第454話 空っぽの城
橋の上でクレアがしゃがんで緑色に光った両手を倒れた人にかざしている。光ると手は人の腹と尻と顔を往復して常に動いている。
「うぅ…… ひどいですよ」
腫れた頬を押さえて泣きそうな顔をするケイトだった。クレアはグアラ達に蹴られた彼女を魔法で治療していたのだ。
「ひどいすか? 千ペルを奪って三発の蹴りなら十分じゃないですか」
「それは…… まぁそうですね! 得ですね」
「あらあら。ふふふ。ほらなおりましたよ」
頬をさすりながらぱあっと明るい表情に変わる、ケイトにクレアは微笑み手から光を消し治療を終えた。クレアが立ち上がり続いてケイトが立ち上がる。
二人から少し離れた所にクロース、ララ、ダグオン、グレンの四人がいる。クロースがクレアに向かって手を振って口を開く。
「クレア! 終わりましたか?」
「終わりましたー! 行きましょう」
橋の先を指すクレアにクロースは大きくうなずいた。グレン達は先に城へ向けて歩き出し、クレアとケイトは早足でグレン達の後を追いかけるのだった。
グレン達は城の手前までやってきた。橋の先は石段になっており上ると木の大きな扉がある。城門に手をかけてグレンに横に立つクロースが声をかける。
「開きそうですか?」
「わからないな……」
「どいてください!」
「おっと!!」
声が聞こえて瞬間に振り向いたグレンの前に白い何かが近づいて来たのが見えた。慌ててグレンは横に飛びのいた。
扉が斜めに真っ二つに切り裂かれ奥へと倒れていき大きな音を立てる。
「開きましたよ……」
倒れた扉を見てクレアは笑ってゆっくりと大剣を背中にしまう。グレンはクレアに向かって声をあげた。
「もうあぶねえな!」
「手間取りましたからね。少し急ごうかと」
グレンに向かってクレアは城の中を指して歩きながら答える。横を通るクレアにグレンは首を横に振ってから彼女の後をついていく。クロースとケイトとララとダグオンが二人の後に続く。扉の向こうはアーチ状の短い廊下になっていた。
「うん!? ちょっと!」
ララが横を向いた隣にいたはずのダグオンが居なかった。
「あーあ…… ここの遺跡は貴重なのに……」
倒れた扉のしゃがんで嘆くダグオンだった。ララは彼を見て眉間にシワを寄せズカズカと近づいて手を伸ばす。
「ほら! なにやってんの! 行くわよ」
「わっ!?」
しゃがんでいたダグオンの右手首をつかんで、強引に立たせてララは連れて行くのだった。グレン達はすでに廊下を進んで城内へと進んでいた。廊下の先にいるグレン達の背中が見えた。ララはダグオンを引っ張り城内へと飛び込んだ。
「えっ!? これって…… どういうことなのよ!!!!」
ララが大きな声をあげた。グレンとクレアとクロースが難しい顔で視線をララに向けた。城の中は石作りのドーム状の空間でグアラ達が収められていたと思われる、蓋が開いた棺が三つ並んでいるだけだった。城は中身がなく外側だけ作られたハリボテだったようだ。
天井を見上げていたララが我に返りグレンのズボンのすそを引っ張った。
「ちょっと! キティルとラピはどこにいるのよ!」
「俺に言うなよ……」
「どういうことでしょう…… キティルさん達はどこに……」
「とにかく! 探しましょう。なにかあるかも知れませんわ」
クロースの言葉でグレン達は城内の探索を開始した。しかし、隅々まで探索をしたが蓋が開いた棺以外は何もなかった。
探索を終えたグレン達は棺の周りに集まっていた。蓋を閉じた棺の上にグレン、ララ、ダグオンが座りその前にクロースとクレアとケイトが立っている。
開いた棺を見ながらクロースが困惑した表情でつぶやく
「誰も居ませんね…… 行方不明の冒険者の方もここにいると思いましたのに……」
「そうですね。後は……」
