第449話 彼女は椅子ではありません
動き始めた魔導エレベーターでクレアがジッと金属の板を見つめている。すぐ横で心配そうに天井を見上げるララだった。グレンはララの頭をポンと撫でるとクレアの元へ。
「えっ!?」
「ちょっと貸して」
「いいですよ。壊さないでくださいね」
背後からグレンは金属の板をクレアの手からスッと抜き取った。振り向いて驚くクレアはグレンを見て笑っていた。
グレンは板を空にかざして見つめながらダグオンに顔を向けた。
「これに…… 氷と水と城って書いてあるんだろ?」
「はい」
うなずくダグオンだった。二人の会話を聞いていたクロースっが地図を開いた。
「八十三階に大きな湖があるみたいですね……」
視線を左右に動かし地図を見ていたクロースがつぶやいた。ダグオンは彼女の言葉を聞き顎に手を置いてしばらく考え込んでいた。
すぐにハッと目を大きく見開いたダグオンはクロースに視線を向けた。
「ちょっと良いですか?」
「えっ!? ちょっと……」
「ちょっとあんた何を……」
ダグオンはクロースに近づいて来て地図の下からクロースの胸の前に頭を突っ込んでみた。ダグオンの行動にララが不満げに声をあげる。
「セントリバリティ山脈の地図を出してもらって良いですか?」
「えっええ……」
うなずいたクローズはセントリバリティ山脈の地図を取り出してダグオンに渡した。ダグオンは床に地図を広げていく。二つの地図を並べたダグオンは振り向いてクロースの手を取った。
「えっと…… ちょっと良いですか……」
「はっはい?」
手を取ったクロースをダグオンは並べて地図の間に座らせた。
「えっ!? まぁ!?」
「あんた!!! なにやってんの」
ダグオンはごく当然のように座らせたクロースの膝に乗った。驚くクロースにララはダグオンに向かって怒っていた。
振り向いたダグオンは申し訳なさそうにクロースに口を開く。
「すいません。椅子に座ると集中力があがるんです。普段はクローディアさんに頼むですが……」
「いっいす…… 失礼な……」
クロースは椅子と言われぶぜんとしていた。ララはホッと安堵の表情をしていた。うらやましそうにダグオンを見る、グレンを横にいるクレアは冷たい目を睨んでいた。
ジッと地図を見つめていたダグオンは不意に椅子から立ち上がると、鞄からペンを取り出した。彼は膝をついて地図の上に乗り体を前に倒した。
「あっ…… まぁいいですわ」
ダグオンはペンで地図に何かを書き込み始めたのだった。ダグオンはすぐに起き上がり手で地図を指すのだった。
「皆さん二つの地図を見てください見てください……」
地図を見てくれというダグオンだった。皆が地図の周りに集まって覗き込む。
「湖に洞窟…… それに季節…… これがどうかしたか?」
首をかしげてダグオンに尋ねるグレンだった。覗き込んだ地図には洞窟や森などの名前を丸で囲まれている。またセントリバリティ山脈の地図に北西に夏、南東に冬と書き込まれていた。
ダグオンは地図を指しながらグレンに口を開く。
「八十二階は冬ですよね。グリティア山の谷と先ほどの畑は酷似してます。丘から見えた山の形も一致しています」
地図の地形にペンで書き込みながら、矢継ぎ早に説明をするダグオンだった。彼はセントリバリティ山脈の北西を指した。
「そして…… 八十三階は夏でしたよね。八十三階には湖があるのはセントリバリティ山脈の北西にある湖エンドアイスレイクですね」
「あぁ! なるほど…… そういうことね」
「そうですか……」
「えぇ」
ララが最初にダグオンが言いたいことを理解したのか笑顔でうなずく。続いてクレアとクロースも気づいたようだ。
「えっ!? ごめん…… なんなのかわからない」
「私も……」
グレンとケイトはダグオンが言いたいことがわからず首をかしげていた。二人を見てダグオンは口を開く。
「えっと…… 塔の中は気候だけではなく地形も再現しているんです」
「えっ!? 地形? そうなのか?」
「はい。もちろん塔の中で再現しているので外と比べて小さくしているみたいですけどね……」
「すげえな……」
