第455話 水に棲む竜
湖面からゆっくりと二つの白い角が出現する。そこから牙が無数に生えた長く口に青い皮膚を持つ大きなひれが左右に生えた魔物が姿を現した。
「チッ! ブルーモースだ!」
自ら出て来たのはブルーモースは水棲の巨大な竜だ。空は飛べないが高速で水を泳ぎ肉食で性格は狂暴で食欲旺盛で船にも食らいついて食べると言われている。額から伸びた二本の角は氷の魔力を帯びており、角を使って水や氷の魔法を使いこなす。
ブルーモースは体を起こし浮かび上がるようにして顔を前に傾け、巨体を湖面から伸ばし橋の上に顔を出しグレン達を見下ろしている。左目の光の先が赤い板のようなパネルになっていて文字が表示されていた。
「えっ!? これは……」
ブルーモースの赤く光る右目から細長い光が伸びていきグレンのつま先に当たった。光はゆっくりとグレンの頭や抱えているダグオンとララをなぞるように動く。
「対象ノ魔導戦闘力ヲ確認…… 対神獣用特殊攻撃隊SSGト判別…… 対神獣用特別戦闘訓練ヲ開始シマス」
わずかにブルーモースの口が動き、無機質な声がブルーモースから聞こえた。
「なっなんだ!? 訓練って……」
ブルーモースの口がゆっくりと開いていく。何が起きるのかわからずに動揺するグレンだった。彼の肩に乗ったダグオンがブルーモースの顔を指さし叫ぶ。
「グッグレンさん! あの赤い板の文字を押してください!」
「板って……」
「目から出てりう光の板です。あそこの文字に押してください! 早く!」
左右に顔を動かすグレンだった。ダグオンが指したパネルと見つけられないようだ。ララは二人の会話を聞いていたグレンの脇で必死に頭をあげブルーモースを見ていた。ハッとした表情になったララはにっこりと微笑んだ。
「私に任せなさい!」
「えっ!?」
ララが左腕を前に伸ばした。白く光る腕が彼女の左腕から伸びていきパネルを押した。直後に赤いパネルが激しく点滅する。
「戦闘訓練ヲ中止シマス…… 魔導生命ノ起動ヲ停止シマス」
「えっ!?」
目の前にいたブルーモースの顔を下がっていった。湖面まで下がった顔は急に上に向けられると一気に橋の下へと消えて行った。ブルーモースが湖面へと素早く戻っていく。直後……
「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「きゃあああああああああああああ!!!!」
「わあああああああああああああ!!!」
ブルーモースが戻った衝撃で湖面に大きな波が出来た。橋の上に大量の水が覆いかぶさった。近くにいたララとダグオンとグレンは避けられずに大量の水に覆われた。少し離れた場所に居たクレアとクロースとケイトは走って逃げて難を逃れた。
水が引くとグレンとララとダグオンの三人はブルーモースが顔出し、反対側の端の柵まで流されていた。
「いててて…… ひどい目にあったぜ…… ララ! ダグオン! 大丈夫かって…… えっ!? おい!」
「はっはい…… あれ!? 真っ暗です」
ゆっくりと起き上がったグレンが振り向いて気まずそうに顔を背けた。返事をしたダグオンは首を左右に動かしていた。
「ちょっと! ダグオン! あんたなにやってんのよ!」
「えっ!? 申し訳ない」
「いいからどいて!」
流されて柵に押し付けられたダグオンの上にララが尻から突っ込んで来た。水が引いてダグオンとララは倒れ重なり、ダグオンの頭がララのスカートの中に顔を突っ込んだ姿勢で倒れていた。顔を真っ赤にして恥ずかしそうに叫ぶララだった。ダグオンはすぐにララのスカートから顔を出して立ち上がる。
「うぅ…… あんたねぇ…… ってどうしたの?」
立ち上がって振り向いたララに顔を手で拭っているダグオンが見えた。ララは首をかしげて彼に何をしているのか尋ねる。
「いえ顔に毛玉が……」
「ダグオン!!!!!」
「えっ!? なっなんですか!」
両手を上げて怒りだしたララにダグオンは驚いて逃げる。逃げるダグオンをララが追いかけていく。ダグオンはグレンの後ろに隠れた。
「グレン! どいて」
「もうやめろ…… こんだけ元気なら二人は問題ないな」
どけといいながら自分を押すララをグレンは止めるのだった。
