第460話 理不尽なプロポーズ1
広場へ向かうためにグレンたちは町の通りを歩いていた。グレンは地図を開き指定された広場を探している。
「えっと……」
「なんでちゃんと調べておかないのよ。もう時間過ぎているんでしょ」
地図を広げたグレンを見て腕を組んだララがあきれていた。地図を下しグレンはムッと口を尖らせ不服そうな表情をする。
「しょうがねえだろ。初めて来た町なんだしよ。遅れた分は後で取り返すさ」
「なによそれ」
にっこりとほほ笑むグレンにララはさらにあきれるのだった。グレン達の十メートルほど前にハインリッヒが飛び出して来て顔を左右に動かした。グレンを見つけるとハインリッヒは手を上げ振る。
「あっ! グレンさん! こっちですよ」
「おぉ! ハインリッヒ! よかった。迷っちまってよ」
ハインリッヒを見つけたグレンは地図を畳に彼ににこやかに声をかける。軽く近づいて来るグレンにハインリッヒは慌てて様子で彼の手を掴んで引っ張って来る。
「もう! 時間過ぎてますよ。早く来てください! ニコライが……」
グレンの腕を引っ張り彼を連れて行くハインリッヒだった。クロースとクレアは二人の様子を見て顔を見合わせて笑うだった。クレアたちはグレン達を追いかけていくのだった。
「おい。危ないだろ」
「いいから早く」
ハインリッヒに手を引かれグレンは彼が出て来た、路地へと引っ張り込まれたのだった。路地を抜けると円形の広場があり、神聖騎士団が借り上げ訓練場として利用しているこの場所には訓練用の矢の的や人形などが置かれている。中央には試合用に広く取られた石畳みの床に格子状に作られた木の柵で囲まれた円形の土の闘技場がある。
「おぉ。すごい人だな……」
闘技場の周りには人々があつまり観客となっていた。客は数百人を超えている。
「ニコライですよ。町の人たちに観戦を呼び掛けてました。気をつけてください」
「あぁ……」
うなずいたグレンは観客達を見渡す。コートを羽織った町人風の人々以外にも神聖騎士団の騎士たちも観客に居るのが見える。さらにローブを着た教会関係者もいるようだ。
「みんな! どいてくれ!」
ハインリッヒが声をかけると観客が道を開ける。グレン達は開けられた道を進み闘技場を囲む柵の扉の手前までやって来る。ハインリッヒが扉を開けて押さえてグレン達に声をかける。
「じゃあ皆さんはここで待ってください。グレンさんは中へ一緒に」
「わかった。行って来る」
「頼みましたね」
「あぁ。任せておけよ!」
笑顔で返事をしたグレンと一緒にハインリッヒは扉をくぐり中へと駆けて行った。グレンはハインリッヒに続いてゆっくりと扉を閉めて入っていく。クレア達はグレンの閉じた扉の前に立って見物を始める。
「すごい人だね……」
「こんなに人が居て良いんですかね? ニコライさんは……」
「なにが?」
集まった観客を見て、つぶやいたララの声が聞こえたクレアは首をかしげている。
「こっぴどく負けてグレン君に恥をかかされるのに……」
周囲を見渡しニコライが恥をかくのを心配するクレアだった。クレアを見たララがクロースの服の裾を引っ張る。
「ねぇ。クレアはもしかして……」
「でしょうね…… 慢心というわけではないでしょうが……」
「すごい信頼ですね…… 興味がわきます」
ララの横でダグオンが眼鏡のつるを持ちクレアを見つめていた。ダグオンの視線に気づき彼の方を向いたクレアは不思議そうな表情で首を傾けていた。彼女は微塵もグレンが負けるとは思っていないのだ。
「本当に…… どうやったらそう思えるのかしら…… 相手はキラーニコライなのよ……」
ケイトがクレア達の後ろで話を聞きつぶやくのだった。
闘技場へと入ったグレンはやめゆっくりと歩く。闘技場の中央で青い鎧に身を包み、槍を背負ったニコライと、先に駆けて行ったハインリッヒが並んで立っている。グレンが彼の一メートほど前に止まると眉間にシワを寄せた。
