第448話 わずかな手がかりを信じて
しゃがんで金属を覗き込む三人のグレンとクレアの隙間からダグオンが顔をだした。彼はグレンの膝に手をかけ身を乗り出した。ダグオンは眼鏡を上にずらして、クレアが持つ金属の板を目を凝らして見つめた。
「えっと…… これは城…… 八十三階ですね…… 氷と水と城…… なんですかね?」
金属の板に書いてある文字を読みあげていくダグオンだった。グレンは金属の板に書かれた文字を読む、ダグオンを見て驚いた顔をする。
「ダグオン!? 読めるのか?」
「あっはい。古代精霊文字ですよね…… 以前キティルさんに少しだけ教えてもらってから自分でも研究して読めるようになりました」
得意げに笑って胸を張るダグオンだった。彼はほぼ独学で古代精霊文字の読み方を理解したという。グレンはダグオンの能力にあきれて笑った。
「さすがだな…… じゃあダグオンが居ればキティルはいらねえな」
「こーら! そんなこと言ったら可哀想ですよ」
「そうですわ。まったくデリカシーというものがないんですから!」
「ごっごめん。冗談だって」
クレアとクロースから怒られグレンは慌てて謝るのだった。ララはグレンに冷たい目を向けダグオンは特に興味なさげにジッと金属の板を見ている。
謝るグレンを見てほほ笑んだクロースは金属の板に視線を向けた。
「でも、なぜこんなもの持っていたのでしょう…… 古代精霊文字なんか読める方なんて珍しいですわよね」
クロースの言葉にララがハッとして話を始めた。
「きっとダグオンを狙ったんじゃない…… あたし聞いたの…… ヴァンパイアがダグオンにこいつだって言ってた…… グイ!」
「うわ!」
話し出したララに振り向いたダグオンだったが、彼女の後ろには下着姿のケイトがいるのでダグオンは頬を押されて前を強引に向かされた。
「つまりあいつらは最初からダグオンを狙ってたってことか」
「そうみたいですね……」
顎に手を置きつぶやくグレンにクレアが同意する。クレアは考えながらさきほどダグオンが読み上げた金属の板に書かれた内容を思い出していた。
「クロースちゃん…… 八十三階になにがあるかわかりますか?」
「いえ…… 詳しくはただセントリバリティ山脈の夏の気候を再現している階ですわ」
「ふーん…… セントリバリティ山脈の地図はありますか?」
「えっ…… はいどうぞ」
クレアはセントリバリティ山脈の地図を受け取り中身を真剣に見つめている。塔の地図ではなくセントリバリティ山脈の地図を見るクレアにグレンは首をかしげる。
「どうした? 塔じゃないのか」
「いえ気になることがあったので…… もう良いですね」
地図をたたんでクロースに戻すクレアだった。グレンはさらに首をかしげていた。
「でっ!? どうするの? 早くラピとキティルを助けに行きましょうよ」
「そうですね…… 今のところ手がかりは八十三階ですね」
「えぇ。とりあえず行ってみましょうか」
「うん!!!」
ララは嬉しそうに笑って大きくうなずき駆けでした。彼女はすぐに駆け出して皆から離れて振り向く。
「置いてくわよ!」
「待て…… もう! ほら行くぞダグオン」
「わっ!? 待ってください」
グレンはララを止めダグオンと手をつなぎ駆け出した。クロースが続きクレアは鞄を開けて残ったヴァンパイアの所持品に向けた。鞄から風が出て所持品が舞い上がって鞄へと吸い込まれていった。
「クレア! 急いで」
「はーい。待ってください」
両手を大きく振ってララがクレアを急かす。クレアは鞄を閉じて肩にかけると手を振ってララ達を追いかける。グレン達は八十三階を目指す……
「あのー!!! 私! 忘れないで!!」
グレン達が歩き出すとケイトが慌てて声を上げた。ケイトの叫び声にクレアはハッとして振り向いた。
