第456話 二つの組織の争い
地上にあるエンドレスアイスに城が現れたと聞いたグレンは目を見開きクレアを見た。彼女は難しい表情で顎に手を置き考えごとをしていた。
ナウローに顔を向けクレアは冷静な表情で静かにうなずいた。
「やはり…… そうですか……」
「えっ!? 落ち着いてますね。急に城が現れたんですよ」
まるでエンドレスアイスで城が出現するのを、分かっていたかのようなクレアにナウローは驚いていた。クレアはナウローに顔を向け優しくほほ笑む。
「八十三階の湖にも城がありました。地図と照合したらエンドレスアイスを再現した場所だったのでもしかしたらと同じことが起きるかもって思ってました……」
クレアはナウローに八十三階にあるエンドレスアイスを模した湖がありそこに城が出現してたことを告げる。彼はクレアの話の驚愕の表情を浮かべていた。
「えっ!? 上にある湖にも城が現れたんですか!? そんなこと…」
横で話を聞いていたダグオンが顎に手を置きつぶやく。
「塔と外の環境が連動している…… もしくは城が現れたから塔にも…… どちらにしても面白そうですね」
ニコッと笑うダグオンにララはあきれた顔をしてクロースとクレアは笑っていた。クレアはグレンに顔を向けた。
「グレン君…… 上にいたヴァンパイアの板に文字を覚えてますか?」
「あぁ。水…… 氷…… 城…… だろ。こうなったら地上のエンドレスアイスに行くしかないな」
「そうね。キティルとラピはきっとそこにいるわ!」
「それがですね……」
ララが力強く声を上げるとクレアとグレンは彼女に向かってうなずく。キティルとラピの居場所の目途がついて盛り上がるグレン達だったが、ナウローが気まずそうに口を開く。
「なにか問題があるのか?」
「はい。実はその城に誰が行くかでもめてまして……」
「はぁ!? 冒険者の誰が行くかって言うのか? だったら俺達はA1ランクだからな優先させてもらう」
「いえ! あのそれがですね……」
頭をかく仕草をするナウローにグレンが尋ねた。ナウローは答えづらそうにしているとグレンは何か気づいた。
「もしかして神聖騎士が行くって言ってるのか?」
「はっはい……」
顔をしかめるグレンに向かって、小さくうなずくナウローだった。呆れてため息をついてグレンが口を開く。
「はあ…… まぁいい。俺が交渉に行ってやるよ」
「えっ!? そっそれは……」
「まぁいいじゃねえか。なぁ?」
グレンは席を立ってナウローと肩を組む。にっこりとほほ笑みながらやんわりと圧力をかけるグレンにナウローは簡単に折れる。
「いっ良いですよ…… 冒険者ギルドにも意地がありますからね」
「よーし! 決まりだ! ちょっと行って来るぜ!」
ナウローの肩から手をはなして体を起こし意気揚々と歩いて酒場を出て行くのだった。慌ててクレアが立ちあがりグレンを呼び止める。
「待って下さい! 私も行きますよ」
「大丈夫だよ。一人で……」
「いーえ! 絶対なにか悪いことを考えてます。一緒に行きますよ」
「はぁ…… わかったよ」
首を横に振り嫌々ながらクレアの同行を認めるグレンだった。二人を見てララがそわそわしているのにグレンが気づく。グレンはクレアの耳元に顔を近づける。
「急ぐぞ。ララとかついて来たそうにしてるからな」
「あっ! はーい」
小声で返事をするクレアだった。二人はいそいそと酒場から出ていくのだった。酒場から出たグレン達は塔へと引き返す道を歩く。
グレンと先頭に歩く二人だった。クレアはグレンの背中から視線を外し酒場を振り返ってすぐに前を向く。
「いつもララちゃんに甘いのに…… 珍しいですね」
「別に……」
