第445話 ロックをかけた冒険者
キティルが魔法で作った小さな太陽が徐々に小さくなっていく。火に包まれたスノーゴブリンは倒れ畑の上で燃え転がっていた。
「あっああああ……」
苦しみながらスノーゴブリンが這いつくばりながら腕を伸ばし必死に助けをララ達に求める。ララは静かに視線をそらした。ラピはジッと黙り静かにスノーゴブリンを見つめていた。ダグオンは消えていくキティルの太陽をジッと見てスノーゴブリンには興味がなさそうだ。
ララは小さく首を横に振ると笑顔で振り返る。キティルは下した杖を持ったまま左一つで帽子を被りなおしていた。
「やるじゃない。キティル!」
「ふふ。ありがとう」
ほほ笑むキティルにララは大きくうなずいた。キティルは左手で帽子を直す、彼女を見ながら首をかしげるララだった。
「ねぇ。さっきの塩をばらまいたのはどうやったの?」
「えっとね。ファイアボールの術式を帽子に記憶させてね。この帽子に保管してあるのを自由に打ち出せんでだよ」
ララはキティルの言葉に大きく目を見開いた。
「そんなことできるの? ファイアボールの威力が強くて塩も帽子も壊れちゃうじゃない?」
「できるよ。私ならね。だって私は深紅の炎使い…… 全ての火は私の意思のままだもん」
左手を胸に置いて笑顔でララに答えるキティルだった。ララは自分の両手を見つめ拳を強く握った。
「よーし! はっ!!」
気合をいれララは両手を前に伸ばした。地面に落ちていた数十本の銀色が浮かび上がった。ララは両腕を曲げると短剣は一気に戻って来た。短剣はララのベルトへ戻っていった。飛ばした数十本の短剣が全て戻るとララは片足を浮かして回転して振り向いた。キティルに体を向けたララはうつむき黙っている。
「ラッララちゃん?」
キティルはうつむき黙っていたララに声を声をかけた。ララは顔を上げるとニカっと歯をだして笑い右手の拳を空へと突き上げた。
「私ももっと努力しないとね…… 天才に努力に加わればもう無敵よ」
「うん! 一緒に頑張ろう」
「負けないわよ」
「私も! 負けないもん!」
二人は顔を見合わせて笑って大きくうなずいた。二人を見ていたラピは笑うと持っていた金棒を頭上にかざす。
「よし! じゃあ生き残りが居ねが調べるべ!」
威勢の声を上げるラピにララとキティルは振り向いてうなずいた。
「待って! その前にクレアさんたちと…… えっ!?」
「キティルさん! しゃがんで!!!」
背中の大剣に手をかけたクレアがラピの後ろから飛んで来た。瞬時でラピを追い抜いたクレアはキティルの前へとやって来る。キティルはクレアの指示通りに彼女が近づくと勢いよくしゃがんだ。クレアは大剣を勢いよく引き抜くとそのまま地面と水平に横へと振り抜いた。
大きな音がして地面に回転しながら太く短い矢が地面へと落下した。キティルと狙って矢が飛んで来たようだ。地面へと落ちた矢は矢じりの部分が赤く塗られていた。
大剣を振り抜いた姿勢で立っていたクレアは視線を斜め下に向け、横でしゃがむキティルに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「クレア!!! まだですわ!!」
「矢を!!」
クロースとグレンが駆けて来て前を指して口を開く。視線を二人が指した先に向けると飛んで来た矢が畑の上に転がっていた。矢じりが赤く光っていた。
「はっ!? みんな伏せて!!!」
矢を見たクレアが驚き慌てて皆にしゃがむように叫ぶ。
「そうだ! えい!!」
ハッとしたクレアはすぐに何かをおもいだしたのか、左手を大剣から離して人さし指で矢を指した。彼女の指先から細い光の剣が伸びていった。矢に光の剣が届く直前にクレアは視線を鋭くして指先をわずかに横に動かした。光の剣は鞭のようにしなり横から矢と地面の間に滑り込むようにして入っていく。クレアは指を曲げ上下に動かすと矢に剣が巻き付いた。
