第459話 試合の前に
クロースの話が終わり。グレンはニコライがクレアにこだわる理由が分かり、どこかすっきりしたような顔をしていた。同時にクレアがニコライを相手にしてなかったのを思い出し安堵していた。
嬉しさが声に出ないように、グレンは慎重に落ち着いた口調を意識しながら口を開く。
「なるほど…… だからあいつずっとクレア義姉ちゃんと二人で行こうとしてたのか」
「えぇ。まだクレアのことを諦めてなかったようですわ」
「しつこいな。五年以上も前だろ」
「どうしてもクレアが欲しいのでしょう」
ニコライは五年以上変わらずにクレアへの想いを寄せ諦めていなかった。クロースはニコライの執念に背筋が寒くなっていた。グレンはわざとらしく首をかしげて腕を組む。
「しっかし…… そんなにクレア義姉ちゃんが良いもんかね」
「まぁ! そんなこと言って! クレアに言いつけますよ」
「わっ!? うそ! 冗談だよ。怒られるだろ!」
慌てて言い訳するグレンにクロースはにんまりといたずらな顔をする。
「クレアの良さはあなたが一番わかっているでしょ。まぁあなたの良さもクレアが良くわかってますわよね?」
「まあな…… って……」
ハッとした顔をしたグレンは顔を真っ赤にした。クロースはグレンを見て嬉しそうにほほ笑んだ。
「うふふふ。良いですわね。愛されてクレアは…… うらやましいですわ」
「やめろ! もう……」
「グレンさんが悪いんですよ。わたくしの大事な友達を邪険に扱うから! もっと大事にしてあげてくださいまし!」
「はいはい…… もう行こうぜ」
適当に返事をしてグレンは逃げるようにし廊下へと戻った。グレンが廊下に戻ると奥から二番目の扉が開らいた。
「ふわあああああ!! お水…… あっ! グレーン!」
「うん!? おぉ! ララ!」
扉からあくびをしながらララが出て来た。ララが廊下の先に立つグレンを見て嬉しそうに駆け寄って来て手を掴む。
「早くエンドレスアイスに行こう!」
「悪い…… まだ行けないんだ?」
「えっ!? どういうこと?」
グレンの言葉にララは首をかしげて不思議な顔をしていた。グレンはララと一緒に部屋に行った。ダグオンとケイトとナウローを呼ばせて一階へと戻ったのだった。
全員が席に着くクレア、グレン、ララ、ダグオンが並んで座り向かいにはナウロー、ケイト、クロースが座っている。テーブルの上にクレアが頼んだたくさんの料理やジュースや酒などの飲み物が並んでいる。
「ゴクゴク!」
「あっ…… しゃーねえな」
すぐにララが目の前に置いてあったグレンのオレンジジュースを飲みほした。喉が渇いていたようだ。クレアとグレンは顔を見合わせてほほ笑み話を始めた。二人は皆に神聖騎士ニコライとエンドレスアイス行きを賭けて試合することを伝えた。
「そんなの無視していけば良いんじゃない? だってこっちはA1ランクだよ。神聖騎士に伝えただけでも感謝されなきゃ」
「ダメだ!」
話を聞いたケイトがニコライを無視し、エンドレスアイスへ向かおう提案する。ナウローが即座にケイトの提案を否定した。
「ナッナウローさん……」
「ニコライは神聖騎士の中でも強硬派だ。無視なんかしてみろ。俺達の今後の活動に支障がでる」
真剣な表情をケイトに向けナウローは話す。町の外で魔物狩る冒険者と町の治安維持を担当する神聖騎士団、共に教会傘下にある組織でなにかと協力する場面が多い。神聖騎士団との関係が悪くなれば冒険者ギルドの活動に支障がでるのだ。
「そうですね…… ごめんなさい」
ケイトはナウローの言葉にハッとして納得して彼に謝罪する。クレアはナウローに嬉しそうに笑って口を開く。
「立派な冒険者になりましたね。ナウローさん」
「やっやめてください……」
恥ずかしそうにするナウローの頭を撫でようとする、クレアの首根っこを引っ張り阻止するグレンだった。自分に手を伸ばそうとするクレアの首根っこをつかむグレンを見てナウローは吹き出しそうになるのを我慢していた。