両手を頭の後ろにへと持って行き興味なさげに答えクレアは首をかしげていた。グレンは視線を動かし首をかしげるクレアを見るといたずらに笑った。
「久しぶりに二人きりになりたかった…… だけだよ」
「えっ!? グレン君…… どこへ……」
グレンはクレアの腕をつかむと近くの路地に連れて行った。彼女の壁際に立たせると顎を持って顔をあげさせる。クレアの顔がグレンの影に覆われて視界が彼に覆われた直後に彼女は目をつむる。クレアの口にグレンの口が触れた。
「ん…… んちゅ…… あっ……」
「ふふふ」
クレアとのキスを終えグレンはほほ笑みながら口をはなし彼女の頭を優しく撫でる。クレアは上目でグレンを見ながらプクっと真っ赤になった頬を膨らませる。
「はっ恥ずかしいですよ」
「べー。まぁ俺としてはララやラピの前でしてもいいけどな」
「もう! 怒りますよ!」
ほほ笑んだグレンは手を振り路地から出て塔へと向かって行く。クレアはグレンの感触が残る唇を触ると、彼の背中に視線を向けほほ笑み追いかけていくのだった。
塔へと戻って来たグレン達は大きな通りを渡り町の西側に立つ教会へ向かう。神聖騎士の駐屯地はだいたいは教会の隣か裏手にある。宿舎もほとんどが修道院を間借りして修道士と共同生活をしている。
雪が残る訓練場を横手に見ながら白く三階建ての建物の前へとやって来た。扉の前に青い鎧を身に着けた門番の騎士が二人立っている。騎士は若い女性騎士と中年の男性騎士だった。若い女性は長い茶色の髪を後ろに縛り目やや細く切れ長で鼻筋すっとし唇は小さい凛とした顔つきの女性だ。中年騎士はグレイの短い髪に茶色の瞳をしたややしょぼくれた感じだ。
「何の用件でしょうか?」
中年騎士が近づくグレンとクレアに声をかける。グレンは胸元に下げている冒険者の指輪を騎士に見せる。
「俺がエンドレスアイスに行く冒険者だ。部隊長に会わせてくれ」
「はっ!? エンドレスアイスに行くだと? たがが冒険者風情が調子に乗るなよ!」
若い女性騎士が腰にさした剣に手をかけグレンを怒鳴りつける。グレンは余裕の笑みを浮かべ彼の後ろでクレアは顔をしかめていた。中年の騎士が若い女性騎士の前に手をだして彼女を止める。
「やめろ…… こいつは……」
「えっ!? この人が……」
「あぁ。じゃあ案内してくるから頼むな」
「はっはい!」
背筋を伸ばして敬礼をした若い女性は横にそれた。中年騎士は親指で扉を指して付いて来いと合図をしてグレン達を中へ連れて行く。扉の向こうは装飾が少ない質素な廊下だった。中年騎士はグレンとクレアを二人を先導して歩いていた。
中年騎士は振り向いてグレンを見て口を開く。
「大人しくしてくださいよ。グレンさん」
「もちろんだ。お前達が大人しくしているならな」
「もう…… ダメですよ」
「はいはい。わかったよ」
笑いながら中年騎士に答えるグレンの背中をつつくクレアだった。廊下を進み二階は上がったグレン達は建物の中央にある扉の前へと通された。
「こちらです。では私はここで」
「あぁ。ありがとう」
中年騎士はグレンとクレアに扉を指して去って行った。グレンは扉の前に立つとニヤリと笑っていきなり開いた。バーンという大きな音が廊下に響く。グレンは右手を上げて笑いながら部屋の中へと足を踏み入れる。
「よぉ。久しぶりだな。元気してたか?」
にこやかに明るい声をあげるグレンだった。
部屋は手前にテーブルとソファが置かれ右手に書棚があり、左手の壁にはセントリバリティ山脈の地図が貼られ前には十字架が描かれた旗が交差して置かれている。
部屋の奥には大きな黒い机が置かれ白いローブに身を包んだ青年が座っていた。青年はグレンの姿を見ると目を大きく見開いて激しく驚いた顔をしたのだった。




