第452話 聖なる風を操って
空から落ちて来た魔族の上半身を見てララがつぶやく。
「なんか容赦ないわね……」
顔を引きつらせるララのすぐ後ろに立つグレンが彼女に答える。
「クレア義姉ちゃんは自分のことより大事な人間のことを言われるのが嫌いなんだよ……」
「ふーん。愛されてるのね。グレンは……」
「知るかよ。バーカ! 来るぞ!」
にやけてからかってくるララに不機嫌そうに答えるグレンだった。彼は視線を上に向けてつぶやいた。
「それにお前もその中にはいっている…… っての!」
「えっ!? なに?」
耳に手をあて声をあがるララだった。彼女に構わず剣を構えるグレンだった。彼の視線の先には飛んで向かってくる魔族たちの姿が見えた。
三匹の魔族がグレンたちに向かって飛んで来ていた。彼らの視線はグレンとララではなくダグオンに向けられている。グレンは右手に持っていた剣に力を込め地面を蹴った。
飛んで来た魔族の一人がダグオンを指し叫ぶ。
「あいつを捕まえてとんずら…… グハ!!!」
「誰も捕まえられねえよ」
叫ぶ途中の魔族の前にグレンが現れた。右手に持った剣を前に向け構えていた、彼は魔族に向かって勢いよく突き出す。グレンの剣は魔族の体を簡単に貫いた。
「クソ!!!」
グレンの背後に居た魔族が手斧で斬りかかって来た。グレンは左手を伸ばして自分で剣を指した魔族の肩を掴むと両腕を曲げ魔族を体の寄せて振り向き腕を少しだけ上に上げた。
「しまった!」
グシャっという音がして振り下ろされた振り下ろされた、手斧がグレンが持っている魔族の死体の頭に命中した。グレンはつぶれた魔族の頭を見てわざとらしく悲し気な表情をした。
「あーあ。かわいそうに…… なっ!」
「ぶへえええええええええええええええ!!!」
グレンは前に出た魔族を貫き突き出た剣先が再び魔族に突き刺さった。二匹の魔族をグレンの剣が串刺しにした。
「よっと!」
左足を上げたグレンは勢いよく魔族を蹴りつけ右腕を強く引いた。二匹の魔族の体から剣が抜けて橋へと落ちていく。
「ヒッ!!!」
素早くグレンが振り向いた。グレンの後方十メートルほどの距離に黒い光を帯びた両手を広げ、前に突き出した姿勢の三匹の内の魔族の最後の一匹が居て彼と目が合った。グレンと目を合わせた魔族は恐怖のあまりに声をあげた。
「死ねエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!! ダークファイアボール!!!!」
魔族の手から黒い炎の球が飛び出した。うねりを上げ高速で火の球がグレンへと向かって飛んで行く。
「リーフグローブ!!」
叫んだグレンは胸のポケットに左手をこするように当てた。彼の左手が緑色に光る。緑に光る開いた左手でグレンは炎の球を受け止めた。大きな音がして炎の球が止まった。
「ばっ馬鹿な受け止めただと?」
「ほら! 返してやるよ!」
左手で炎を球をグレンは投げ返した。炎の球はグレンに向かって投げられた時は比べ物にならないほどの猛スピードで魔族へ向かって戻っていく。魔族が投げ返されたのに気づいた時は、既に彼の体が炎に飲まれようとする直前だった。指先やつま先から黒い炎が焼いていき、魔族の体は徐々にひりつきから痛みに変わっていく。腕や足は焦げ付き徐々に魔族の体の自由が無くなっていく。
魔族の視界が炎に包まれていく。
「来るな…… 来るなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
全身が黒い炎に巻かれる断末魔を上げる魔族だった。橋から燃え上がる魔族を見上げていたララがあきれた顔をする。
「やっぱりグレンもすごいわね……」
「ララさん! 前! ヴァンパイアが……」
「へっ!?」
ダグオンが前を指しララが前を向いた。そこには……
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