クレアが諦めて手を下し椅子に腰かけ直した。グレンはクレアが戻ると自分の席に座り直す。ナウローがグレンに声をかける。
「じゃあグレンさん…… お願いします。冒険者ギルド代表ですからね。応援しますよ」
「えっ!? おう…… 任せろ」
胸を叩いて返事をするグレンだった。クレアは胸を叩くグレンを見て目を輝かせていた。視線をすぐに前に向けた彼女の目がさらに輝いた。クレアの瞳にはテーブルに置かれた大きな骨付き肉が映っていた。口の端からよだれを垂らしそうになりながらクレアが口を開く。
「じゃあご飯ですね」
「わーい! いただきまーす」
食事だと告げるクレアに両手を上げララが反応した。彼女は左手を斜めに伸ばして骨付きの肉を皿からとると大きく口を開けて頬張る。
「おっおい! それ! 俺の肉だぞ! しかもさっき俺のジュース飲んだろ!」
目の前の肉をかすめとられたグレンが声をあげた。ララは笑顔で見せつけるように、肉を咀嚼して飲み込むと舌をだした。
「ベー! 早い者勝ちだよーだ!」
「あっそ!」
「あーーー! それあたしの!」
ムッとしたグレンは体を横に斜めに倒し、あえて手をララの背後から頭の上からテーブルへと伸ばした。彼女の頭の上からテーブルの前に置かれた魚の串焼きに持ち上げ自分の口へ運ぶ。ララにはグレンの手が上から伸びて自分の魚が奪われたように映り、彼女は顔をあげグレンの口から魚の尻尾が出ているのを見て叫び声をあげた。
グレンは視線を下に向け笑いながら答える。
「モグモグ…… 早い者勝ちなんだろ?」
「ベー! グレン嫌いだよ!」
ララの顔にグレンの口から小さな魚の身がこぼれ落ちて来た。顔をしかめるララだった。
「もう汚い! この!!」
「残念だったな…… 美味かったぞ!」
「キーーー!!!」
悔しそうにララはグレンの口へ手を伸ばしララは魚の身を掴んで引っ張った。綺麗に身が食われた骨がグレンの口から出て来てララはさらに悔しそうに声をあげたのだった。
二人を見ていたクロースがあきれた顔で口を開く。
「無料でいただけるんですから…… 追加で頼みなさいな」
「だって…… 時間がかかるじゃない!」
「そうだそうだ!」
「まぁ!」
時間がかかると叫ぶララに激しく同意するグレンだった。二人の言葉にクロースは首を横に振り額に手を置くのだった。
食事が終わったグレン達は試合会場として指定され広場への移動を開始した。
「ふぅ…… 食ったな」
「えぇ満足です」
最後尾で歩きながら腹を満足そうにさするグレンだった。すぐ前を歩くクレアがうなずいて返事をした。
「クレアは義姉ちゃんは食いすぎだろ? おかけでもう時間過ぎてるじゃねえか」
「ベーだ」
舌を出してクレアは前に走ってグレンから逃げた。ララが振り向いて二人の様子を見て首をかしげる。
「試合の前にご飯なんか食べって平気なのかしら?」
「大丈夫ですよ」
クレアはララの横にいつの間にか居て、彼女の疑問にすぐに返事をした。彼女の横を歩くクロースもうなずいて同意する。
「えぇ。グレンさんは食事をしてましたがちゃんと量を調節してましたよ」
「そうなの?」
「はい。それに……」
間を開けたクレアは余裕の笑みを浮かべる。
「ニコライさんとならグレン君が満腹でも簡単に勝ちますよ」
「さすがにそれは…… 彼は特殊能力をお持ちでしょ?」
「確か…… 必中槍術ですね」
視線を上に向け顎に指を置き思い出しながら話すクレアだった。ニコライの特殊能力は必中槍術。彼が繰り出す槍の一撃は重く素早く回避や防御が難しく的確に相手の急所を捉える。またクレアの聖剣大師と同様にいかなる槍でも使いこなすことができる。
「そんなのグレンでも……」
ニコライの話を聞いてグレンを心配するララにクレアは優しくほほ笑み頭を撫でる。
「ふふふ。防げないでしょうね……」
「えっ!? それじゃあダメじゃん! 負けたら湖に行けないんでだよ!」
「大丈夫ですよ。グレン君を信じてください」
クレアは大きくうなずき胸を張って自信満々に答えるのだった。