キティルとラピを探すてがかりがなくなり失望したような顔をするクロースだった。彼女の横でクレアは顎に手を置いてジッと何かを考え込んでいた。クロースはクレアの様子に気づきに彼女に声をかける。
「なにかありますの?」
うなずいたクレアはクロースに顔を向け優しくほほ笑んだ。
「えぇ。一度したの町に戻りましょう。今日は皆は疲れたでしょうからね」
「ダメよ! まだキティルとラピがどこにいるかわからないのに!」
ララが飛び上がるように立ち上がった。クレアとクロースが顔をララへと向けた。心配そうにダグオンが彼女を見ている。グレンはララの肩に手を置いた。いきおいよくララがグレンに振り向いた。
「何よ!!!」
大声で叫んだララは肩を動かしてグレンの手を振り払った。グレンは冷静な口調でララに声をかける。
「落ち着けよ。大丈夫だ…… クレア義姉ちゃんは何か考えあるんだろう。なっ?」
「本当?」
顎でクレアを指すグレンに首をかしげたララが振り返る。クレアはララを見て優しくほほ笑んだ。
「はい。大丈夫ですよ。任せてください」
「そう…… わかったわ。クレアを信じる」
得意げに胸を張るクレアだった。ララは力強くうなずくクレアに信じると言ってまた棺に腰かける。クレアは優しい目でララを見てから真面目な顔になった。
「それに私の推測が確かなら…… きっと下は今頃……」
誰にも聞こえない声でつぶやくクレアだった。グレン達は天井監視所の下にある町へ戻ることになった。
城から橋へと出たグレンたちは急いで魔導エレベーターを目指す。先頭はクレアとクロースでケイトとララとダグオンが続いて最後尾がグレンだった。
「急ぐわよ! ダグオン! あんたもしっかりしなさい」
「はあはあ……」
焦るララは息を切らすダグオンに気づかずに必死に彼を引っ張っていた。グレンは歩く速度をあげてダグオンに手を伸ばした。
「よっと!」
「グレン!?」
「はあはあ」
グレンはダグオンを抱えあげて肩に乗せた。ララを追い越してグレンはクレアたちに続く。担ぎ上げられ肩に乗せられたダグオンをララはジッと見つめ声をあげた。
「あたしもー!」
叫びながら両手を広げグレンを追いかけるララだった。振り向いたグレンは顔をしかめ面倒そうに答える。
「あぁもううるせえな!」
「ちょっと! なによ雑に扱わないでよ! あたしも肩に乗せてよ」
「急いでるんだからいいだろ!」
「ぶぅ」
グレンはララの背後に回り込み彼女の腰に手を伸ばした。ララの服の裾をつかみ雑に持ち上げた。もちあげたララから手を離し彼女が落ちる前に素早く腹に手を伸ばし、脇に抱えるように持ち替えたグレンだった。肩に乗せないグレンに不満を漏らすララだった。
二人を横目で見ていたクレアが眉間にシワを寄せた。
「もう…… また……」
「あらあらいい加減、子供に嫉妬するのおよしなさいな」
「別に嫉妬してませんよーだ!」
「ふふふ」
プクっと頬を膨らませ舌を出すクレアだった。子供っぽい行動をするクレアを見て笑うクロースだった。グレンはダグオンとララと持って橋を急いでいた。肩に担いでいるダグオンが青い顔になった。彼は湖面を指してグレンに叫ぶ。
「グッグレンさん! あれ!」
「影…… なにかいるか?」
「ちょっとなに!? 私も見たい!」
「ああ!? うるせえな。ほらよ!」
うるせえなと言いながら甘いグレンはララを持ち上げ肩に担ぐのだった。クレアとクロースも後ろの騒ぎを聞いて足を止めた。ギリギリとした表情でララを肩に担ぐグレンを睨むクレアだった。
「クレア義姉ちゃん! クロース! 湖に何かいるぞ! 気をつけろ」
「えっ!?」
グレンは湖面を見てクロースとクレアに向かって叫んだ。二人が橋の柵の手前に移動した。柵越しに湖面を見ると大きな黒い影が左右に動いていた。
ブクブクと湖面が泡立ち黒いか影が大きくなりゆっくりと水がせり上がっていく。湖から巨大な何かが姿を現そうとしていた。




