第458話 君と行くのは
クレアの前に来たニコライはニコッとほほ笑み、自分の胸に手を置いた。
「第一勇者候補のあなたのパートナーは私が一番ふさわしいと思います」
得意げに笑いクレアの前にひざまずき、彼女の手を取りキスをしようと顔を近づける。
「お断りです!」
「なっ!? なぜだ!」
ニコライの手を雑に振り払ったクレアは横に立つグレンの腕を持った。グレンと腕を組んだクレアは彼の顔を見て笑った。
「私はグレン君のお姉ちゃんですからね。弟を置いて行きませんよ」
「だってさ……」
肩をすぼめてグレンは視線をクレアに向けてあきれて答えるのだった。眉間にシワを寄せグレンを睨みニコライは立ち上がった。怒り声を震わせニコライはグレンを睨み続けながら口を開く。
「おっ弟だと…… 嘘をつくな!!! クレアに兄弟はいないはずだ!」
「落ち着けよ。俺は義弟だ」
怒鳴りつけてくるニコライに自分を指して落ち着くようにたしなめるグレンだった。クレアはプクっと小さく頬を膨らませた。
「ムっ! 本当の弟ですよ。私の大事なだーいじな!」
「やめろ! 恥ずかしいだろ」
腕を組んだままクレアはグレンの頭に手を伸ばし撫でる。愛おしそうにグレンの頭を撫でるクレアを苦々しく見つめるニコライだった。クレアの横からハインリッヒがニコライに口を開く。
「ニコライ。いいな。彼らはA1ランク冒険者だ。優先権は彼らにある。エンドレスアイスの探索は彼らに譲るんだ! うっ!? ぐ……」
堂々とハインリッヒがニコライに告げた。ニコライが眉間にシワを寄せてハインリッヒを見た。ハインリッヒは必死に目を逸らさないように耐えていた。
「いいや! 私が行く! グレン! 私と勝負しろ!」
「勝負?」
怒りの表情をしたまま大きく首を横に振り、ニコライはグレンを指した。首をかしげるグレンに怒鳴りつけるような大声でニコライが告げる。
「貴様がクレアにふさわしいパートナーか私が見極めてやる!!!」
「はぁ!?」
あきれた顔をするグレンにクレアはプクっと頬を膨らませニコライを睨む。
「必要ありません。グレン君は私の弟でずっとパートナーです。あなたに見極めてもらう必要なんて…… って」
驚いた顔をするクレアだった。グレンがクレアの腕を外し前に出たのだ。慌ててグレンの手を引っ張るクレアだった。
「グレン君!? 何を?」
「さっきガタガタうるせえからな。黙らせてやる」
「もう……」
グレンは振り向いてクレアに笑顔に答える。彼の言葉にクレアはあきれるのだった。グレンは前を向き自分を指してうなずく。
「いいぜ…… お前に勝てばいいんだろ? やってやるよ」
「グレンさん…… 本当に良いんですか?」
「かまわねえよ。どこでやるんだよ?」
試合を了承したグレンにニヤリと笑ったニコライが答える。
「ここの訓練場……」
「わかりました。この勝負はグランドアーリア北部第二大隊の隊長ハインリッヒが立ち会います。場所は訓練場として借りている天井監視所の南広場です」
「チッ……」
ニコライの回答中にハインリッヒが割り込んだ。ニコライは不服そうに舌打ちをした。ハインリッヒはニコライに視線を向ける。
「いいですね? ニコライ?」
「勝手にしろ」
「では両名とも準備を整え二時間後に広場に来てください」
ハインリッヒが試合時間を告げるとグレンはうなずき振り向いた。
「えっ!?」
「行こうぜ。準備に付き合ってくれ」
「はっはい……」
グレンはクレアに手をつかで握った。驚いたクレアにほほ笑むとクレアは笑顔で大きくうなずく。手をつないで去っていくグレンとクレアにニコライが眉間にシワを寄せる。
「おい! クレアは勝負がつくまでここに置いておけ!」
「なんでだよ? クレア義姉ちゃんは賞品じゃねえよ」