「はああああああ!!!」
クレアは声をあげ勢いよく腕を振り上げる。すぐに横に腕を動かし指を曲げいきおいよく伸ばした。矢を巻き付けてた光の剣が伸びて矢が遠くへと飛んで行った。
激しい音が響く。飛んで行った矢が爆発したのだ。丸い黒煙が上がる光景をクレアは見つめていた。
「魔導ボルトですか…… それと…… 意外と使えますね……」
黒煙を見てつぶやいたクレアは視線を 自分の左手の人さし指へと向け笑顔でつぶやくのだった。
「さて……」
視線をスノーゴブリンが居た崖の上へと向けるクレアだった。視線の先には赤いマントを付けた青色の鎧を着た茶色の長い髪の男性が立っていた。男は髪を後ろに結び鼻が高く目がやや細長い青い瞳をした綺麗な顔の若い男だ。彼は右手に片手用のクロスボウを持ち、腰には細長い剣を指していた。
クレアは男を見ながら大剣の先に彼を向けた。
「あなたは誰ですか?」
崖の上に向け大きな声で男に声をかけた。男はクレアを見て笑い右手に持っていたクロスボウを腰のベルトにかけた。
「はははははー! やるじゃないか!! はっ!!」
両手を広げ男は崖から勢いよく飛び下りた。着地した彼は歩きながらクレア達の元へと近づいてくる。
「あなたは…… バーガンさんですわね」
クロースが男を見て口を開く。彼女の言う通り歩いて近づてくる男は冒険者のバーガンだ。バーガンは立ち止まりクロースへ視線を向け笑顔で答える。
「君かあ…… 最近俺の嗅ぎまわっているっていう冒険者は……」
クレア達一人一人を確認するように、バーガンは視線を左右に動かした。
「さて…… 君達はなぜここに居るんだい? ここは僕がロックしているはずだが?」
左手をクレアたちに向けて尋ねるバーガン、クロースが一歩前に出て彼に答える。
「こちらにはA1ランクの冒険者がいますのよ」
クロースはクレアを手で指してバーガンに顔を向ける。
「ほう…… 彼女が噂の……」
視線をクレアに向けバーガンは笑った。クロースはハルバードを強く握ってバーガンに話を続ける。
「それで私達への用件は?」
「今すぐここから出て行けって言ったら?」
「申し訳ありません。こちらも事情があります」
笑いながらクロースに向かって尋ねるバーガンだった。クロースは作ったような笑顔で淡々と首を横に振り断った。
「はぁ残念だ…… 君達の冒険はここで終わるんだね」
バーガンは右手を腰にさしている剣へと持って行った。直後に視界が大きな影に覆われた。目の前に大剣を構えたクレアが現れたのだ。
「わああああああああああああああああああ!!!!!」
クレアは剣を振り下した。バーガンは剣を抜いてすぐに剣を上に向けた。彼の右腕が重い一撃により一気にしびれ全身を激しい衝撃が襲う。バーガンは衝撃で吹き飛ばされ声を上げる。
飛んで行ったバーガンは地面に叩きつけられる直前に体勢を立て直し着地した。すぐに彼は手を付いて立ち上がり剣をクレアに向ける。
大剣を振り下した姿勢で、視線をバーガンに向けクレアは首をかしげた。
「あら!? 意外とやりますね。さすがロック権を使える冒険者といったところですか……」
大剣を戻して剣先を下に向けクレアは口を開いた。クレアを見ながらバーガンは笑う。
「強いねぇ。僕一人じゃ無理だ……」
「仲間は呼ばせませんよ」
大剣を構えたクレアにバーガンは首を大きく縦に動かしうなずく。
「どうかな…… こうすれば呼べる…… さ!!!」
「しまった!」
バーガンは左手を腰につけている矢筒へと伸ばした。
矢筒から矢じりが黒い矢を取り出し、素早く足元の地面に向けて投げた。矢が光り爆発しバーガンと畑が煙に包まれクレアは彼を見失った。
「キャアアアアアアアアアアアア!!!」
「ケイトさん!?」
空気を切り裂くような音とケイトの悲鳴が聞こえ視線を向けるのだった。クレアの視界は灰色の煙で覆われていて数メートル先も見えなかった。




