第450話 目覚めた場所は
松明が照らす薄暗い廊下をキティルが歩いていた。石の壁にじめじめとした湿気に彼女は汗ばんだ額を手で拭う。
「はあはあ…… えっ!?」
息を切らすキティルに光が照らす。光に照らされたキティルが顔をあげた、廊下の先大きな木の扉が見える。疲労感に襲われ足が重かったが、キティルは何かに導かれるように壁に手を置き必死に前へ進み扉へと向かって歩いていた。
「この奥に……」
扉に手をかけてキティルは扉を開けた。扉の開いて良き差し込む光にキティルの視界は真っ白になった。扉の向こうは森の囲まれた家だった。
「ここは…… 確か……」
周囲を見渡しキティルはゆっくりと前に向かう。どこか見覚えのある家にキティルはゆっくりと近づく。家の扉の前に人影が見える。おぼろげに黒い影だった人が徐々にはっきりと見え色をおびていく。
「エリィ!」
家の扉の前に居たのは槍と弓をかついだエリィだった。深層の大森林で再会した聖女ではなく、二人で希望を抱いてノウレッジに上陸した頃と変わらない恰好をしたエリィだった。
振り向いたエリィはプクっと頬を膨らませた。
「キティル! どこ行ってのよ! 勝手にいなくなって! あたしはいっぱい探したのよ」
「探したのはこっちだよ! 私は…… エリィがいなくって…… 急に一人になって…… 怖くて……」
「へへっ! わかっているよ」
必死なキティルにエリィはいたずらに笑っていた。見慣れ必死に求めた幼馴染の屈託ない笑顔を、見ていたキティルの瞳に涙が浮かび徐々に顔が歪んでいく。
「エリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!」
「わっわ!? なに!? キティル!? どうしたの?」
「エリィ…… エリィ!」
キティルは両腕を広げてエリィに抱き着いた。泣きながら自分の名前を呼ぶキティルにエリィは優しくほほ笑み彼女の頭を撫でるのだった。
「もうどこにも行かない?」
「はぁ?! 当たり前じゃない! あたしたちは親友よ」
必死なキティルにエリィはやや困惑し笑顔で大きくうなずいた。
「よかった。じゃあ…… テオドールに戻ろう。そこから私達の冒険…… やりなお……」
「ダメよ!!!!」
エリィは両腕を伸ばしエリィを突き放した。エリィの眼が赤く光りキティルを真顔で見つめている。
「えっ!? エリィ!」
「わた…… 妾はディーア! ヴァンパイアに福音をもたらす聖女!!!!」
頭を殴られたような衝撃がキティルを襲った。彼女の足元が崩れ大きな穴へと落ちたようになった。周囲が真っ暗になり、見上げるキティルの視線に白い光の先からディーアと名乗ったエリィが覗き込む顔が見えた。
「エリィ? 違う! あなたはエリィ! 私の親友!」
手を伸ばしながら必死に叫ぶキティルだった。彼女の意識は徐々に薄れ瞼が落ちるように視界が真っ暗になった。直後にキティルは激しく体をゆすられた。
「おい! 起きるべ!」
「ハッ!?」
パチッと目を開けたキティルだった。視界にぼんやりとした人影がだんだんとはっきりしていく。ララの顔をラピが覗き込んでいた。目を開けたキティルにラピは声をかける。
「大丈夫だべか? うなされてたみてえだが?」
「ラピちゃん…… うん。ありがとう。大丈夫だよ」
キティルは優しくラピにほほ笑みゆっくりと立ち上がる。薄暗い小さな空間に二つのボロボロのベッドが左右の壁に置かれている。壁は石で正面には鉄格子の四角い扉が見える。外は薄暗く石づくりの廊下で向かいにも同じような鉄格子の部屋が見える。どうやら二人はどこかの地下牢に閉じ込められているようだ。
立ち上がったエリィはベッドに腰かけた。ラピは彼女の隣に一緒に座る。キティルは寂しさからかそっとラピの頭を撫でた。ラピは視線を横に向け気まずそうに口を開く。