叫び声をあげながらグアラとダイアンがララとダグオンへと迫って来ていた。さらにグアラとダイアンの後ろから魔族が一緒に来ている。
「二人とも! 危ないわよ! 早くこっちに…… へっ!? 何をやめなさい!」
背後からケイトが二人を呼び自分の元へ来るように伝えた。だが、ララは振り返りケイトに笑顔でうなずくとダグオンの前へ立つ。
「ララさん!?」
「大丈夫よ。あんたそこにいなさい」
「えっ!?」
両手を広げて顔を後ろに向けダグオンに声をかけるララだった。彼女の言葉に困惑するダグオンだった。ララはダグオンを見て不機嫌そうに口を尖らせた。
「いいから! 動くんじゃないわよ!」
「へっ!? はっはい!」
返事を聞いたララはダグオンをかばうように両手を広げた。ダイアンとグアラは牙を向き二人に向かって走って来る。ダイアンとグアラの後ろに居た魔族が口を開く。
「おい! ガキどもを殺すなよ! そいつらはお楽しみだ」
魔族が指示を飛ばす。ララは肘を曲げ両手を上げた。ベルトから短剣が飛び出し彼女の周囲に浮かぶ。
「食らえ!!!!」
両腕を振るようにして前に動かし叫ぶララだった。彼女の腕の動きに呼応して短剣がグアラとダイアンへと飛んで行く。グアラとダイアンは顔の前に両腕を前にだし向かって来る。彼らの腕や腹に短剣が突き刺さっていく。ヴァンパイアである彼らは短剣をいくら受けても平気で駆けて向かって来る。
「ララさん!? ヴァンパイアは心臓を……」
「いいから! 黙って! っていうか何すんのよ」
迫って来る二人に恐怖でダグオンはララにしがみついた。ララは恥ずかしそうに叫ぶが彼をはなそうとはしなかった。
「危ない!」
「ヒッ!」
ケイトの声が響きダグオンは目をつむった。ララに向かって駆けて来たグアラダイアンが両手を振り上げ襲い掛かろうとしていた。
「「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」」
鳴き声が聞こえ足音が止まった。ダグオンの額に優しく温かい感触が触れた。
「ちょっと邪魔だから! 下がって!」
「へっ!?」
目を開けたダグオンの前にこちらに背を向けるグアラとダイアンが見えた。彼らに刺さったいくつもの銀の短剣は柄頭から白い糸のような光の線が伸びており、ララの両手の指先とつながっていた。
「なっなんだ!? どうした!? お前ら!? あっちだ!」
魔族がダイアンとグアラの行動に困惑し、彼らの後ろに立つララとダグオンに指して叫んでいる。ララはニヤリを笑い両手を前にだし指を上下左右に動かす。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「おっおい! やめろ!」
ダイアンとグアラが魔族に襲い掛かった。グアラが魔族の両足にタックルして押し倒すと、ダイアンが馬乗りになり殴りつけた。
「やめろ! やめろおおおおおおおおおおおおお!!! グギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」
魔族の腰にグアラが噛みつき首筋にはダイアンが噛みつく。
「ほら! ごちそうよもっと吸いなさい」
ララが両手の指を上下に動かし続ける。グアラとダイアンは魔族の血を吸い続けていく。
「どう? 私の魔法! 聖風人形よ!」
苦痛に顔を歪める魔族にララは得意げな顔で声をかけていた。彼女が使ったのは風魔法の聖風人形という。風になびく軽い魔力の糸を結び付けた物を生物の体内へ侵入させることで、自由を奪い施術者の意のままに操作できる。
「あっああああああああああ……」
血を吸われ続けた魔族の顔がしぼんで老人のようになり動かなくなった。ララに操られ限度を知らないグアラとダグオンの腹はぽっこりと膨れていた。
「死んだわね……」
魔族が動かなくなり目から光を失うと、ララは満足そうにうなずき両手の指を動かす。グアラとダグオンはゆっくりと口を魔族からはなした。魔族は骨と皮だけのまま床に倒れていた。