「お前のでもないだろうが!」
背中に手を回しニコライが右手を槍にかけた。グレンは彼を睨みクレアからも殺気が漏れる。ハインリッヒがニコライの前に立ち塞がる。
「ニコライ! 下がれ! 君も早く準備を始めたまえ!」
「チッ! ハインリッヒ…… 覚えていろよ……」
ハインリッヒを睨みつけ苦虫をかみつぶした顔でグレンとクレアを見送るニコライだった。グレンとクレアは聖堂から出て外へ出た。
「なんなんだあいつ……」
「えぇ。嫌な感じです」
後ろを見ながらつぶやくグレンにうなずいて同意するクレアだった。二人はクロース達が居る酒場へと戻って来た。
酒場にはクロースのみが残っており、テーブルで茶を飲みながらグレン達を待っていた。戻って来た二人を見つけるとクロースが立ち上がり声をかけてくる。
「お帰りなさい」
「ただいま…… ララちゃん達は?」
「ナウローさんが面倒を見てくださって上で休憩してますよ」
天井を指して笑顔で答えるクロースだった。ララとダグオンはさすがに疲れたのか、テーブルで寝こけてしまい二階の部屋で休憩を取らせることになった。
グレンとクレアはクロースの向かいに並んで座った。二人が座るとクロースが口を開く。
「そちらは? エンドレスアイスには行けますの?」
得意げな顔でグレンがうなずいた。
「あぁ。神聖騎士と試合することになったぜ? そいつを倒せば行けるぜ」
「へっ!? 試合?」
「はぁ…… 実は……」
クレアはため息をついて話を始めた。ニコライとグレンがエンドレスアイス行くクレアのパートナーの座をかけて試合することをクロースに説明する。
「そうですか…… ニコライ様が……」
話を聞いたクロースはチラッとクレアに視線を向けた。直後にグレンの顔を見た。グレンはクレアを見て笑顔になっていた。
「じゃあ…… 試合の前に少し飯食っておくか。クレア義姉ちゃんも一緒に食うか?」
「わーい!」
両手をあげて喜ぶクレアにグレンは優しくほほ笑んだ。彼は視線を酒場の天井へと向けた。
「後ララ達の様子を見て来るよ。適当に飯を頼んでてくれ」
「わかりました。すいませーん」
クレアが手をあげ酒場の店員を呼ぶ。グレンはララ達の元へ向かおうと立ちあがる。一緒にクロースが立ち上がりグレンに向かって手で階段を指した。
「わたくしが案内しますわ」
「あぁ。悪い。頼む」
「じゃあクレア行って来ますね」
「はーい」
笑顔で二人を見送るクレアだった。グレンはクロースの先導で酒場の二階に上がった。階段を上がり扉が並ぶ廊下に出るとクロースが勢いよく振り向いた。
「ちょっとこちらに来てくださいまし!」
「えっ!?」
グレンの腕をつかんだクロースは階段脇にある隙間にグレンを引っ張り込んだ。彼を壁に押し付けるようにしてクロースが向き合う。クロースはジッとグレンを見つめる彼の頬は赤くなっていく。困惑したグレンが彼女にたずねる。
「どっどうした…… クロース?」
「グレンさんにはお話ししておいた方が良いかと……」
「なっなにを?」
うつむいたクロースは少しいいズラそうに口を開く。
「実は…… ニコライは魔王討伐軍に居た頃からクレアに想いを寄せているようで……」
「えっ!? あいつが……」
「はい。わたくしも何度か相談を受けたことがありますわ……」
クロースが話を続ける。ニコライは魔王討伐軍に参加していた。タイタロス王国が誇る空中庭園テイスガーデン広場が魔王軍に占領された。クレア達はニコライと共に解放作戦に参加した。この戦いでニコライは負傷しクレアに助けられた。ニコライはクレアの強さと優しさに惹かれ、親衛隊副隊長を辞してまで彼女を追いかけたという。ただ、クレアはニコライに興味がなく何度口説かれてもあしらっていた。




