第443話 姉はぺろぺろされたい
「「何しているんですか!!!」」
「わっ!?」
グレンの背後から同時にクレアとキティルが声をあげた。驚いたグレンはクロースから手をはなす。クロースはなぜか慌ててグレンに息を吹きかけられていた手を背後に隠す。
キティルとクレアは視線をクロースに向けた後にグレンに睨む。
「クロースちゃんの指に…… グレン君!」
「ずる…… 不潔ですよ! グレンさん!!!」
「はぁ!? ただクロースが火傷してたから処置を…… あっ! そうだ」
何かを思いついたグレンは足元に置いた、グローブ草の幼苗が入った革袋へと手を伸ばした。彼は袋をつかんで中からグローブ草の幼苗を取り出した。
「えっと…… コールド魔人の体液に…… アイスリボンダケかな」
グレンはぶつぶつとつぶやきながら、クレアが肩からかけた鞄に手を伸ばした。彼はクレアの鞄を勝手に開けて中身をあさりだす。
「ちょっと! グレン君! ごまかさないでくださ……」
「えっ!? なにをごまかすって? クロースの火傷の薬を作るんだよ」
いきなり鞄をあさられ声をあげる、クレアにグレンは首をかしげていた。グレンを見たクレアは諦めたような顔をして首を横に振った。
「まったく…… ふふふ。はい」
「あっあぁ。ありがとう」
クレアはグレンの顔を見てほほ笑むと鞄を肩から外し彼に渡したのだった。鞄を受け取ったグレンは座ると鞄を膝に置き何かを探していた。
真剣に鞄の中身を探っているグレンを見てグレンにクレアは優しい瞳を向ける。
「傷ついた人をほっておけないんですね…… グレン君らしいです……」
「そうですね……」
「「はあ…… こっちも傷ついてるんですけど……」」
キティルはクレアの言葉に同意しうなずいた。二人は同時にため息をつき声をそろえ一緒にクロースを見た。ジッと黙って見つめて来る二人にクロースは気まずそうにして声をあげる。
「なっなんですの……」
「「なんでもないです!!!」」
声をそろえるクレアとキティルだった。行動がシンクロする二人にクロースは思わず笑ってしまう。
「なっ仲良いいですこと……」
「「別に仲良くありません」」
再び声をそろえるクロースに首を大きく振ってため息をつくのだった。
「はぁ…… もうなんでわたくしが…… でも…… ふふふ」
うつむきクロースは隠していた指を前に持って来てほほ笑む。キティルとクレアは彼女を悔しそうに見つめていた。
グレンは少しの間下を向いて作業をし顔をあげた。彼が左手に持つ乳鉢には緑色に青い粒が混じったドロドロした液体が入っている。乳鉢に入っているのはグレンが調合した火傷の薬だ。
「よし薬が出来たぞ! クロース! 指をかせ」
「はっはい。でも…… もう大丈夫です」
「いいから! ほら貸せって」
グレンは手を伸ばしクロースの手を取り、自分の前へと持って行くと火傷した彼女の指に薬を塗っていく。
「よし!」
薬を塗ったグレンはうなずくと口を開いた。彼は口をクロースの指に近づける。
「パク……」
「えっ!? グレンさん…… なにを…… ふふくすぐったいですわ」
「「!!!」」
グレンはクロースの指を口に含んで舐めたのだ。困惑し顔を真っ赤にするクロースの横で顔を真っ赤にしてグレンとクロースを見るクレアとキティルだった。
指から口をはないたグレンは手で口を拭う。困惑した様子のクロースを見た彼は口を開く。
「本来なら火傷を舐めるのはダメだが。その薬は人間の唾液と混ぜると効果が強くなるんだ……」
「でっでも…… 少し恥ずかしいですわ」
「がまんしろよ。治療だからな。それにこの薬の効果の実験もあるんだからな」
「えっえぇ……」
また口を開けクロースの指をつかんだグレンは彼女の指を口に含んで舐める。クロースは恥ずかしそうに顔を真っ赤にし受け入れた。
「よし…… 後は包帯を……」
「大袈裟ですわ。もう大丈夫ですから」
