第446話 光に消える
畑に立つケイトの前に二人の人間が立っていた。煙幕により三人の周囲は灰色で何も見えない。ケイトの前にいるのは冒険者風の革の鎧に身を包み腰に剣をさし左に丸い盾を持った男女二人組で、にやけた口元から牙が出て目が赤く光っている。二人組はヴァンパイアのようだ。
ヴァンパイアを前にケイトは口元に手を助けを呼ぼうとした。
「たっ助け…… えっ!?」
二人組の背後の煙が揺れるように動き盛り上がるように動く。煙を切り裂きながら目の奥を光らせ黄色いのオーラを纏い剣を構えたグレンが現れた。右腕を引き剣先を前に向けたグレンはするどい視線を男女二人に向けた。彼は目にも止まらぬ速さで背後から二人の背後から心臓を貫く。
「うぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」
胸からグレンの剣により開いた穴から、血を吹き出し悲鳴を上げる二人だった。目の赤い光が消え二人は膝をついて仰向けに倒れた。グレンは表情一つ変えずに剣の血を拭う。
顔を青くして引きつらしケイトは剣の血を拭うグレンを見つめている。グレンはジッと彼女を見て口を開く。
「大丈夫か?」
グレンの問いかけにケイトは目を大きく見開いてハッとした顔をしてすぐにうなずいた。
「えっ!? うん…… 大丈夫だよ。ありがとう」
「あぁ。礼はいらない。たまたま俺が近くに居ただけだからな」
首を横に振りグレンは右手に持った剣の先を下に向け、視線を左右に向け周囲を警戒する。
「でっでもグレンさんは…… どうやってここに…… 煙で見えないのに……」
ケイトは煙幕の中を正確に自分の元に来たのが不思議なようだ。グレンは小さくうなずいて彼女に答える。
「木は肌で周囲の状況を把握するんだ…… それに俺は月の眼もあるからな」
「えっ!?」
左手を自分に向けた後に天井を指すグレンだった。グレンは二つの特殊能力により視界がない状態でも敵や味方の状態が分かるのだ。特殊能力森のソムリエにより彼の皮膚は植物の葉のように空気の変化を敏感に察知し、もう一つの特殊野力月のほほ笑みは月を第三の眼として天から壁や天井にはばまれずに見通すのだった。
「こいつか?」
「あぁ。そうだ!」
「うわあああああああああああああ!!!」
煙幕の向こうから人の話し声と悲鳴が聞こえた。グレンは視線を鋭くして駆け出していた。煙の向こうでは空から飛来した黒い服に白い手袋を付けた執事のような姿のヴァンパイアが、ダグオンに襲いかかってきた。空からダグオンをさらおうと近づいて来たヴァンパイアが手を伸ばした。勘の良いダグオンはわずかな煙の動きからヴァンパイアの接近を察知し慌てて頭を抱えてしゃがんだ。
「チッ!!」
ヴァンパイアの手が空を切った。ヴァンパイアはダグオンをかすめるようにして空へと戻り煙でまた姿が見えなくなった。近くに居たララがダグオンの声を聞いて彼の元へと駆けつけた。彼女の後からラピとキティルもダグオンの近くへやって来た。
「ダグオン! 大丈夫?」
「はっはい!」
しゃがんだまま返事をするダグオンだった。ララは視線をヴァンパイアが消えた灰色の煙へと向けた。
「させないわよ…… どこよ…… こうなったら! ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
両腕を広げ前へと突き出したララだった。彼女のベルトから銀の短剣が飛び出し一斉に煙の中へと飛んで行った。煙の中へと短剣が消える。ララは両腕を左右に交差させたり、上下に動かし続けている。風に吹かれたように煙が動いている。数十本の短剣が煙の中を縦横無尽に飛んでいるのだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