「エリィさんって……」
「えっ!?」
「すまね。寝言さ聞こえて……」
気まずそうに頭をかく仕草をするラピだった。キティルは彼女を見つめ優しくほほ笑んだ。
「前に教えたよね…… エリィは私の親友。一緒にノウレッジに来たんだ」
「んだ…… なぁ? キティルさん……」
「なーに?」
首をかしげたキティルにラピは真面目な表情で、少し間を開けてからゆっくりと口を開く。
「おめさ。エリィを取り戻せなかったら…… どする?」
「もちろん殺すわ。だってヴァンパイアハンター協会の会長だもん」
「えっ!?」
エリィを殺すと即答したエリィに驚いた顔でラピが見つめていた。エリィはいたずらに笑って舌をだした。
「なーんてね…… 口ではそう言えるけど…… わからないわね。実際のその場面にならないと……」
蜘蛛の巣がはる石造りの古い牢屋の天井をエリィはジッと見つめていた。ラピは何もいえずに天井を見上げるキティルのを見つめている。しばらくしてからキティルは顔を前に向けた。
「でも…… 大丈夫。今は頼れる人たちが仲間だから…… あの人たちなら…… きっと……」
頼れる仲間がいると力強く語り、まっすぐに前を見つめるキティルだった。まっすぐ前を向く凛々しいキティルの横顔をジッとラピは見つめていた。
「ガウアアアアアアアアアアア!!!!」
鉄格子の向こうから魔物のような鳴き声が聞こえた。キティルは視線を鉄格子の向こうへ向けた。ラピは思わずキティルの太ももに乗っているスカートの裾をつかんだ。
「大丈夫よ。側に居てね」
「んっんだ……」
キティルはラピの上に手を置いた。鉄格子から見える薄暗く灰色の床に大きな人の影が見えた。ラピの上に置いたキティルの手に力が入る。
影は鉄格子へと近づいて来た。男がキティルとラピがいる牢屋の前に立ち両手を鉄格子にかける。
「あっあなたは…… なっなんで……」
鉄格子の前に立ったのはケイオスだった。ケイオスは半開きの口からよだれを垂らし、目を赤く光らせていた。目の光がキティルとラピの部屋を照らす。直径二十センチほどの丸い赤い光がゆっくりと動いてベッドの上にいる二人に当たった。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ヒッ!」
「大丈夫よ」
ラピとキティルを見たケイオスは興奮したように鳴き声をあげた。目を赤く光らせ大きな口をあげ牙をむきながら吠えるケイオスの姿は不気味で肉食獣のようだった。ラピは恐怖で目をつむる。怯えるラピをキティルはかばうように抱き寄せた。
「グギャ!!!」
何者がケイオスの股間を後ろから蹴り上げた。悲鳴をあげケイオスは鉄格子から手を離し股間を押さえうずくまる。
「静かにしなさい! まったく下品な…… チッ!」
ケイオスを蹴ったのはバーガンだった。舌打ちをしながらバーガンは股間を押さえてうずくまりよだれを地面に垂らすケイオスを見下していた。
「ガウアアアアア……」
顔をあげたケイオスは眉間にシワを寄せバーガンを睨みつけていた。ケイオスを見てバーガンは怪訝な顔をする。
「なんだ!? その目は! さっさと受け入れろお前はヴァンパイアなんだよ!」
バーガンはうずくまるケイオスを怒鳴りつけた。ケイオスは黙ってうずくまったまま下を向いた。
「ふん…… クズが…… おや!? ようやく目覚めかい? お寝坊なお嬢さんだ」
鉄格子からキティルが起きたのに気づいた様子のバーガンはにっこりと微笑み優しく声をかける。キティルは黙って何も言わない。
「おい! 起きろ! 彼女達を案内しろ! お嬢さんが目覚めたらすぐ連れて来いって命令だからな」
うずくまるとケイオスに指示を出しバーガンは彼の腕をつかんで起こすのだった。すぐに鉄格子の扉が開く金属がすれるキーっという音が牢屋に響くのだった。