塔は気候以外に地形も再現されていると聞いてグレンは驚いていた。グレンは何かに気づいてダグオンに尋ねる。
「でも…… 他の大陸の気候も再現されているんだよな? そこもなのか?」
「さぁ。そこまではわかりません。中を調べて地図と照らし合わせないといけません」
「そうか…… 地形まで再現しているなんて不思議な塔だな…… うん!? もう着いたみたいだ。しまえ」
「へぇ!? わっわ!? 長々話過ぎましたね。申し訳ない」
話こんでいたいるうちに魔導エレベーターが停まり、八十三階に着いたようだ。慌ててダグオンは地図をしまう。グレン達は塔の八十三階へと降り立った。
魔導エレベーターの扉の前でクロースが地図を開く。
「さぁ行きますわよ! エンドアイスレイクはこっちですわ」
地図を閉じてクロースが魔導エレベーターの左手から伸びていく道を指し歩きだした。グレン達は彼女に続いて歩き出す。
八十三階は雪が少なく道に雪はなく歩きやすい。雪がところどころ残る雪原に敷かれた道をしばらく歩くと背の高い木が生えた林が見えて来た。
「えっとあらこちらですわね…… この林の向こうですわね……」
林の手前で立ち止まったクロースが道を指した。道は林の奥へと続き林道となっている。彼らが目指すエンドアイスレイクは林の向こうにあるという。
グレン達は林道を進む。先頭はクレアとクロースが並び、すぐ後ろにララとダグオンが歩き二人から少し離れたケイトが居て最後尾にグレンが歩いていた。
歩きながらララは寒そうに両手を交差して肘をさする。
「夏なのに寒いわね…… 湖も凍ってそう」
「ふふふ。大丈夫ですよ。エンドアイスレイクは夏のごくわずかな期間は溶けてます。まぁまれに氷が残ってういているそうですけどね」
「へぇ…… ちょっと見て見たいわね」
クロースの言葉に興味を持つララだった。グレン達が目指しているエンドアイスレイクは年中水面が凍っている。夏のわずかな間のみ氷が溶けるという。
「氷と水…… では城は? エンドアイスレイクに城があったとは聞いたことないですね……」
「えっ!? あぁ。そうねぇ。お城って何かしらね?」
ララとクロースの会話を聞いていたダグオンが顎に手を置いてつぶやいた。ヴァンパイアが持っていた板には古代精霊文字で氷と水と城と書かれていた。ダグオンは氷と水はエンドアイスレイクのことだと考えた。
「氷の下に実は城があったりしてな」
「えっ!? あははは! なによそれ! グレンってやっぱり子供っぽいわね」
「ふん」
振り向いたララに笑われたグレンは不機嫌そうに鼻息を荒くするのだった。林道は湾曲していく小さな波の音が聞こえる。林道は湖に沿って進んでいるようだ。
「そろそろですわね」
「えぇ……」
波の音にクロースが反応するとクレアが小さくうなずいた。林道の先が明るくなり影となっていた木々の隙間から光が差し込む。
「えっ!? これって……」
「真っ白なお城…… どういうことですの」
慌ててクロースが地図を開きクレアは目を大きく見開いて前を向いていた。
林道を抜けると大きな湖が目の前に広がっていた。ただ、湖は中央に真っ白な尖塔を二本持つ城が浮かんでいた。城はからは前面の門から巨大な橋が伸びクレア達が居る岸まで伸びていた。
「すごーい! こんなお城があるなんて…… もしかしてグレン知ってたの?」
「いや…… クロース! 地図に城はなかったのか?」
「ありません…… 湖しかないですわ」
地図には湖のみが描かれているだけだという。
「では…… 最近作られた…… それにしては…… 橋は古く苔が……」
「何やってんの! 行くわよ」
「わっわ! 待って下さい!」
ダグオンの手をつかんでララが城を指して引っ張った。彼女はダグオンの手を引っ張り強引に城へと向かって行く。
「ララちゃん! 待って」
「そうですわ。待ちなさい」
「クソ! まったく」
ララが城に向かうとグレン達が追いかけていく。
「水…… 氷…… 城! もうここじゃない。ラピ…… キティル。すぐに助けてあげるからね」
歩きながらララは城をジッと見つめつぶやくのだった。グレン達は湖に浮かぶ城へと向かうのだった。