「えっ!? そうでした! グレン君! お願いします!」
口元に手を当てグレンを呼ぶクレアだった。グレンは顔を歪ませて振り向く。
「チッ…… はいはい。リーフイミテーション!」
舌打ちをしたグレンは面倒そうに返事をし、ダグオンから手を離し左手を軽く動かした。
「えっ!? ちょっと!? また!? やめてください」
「ちげえよ。大人しくしろ!」
「へっ!? これは……」
ケイトの周囲の地面から雑草が生えて来て彼女の体に巻き付いた。先ほどと同じようなことになると、ケイトは顔を青くして抵抗しようとした。抵抗しようとするケイトにグレンは大人しくしろ声をかけた。グレンが動かした雑草は先ほどは違い優しくケイトの体を包んだ。ケイトは先ほどと雑草の動きが違うのに気づきグレンの言葉に従い大人しくするのだった。ケイトの全身に雑草が巻き付くと地面から抜けていった。ケイトは雑草で巻かれたようになった。すぐに巻き付いた雑草が緑に光り出した。
「えっ元に……」
光が消えると雑草は服に変わっていた。ケイトは持っていた服から手を離し両腕を広げ一回転する。グレンはケイトを見てうなずいた。
「これでいいな……」
「すごい…… グレンさん! 一緒に服屋さんをやりましょう」
ケイトは嬉しそうに笑いグレンに向かって口を開いた。グレンは彼女の言葉にすぐに反応する。
「おっと! それはあくまで仮の服だ。三日もすれば草に戻るからな」
「なんだ……」
「それにしょんべん漏らした下着は変わってないからな…… そこは自分で変えろよ。きたねえから」
「うっうるさいですよ!」
両手をあげるケイトにグレンはニヤニヤと笑っていた。グレンが使ったのは木属性魔法リーフイミテーションという。植物の形を自由自在に変化できるが永続性はなく長くて三日程度で元に戻る。ダンジョンで装備を破壊された冒険者が、脱出までの間リーフイミテーションで作った装備を使用したり建築物の応急処置などに使用されることが多い。
二人のやり取りを見ていたクロースがクレアの後ろに立って尋ねる。
「あの魔法は下着って戻せないですの?」
「いえ…… 出来ますよ。ただ…… グレンの記憶による影響が大きくて…… おそらく…… 私の下着に……」
「ふふふ。仲良しですね」
リーフイミテーションは記憶あるものしか再現が出来ない。グレンが女性の下着を再現しようとすると見慣れたクレアのものになるのだ。
恥ずかしそうに答えるクレアにクロースは優しくほほ笑むのだった。
「ほら行くぞ!」
「待って!」
グレン達はケイトと一緒に八十三階へと移動を始めたのだった。歩き出してすぐにグレンが何かに気づいて手のひらを上に向けた。
「雪か……」
グレンの手のひらに雪がひらひらと舞い落ちて来た。雪が降り始め風が徐々に寒くなる。
「キティルちゃんが居なくなったからですね。皆! 寒くなりますよ!」
舞い散る雪を見たクレアは後ろを向いて皆に注意したのだった。キティルが作り出した小さな太陽は周囲の雪を溶かし効果が持続していたが、彼女が連れ去られたため急速に冷え始めたのだ。
静かに降っていた雪はあっという間に吹雪へと変わり、グレン達は足早に魔導エレベーターまで移動し乗り込むのだった。
「ふう……」
扉がしまった魔導エレベーターでグレンは体についた雪を叩き落とし一息を付く。扉の前で心配そうに天井を見上げていたララが顔を下げてクレアに向けていた。
「ねえ? 二人は本当に八十三階にいるの?」
「わかりません…… でも手がかりはこれしかないんですよ」
クレアは金属の板を持って見せる。ダグオンが読み上げた金属の板に書かれた八十三階という言葉が手かがりだった。




