずに目を大きく見開いた。グレンは横からニコライの顔を目掛けて蹴りを繰り出した。グレンの足がニコライの顔にめり込んでいった。
「ブハアアアアアアアアアアアアア!!!」
振りぬかれたグレンの足により横に殴られたような姿勢で飛んで行くニコライだった。
「おっと!」
「いっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!???????????????」
柵に向かって飛んで行ったニコライを追い越してグレンが飛んで行き彼の背中に回り込んで受け止めた。
「あぶねえ。飛んで行くとこ考えろよ。観客がけがすんだろうが…… よ!」
「ぐへえええええええええええええええ!!!」
グレンはニコライの背中を押した。体を反らした姿勢で前に出たニコライの背中をグレンがまた蹴りつけた。蹴られたニコライは前のめりの倒れた。
「おい。しっかりしろよ。クレア義姉ちゃんと結婚するんだろ?」
地面に頭を突っ込んで倒れたニコライに蹴った姿勢のままグレンが声をかけている。
「まぁ…… 俺に勝つって言う…… 絶対に不可能な条件を……」
ゆっくりと足を下しながらグレンは不敵に笑うのだった。




