第442話 熱々にはご注意を
グレン達がグローブ草の畑に下り立ってからしばらくして…… 崖の上に残されたケイトがグローブ草の畑へと下りて来た。飛べない彼女は崖を直接下りることは出来ずに迂回してきた。
「はあはあ…… なんで…… ひどいよ……」
走って来たケイトは畑の前で膝に両手をついて息を切らしていた。置いて行かれたことに愚痴をこぼし彼女は顔をあげた。
「って!? えええええええ!?」
声をあげるケイトだった。彼女の視線の先には畑の脇にララとラピとダグオンが居て、三人は笑顔で話をする姿が見えた。
「ララが一番だったべな」
「へへへっ! 当然よ。あんたたちもっと頑張りなさい」
「ずるいですよ。特殊能力を使うなんて!」
「なによ! べつにあんたたちも使えばいいじゃん!」
三人は両手に楕円型イチゴのような濃い緑色の芽をたくさん抱えていた。どうやら三人はグローブ草の幼苗を採取した数を競っていたようだ。ケイトは目をおおきく見開いたまま固まっていたがすぐに我に返って三人の元へと向かう。
「なっなにをしているんですか!!! あなた達は!!!」
「わっ!? なによ!」
「どうしたべ? 慌てて?」
駆けて来て三人に向かってケイトが叫ぶ。いきなり叫ばれて驚くララ達だった。声が聞こえたグレンとクレアが駆け寄って来た。グレンは湯気を立てるグローブ草の幼苗が入った器を左手に持っていた。
「どうした?」
「グレーン! ケイトがいきなり怒鳴って来たの!」
声をかけるとララがケイト指して怒鳴られたとグレンにチクる。ララにチクられたケイトはムッとして眉間にシワを寄せグレンに顔を向けた。
「何をしているんですか!」
「えっ!? なにってみりゃわかるだろ。収穫だよ。グローブ草の!」
怒ったように叫ぶケイトにグレンは少し驚きながら、畑を指して右手で指して平然と答える。
「収穫? でも…… 幼苗でしょ! どうして収穫なんかするんですか!」
「幼苗は幼苗で薬の材料になる…… それに…… パク!」
グレンはケイトと話しながら器に盛られている、グローブ草の幼苗をつまんで口に運んだ。口をもごもごと動かすグレンにケイトは器を指して尋ねる。
「なんですか…… それ……」
「グローブ草の幼苗だよ。茹でて食うとほろ苦くてな。春の味がするんだってよ! もうちょっと塩きかせてもいいかな…… パク! もぐもぐ」
小刻みにうなずきながらグローブ草の幼苗をもう一つをつまんで口に運んだ。彼は右手を舐めると親指を立てて背後を指す。グレンが指した先には火が付いたかまどに鍋とその前で番をするクロースが居る。かれらは採取したグローブ草の幼苗を塩ゆでにして食べるようだ。
もぐもぐと口を動かすグレンにクレアとララが目をおおきく見開いた。
「あーーー!!! グレン! なんで一人で食べるのよ! ずるいよ」
「そうですよ! みんなで分けてください!」
ララがグレンを指して走って来て、横にいたクレアがグレンに詰め寄った。グレンは二人にめんどくさそうな顔をして答える。
「はぁ? 味見だよ。味見!」
「だったら私にも味見させてください」
「私も!」
二人は自分を指して味見させろと要求する。グレンはあきれた顔で口を開く。
「しゃあねえな。ほら」
「ぶー」
グレンは器からグローブ草の幼苗のつまんでララの口に持って行った。ララを先にされクレアはグレンに向かって口を尖らせ不満げにしていた。
「あー! パク! モグモグ」
「ほら次はクレア義姉ちゃんな」
「あーん!」
ララの口にグローブ草の幼苗を放り込んだグレンは次にクレアの口にグローブ草の幼苗を持っていた。二人は口をあけグレンから食べさせてもらい満足そうに咀嚼を始める。
「モグモグ…… うへえ苦い」
「あら!? やっぱり子供のララちゃんに早かったですかね。この苦いのが美味しいんですよ…… もぐもぐ」