口をはなしクロースの指をつかんだまま、包帯を巻こうとするグレンだった。クロースは大丈夫だと言って断り手をはなそうとした。しかし、グレンはぐっと彼女の指を強くつかんで離さない。
「ダメだ。きちんと保護しないと! 治るのが遅くなるからな」
「真面目ですね……」
「あぁ。キチンと丁寧にやらないとうちの師匠がうるさいからな」
「師匠…… あぁレイナさんですか」
グレンはニコッとほほ笑みうなういた。クロースの指に丁寧に包帯を巻いていく。彼女は自分の指に優しくまかれていく包帯を笑顔で見つめていた。
クレアとキティルは苦々しくクロースとグレンを見ていた。二人の視線がグレンとクロースの間に置かれたザルへと向かった。
「「はっ!?」」
何かを気づいたクレアとキティルは顔を見合わせると、競うようにして駆け出した。
「どいてください」
「そっちこそ!」
肩を前に入れガードするクレアをキティルは手を女の頬にあて押しのけようとした。醜い争いを繰り返した二人は滑り込むようにしてザルの前に来て膝をついた。
ほぼ同時に二人はザルに盛られたグローブ草の幼苗へと手を伸ばす。
「あついです」
「あつーい」
クレアとキティルはグローブ草の幼苗をつまんでわざとらしく声をあげる。二人の声はどこか艶っぽくこびているような感じだった。二人の様子をグレンは冷めた目で見つめていた。
「あのさ。それもう冷めてるだろ……」
「「チッ!!!」」
冷静にすでにグローブ草の幼苗がすでに冷めているという、グレンに二人は大きな舌打ちをした。眉間にシワを寄せ睨むのだった。
「なんだよ…… まったく」
「グレン君が悪いんです!」
「そうですよ!」
「はぁ……」
首を大きく横に振ってグレンは小さくため息をつくのだった。クレアとキティルはグレンを睨み続けた。クロースはグレンが巻いた包帯を見てほほ笑んだ後に真顔になる。
「さて…… そろそろ遊ぶのは終わりにしたほうがいいですね」
「あぁ。そうだな……」
「わかりました。キティルさん。ラピちゃん達を呼んで来てください」
「はい」
返事をしたキティルは畑でグローブ草の幼苗を収穫しているララ、ラピ、ダグオンを呼びに行った。クロースとクレアは武器を取りだし手に持った。グレンはかまどの火を消すのだった。
「みんなー。戻ろう」
「わかったわ。ラピ、ダグオン、行くわよ!」
キティルは畑の中央でしゃがんでいた三人に声をかけた。振り向いてララが返事をして立ち上がった。
「ふー! やっぱりフィールドワークはいいですねぇ。うん!? なんですか? あれ……」
立ち上がったダグオンが背伸びし丘の上に視線が向き直後に何かに気づいた。眼鏡の縁に手をかけよく目を凝らしている。隣にいたラピが彼の様子に気づいて視線を追っていく。
畑の囲むようになっている丘の上に、体色の白い塊がうごめいた。畑に近づいているようでぼんやりした塊が徐々にはっきりと見えて来る。
「あれは…… スノーゴブリンだべ!」
「えっ!?」
丘の上を指してラピが叫んだ。白い塊は子供くらいの大きさの魔物集団だった。スノーゴブリンは北国の気候に適応した白い体色をしたゴブリンだ。獲物が少ない生存競争が激しい北国に適応した、スノーゴブリンは通常のゴブリンより個体は強いが群れの数が少ない。崖の上のスノーゴブリンは毛皮を体に巻き付け手には石剣や手斧や石の槍を持っている。いくつかの個体は木の盾を装備している。スノーゴブリンは五百匹以上の群れだ。
「みんな! 離れないで! クレアさん! 魔物です!」
キティルは丘の上を見ると三人の前に出て振り向いてクレアたちを呼んだ。彼女は背中に手を回し杖を構えるのだった。
「「「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」
スノーゴブリンの集団は畑の中央に立つキティルを指さした声をあげた。彼らは一気に崖へと向かって駆け出したのだった。