「遅い!!!」
「悪い悪い。飯食っててさ」
怒鳴られたグレンは特に気にすることもなく平然とニコライに答える。グレンの態度を見て強がっていると思ったのかニコライは口元を緩ませる。
「怖気づいて逃げたのかと思ったぞ」
「あぁ。逃げたかったぞ」
「ふっ……」
逃げたかったと答えるグレンを鼻で笑うニコライだった。グレンは腕を広げ腰を左右にひねり正面を向いて口を開く。
「面倒じゃん。どうせ俺が圧倒的に勝つのに試合なんかさ……」
「なっ!!! なんだと!!! 貴様!」
槍を強く握りグレンを睨みニコライは彼を怒鳴りつけ今にも飛び掛かりそうだった。
「落ち着きなさい。ニコライ! 試合を始めますよ」
ハインリッヒが落ち着くようにニコライをたしなめ試合を始めようとした。しかし、今度は慌ててニコライが彼を止める。
「待て! まだだ!」
「なんですか? もう時間も過ぎてますよ」
「いいから黙っていろ!」
「わかった。少しだけだぞ」
ニコライはハインリッヒを怒鳴りつけた。ハインリッヒはあきれた顔でニコライの好きにさせる。
「皆! 聞いてくれ!」
両手を広げ大きな声で観客に向かって話すニコライだった。グレンは興味なさげに彼を見つめている。
「あれが我が愛しのクレアだ!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
扉の前に立つクレアを指すニコライに歓声を挙げる観客だった。クレアをジッと見つめるニコライに彼女も義弟と同じように興味なさげに見ていた。
「クレア! 私がこいつに勝ったら……」
膝をついたニコライは間を開けて言葉をためている。観客は期待の目でニコライとクレアを見つめている。何が起きているのかわからず首をかしげるクレアの横で、クロースとララは心配そうに彼女を見つめている。
「私と結婚してくれ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
右腕をクレアに向かって伸ばしてプロポーズするニコライだった。観客の歓声に闘技場が包まれ騒然とする。
少しして騒然とした空気が静まり、グレンは冷めた表情で振り向いてクレアに問いかける。
「だってさ? クレア義姉ちゃん? 断るだろ?」
「良いですよ。グレン君が負けたらニコライと結婚してあげますよ」
「はぁ!? 良いのかよ?」
あきれた顔をするグレンにクレアは力強くうなずく。彼女の表情は晴れやかで嬉しさに満ち溢れている。ただクレアの笑顔はどこか怪しくグレンに嫌な予感が走る。
首を軽く横に振り前を見てニコライに口を開くグレンだった。
「よかったな。俺に勝ったらクレア義姉ちゃんが結婚してくれるってよ」
「ふん……」
勝ち誇った顔で鼻息を荒くするニコライだった。グレンは肩をすぼめてやっていらないという顔をした。
「ハインリッヒ…… もういいだろ? 始めようぜ」
「はっはい! 両者武器を訓練用に……」
「かまわん。真剣で勝負だ」
ニコライはグレンの剣を指して真剣で勝負しろと叫ぶ。ハインリッヒはグレンに了承するかと尋ねるような視線を向ける。
「グレンさん……」
「あぁ。俺も構わねえぜ」
うなずいたグレンは右手を腰の剣へと持って行き、腰を落とし彼の足の指先が地面をとらえる。
ハインリッヒは右手を前に出した。
「では…… はじめ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
声をあげたニコライは走り出して手を開いて槍を斜めに持つように腕を動かした。背中の槍が消えてニコライの手に現れた。彼の槍の柄は金属で平たく葉っぱのような形をした刃がついた二メートル近い長さがある。グレンとの距離を一瞬で詰めていく。両手で持った槍を勢い横へと持って行った。グレンへと向かって横からほぼ水平に動きながら槍が向かって来る。