悲鳴が聞こえ何かが落ちる音がした。銀の短剣がヴァンパイアを捉えたようだ。にやりと笑って振り向いた。胸を張って得意げな顔をキティルとラピに向ける。
「ふっふーん! どんなもんよ!」
「ララちゃん! ダメ! 後ろ!!」
キティルが叫んだ。血だらけの白い手袋をつけた手が伸びて来た。煙の中からダグオンをさらおうとしたヴァンパイアが出て来たのだ。灰色の初老男性ヴァンパイアは額や体から血を流している。ララが短剣によって傷ついたが心臓はなんとか守ったようだ。
「貴様アアアアアアアアアアア!!!!!!! よくもお!!!!!」
「キャッ!」
背後から左手でララの肩をつかんだヴァンパイアが右手を振り上げた。彼の右手にララが動かしていた銀色の短剣が握られている。
「させねえべ!」
「クソ! じゃまするな!」
とっさにラピがジャンプしてヴァンパイアの右腕につかみかかった。ラピの飛び掛かった勢いは強くヴァンパイアは左手がララから外れバランスと崩れて倒れた。二人はもみ合うようにして地面を転がっていき煙の向こうへと消えていく。
「ラピちゃん!!!」
キティルはラピの名前を呼び背中の杖に手をかけ追いかける。地面に倒れた状態のヴァンパイアの右腕にラピがしがみついていた。
「離せ! この!」
「クッ!!! 負けねべ!!!」
ヴァンパイアは左手でラピを殴りつけ彼女を振り払おうとしていた。殴られたラピは必死に我慢しにしがみつく。
「はっ!?」
地面に置いていたヴァンパイアの右手が動いた何かに触れた。ララが操作していた銀の短剣が地面に落ちていた彼は短剣を掴むと、右手に逆手に持ってラピに向かって振り上げた
「ダメよ! そんなことさせ…… えっ!?」
空から煙を切り裂き矢じりが黄色の矢がキティルとラピと男の間に落ちて来た。地面に矢が刺さると激しい強烈な黄色の光が周囲を照らす。
「グワアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!」
「うわああああああああああああああああ!!!」
激しい光に包まれた三人は声をあげた。同時に衝撃と風が巻き起こり煙を吹き飛ばした。光がおさまりララは体を起こし呆然と二人が居た場所に視線を向けた。
「えっ!? キティル…… ラピ…… どこ……」
ララが呆然としていた。光が消えるとラピとキティルの姿が消えていた。彼女の少し後ろでしゃがんだまま厳しい表情でララと同じ場所をダグオンが見つめていた。
「ララ!? どうした?」
「大丈夫ですか?」
グレンとクレアがララに駆け寄って声をかける。ララは振り向き二人が居た場所を指した。彼女は何も言わずにずっと地面を指したまま黙っている。グレンは何も言わないララにさらに口を開く。
「おい。ララ! ラピとキティルはどこに?」
「グレン君……」
グレンと止めたクレアはララの横にしゃがんで彼女を抱っこした。両手でララを抱っこしクレアは優しく声をかける。
「二人はどこですか?」
「わからない…… 消えちゃった……」
クレアの問いかけにララはようやく言葉を発した。ララは首を横に振り徐々に表情が歪んで目から涙がこぼれる。
「私…… 私…… うわあああああああああああああああああん!!!!」
「ラピちゃん…… 大丈夫ですよ」
泣き出したララを優しく抱きしめるクレアだった。泣くララを横で悔しそうにグレンは拳を握り自分の太ももを軽く叩く。
「クソ! やられたな……」
「私も…… です…… ごめんなさい」
「クレア義姉ちゃんのせいじゃない……」
首を大きく横に振るグレンにクレアは優しくほほ笑んだ。
「じゃあグレン君もですよ」
「えぇ…… 誰かのせいしてもしょうがないですわ。これからどうするか考えないと……」
二人が振り返った。ダグオンを連れクロースがやって来て話を聞いて声をかけたのだ。二人はクロースに向かって力強くうなずいたのだった。