追いかけっこをしている二人を見てグレンは笑うのだった。三人の元にクレア達が近づいて来て声をかける。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。ダグオンがやってくれたぜ」
「えへへ」
背中に隠れているダグオンの頭を撫でるグレンだった。頭を撫でられるダグオンにララがプクっと頬を膨らませる。
「ちょっと! あたしが押したんだけど?」
「わかったよ。ララもすごかったよ」
「ふふん。わかれば良いのよ」
腕を組んで得意気な顔をして満足そうにする鼻息を荒くするララだった。グレンは彼女をあきれた顔で見ながらブルーモースがいた場所を見つめつぶやく。
「でも戻っていった…… ブルーモースはなんだったんだあれ……」
「対神獣用戦闘訓練プログラムって言ってましたね…… ここは訓練場だったんでしょうね」
グレンのつぶやきにダグオンが反応した。彼の言葉に今度はララが反応する。
「なによ。塔は移住用の訓練施設だって言ってたじゃん」
「だからこの階層…… いやここの湖がというのが正しいでしょうかね。それに環境に慣れるための施設というのも仮説の一つですからね」
「ふーん……」
冷静にダグオンは自分の仮説を説明する。ララは腕を組んで真面目な顔を彼の話を聞いていた。クレアは二人を見てほほ笑んだ。
「さぁ。早く下に戻りましょう。また何か襲って来るかも知れませんからね」
「えぇ。クレアの言う通りですわ。行きましょう」
グレン達は湖の橋を岸へと戻り魔導エレベーターへ地上へと戻るのだった。八十三階から五十階に移動し魔導エレベーターを乗り換え地上へと向かうグレン達だった。
「クレアさん! グレンさん!」
「うわ!? ナウロー!? どうした?」
地上へと下りた魔導エレベーターが扉が開いて外へ出たグレン達にナウローが駆け寄って来た。急に声をかけられたグレンが声をあげた。
「いいからこっちへ! 来てください」
ナウローは焦っているのかグレンの腕を引っ張り連れて行く。彼は五十階へ上がる前に訪れた酒場に再びグレン達を連れて行くのだった。
酒場に入り席にグレン達が座らせるナウローだった。彼は皆が座ると話を始めようとしたがグレン達に一緒にケイトがいることに気づく。息を整えながらナウローが口を開いた。
「はあはあ…… よかった。あれ!? ケイト…… 君はなんでグレンさん達と……」
「仲間を探しに連れ行ってもらっただけですよ」
「そうか…… すいません。こいつ手癖が悪いんで邪魔なら懲らしめてください」
「わかった」
うなずいて笑顔で返事をするグレンだった。ケイトは不服そうな顔でグレンとナウローに向かって舌をだすのだった。
「あれ!? そういえばキティルさんとラピさんはどこに?」
「あぁあの二人はな……」
グレンは八十二階で起きたことをナウローに告げた。
「バーガンが…… クソ! あいつめ。まさかヴァンパイアに味方していたなんて…… 私達もお二人を探すのに協力しますよ」
「ありがとう…… 頼むな」
力強くうなずくナウローだった。グレンは嬉しそうに笑いすぐに真面目な顔になりナウローに口を開く。
「それで何か話があるんだろ? 聞くよ」
「あっ!? はい。実は……」
グレンに促されるようにしてナウローが話を始めるのだった。
「ここから西にある湖があるんです」
「エンドレスアイスか?」
「おぉ。ご存知でしたか! さすが元支援課ですね。はい。その湖は冬の間は凍っていて夏のわずかな溶けるんです。氷が溶けるまでは事故を防ぐため閉鎖されるんです」
エンドレスアイスは夏の終わりから夏の初めまで分厚い氷に覆われる。分厚い氷は歩いて湖を横断できる。氷が溶け始める時期に薄い氷が破れ落下して命を落とす者が多かった、そのため毎年氷が溶け始める時期から一週間程度は湖は閉鎖される。
「今朝ですね。冒険者ギルドの担当が湖の氷の解け具合を確認に行ったんです……」
ナウローが間を開けて言葉を溜めるようにしてから口を開く。
「そしたら湖の上に見たことがない城が……」
八十三階で見たエンドレスアイスと同様に地上のエンドレスアイスにも城が現れたという。