苦味の強いグローブ草の幼苗にララは舌を出し、眉間にシワを寄せ文字通りの苦い顔をする。隣に居たクレアは平然を食べてララを子供扱いした。ララは視線をクレアに向け大きくうなずいた。
「あぁ。おばさんはこの苦いがいいのね…… 私ももっっっっと大きくなったらわかるのかしらね」
「おば!? ララちゃん!」
クレアはおばさんと言われ目を見開いてララに向かって叫ぶ。ララはいたずらに笑って舌を出していた。
「ったく…… 喧嘩するなよ! もう!」
二人を見てグレンは首を大きく横に振るのだった。ケイトは心配そうにグローブ草の幼苗を食べる二人を見つめていた。グレンの背後に一人の人影が近づく……
「私も! あーーーん」
キティルがグレンの背後で手をあげた。振り向いたグレンが視線を下に向けた。残念ながらもうグローブ草の幼苗はなくなっていた。
「えっ!? 悪い…… もうねえや。わりい。すぐにもう一回茹でる」
「そんなぁ……」
申し訳なさそうにするグレンにキティルはしょんぼりとしていた。グレンはかまどに戻り器を置くとすぐに革袋を持って戻って来るのだった。
「ほら! みんな採ったやつを入れてくれ」
「んだ!」
「わかりました」
ラピは返事をして抱えるようにして持っていたグローブ草の幼苗を袋に入れる。続いてダグオンとララも革袋にグローブ草の幼苗を入れた。グレンは革袋を縄でしばり抱えてかまどへと戻る。
身軽になった三人は畑へと再び向かうのだった。
「よーし次も私が一番よ」
「負けねべ」
「僕も!」
腕まくりするララとラピに両手をあげるダグオンだった。三人の後をクレアとキティルも付いていく。ケイトは畑に足を踏み入れる五人を見て嘆くような声をあげた。
「あーあ…… それにこっちも……」
視線を横に向けたグレンはかまどの前へと戻っていた。かまどの番をしているクロースの後ろに向かったグレン、口が閉じられた革袋が三つ置かれていた。革袋はぱんぱんに膨らみ中身が詰まっているようだ。
革袋をかついだグレンはかまどの前へと移動する。革袋をかついだグレンを見てクロースが尋ねる。
「まだ茹でるんですの?」
「あぁ。意外と好評でさ…… 味見じゃなくて食事になりそうだぜ…… オリビアいねえのに……」
「ふふふ」
顎で畑で作業する五人を指すグレンを見て、ほほ笑むクロースだった。グレンは水を鍋に足して沸騰させる。沸騰した鍋にグダール塩湖の塩を入れたグレンは革袋を開け、鍋の中にグローブ草の幼苗を入れる。袋のグローブ草の幼苗を半分いれるとグレンは袋を閉じて足元に置いた。クロースは足元に置かれた革袋に視線を向けた。
「全部いれませんの?」
「あぁ。量が多いしな…… 残りはグレゴリスに渡して新しい料理を作ってもらうかな」
「いいですわね」
嬉しそうにうなずくクロースだった。すぐにグローブ草の幼苗はゆで上がり、グレンはザルを使ってグローブ草の幼苗をすくい上げていく。
「食べてみるか?」
ザルの上でもくもくと湯気を立てるグローブ草の幼苗をクロースに差し出すグレンだった。クロースは嬉しそうに笑った。
「あら? 良いんですか? いただきますね」
「熱いから気をつけてな」
湯気を立てるグローブ草の幼苗へと手を伸ばすクロースに注意するグレンだった。彼女がグローブ草の幼苗をつかんだ瞬間に……
「あっつ!」
「だから熱いっていったのに……」
グローブ草の幼苗はクロースの予想よりも熱く彼女はすぐに手をはなす。グレンは笑いながら近くに置いてあった水桶を持ってくる。
「ほら手を貸してみ」
「ごめんなさい……」
指先を火傷したクロースの手を取ったグレンは水を優しくかける。クロースの指先は少し腫れ軽い火傷をしているようだ。しっかりと水で冷やしたグレンはクロースの指先に口を近づけた。
「ふーふー」
「えっ!?」
冷えたクロースの指先にグレンは優しく息を吹きかけた。クロースは驚き顔を真っ赤にした。
「グッグレンさん!?」
「息をかけると冷たいだろ。ガキの頃に俺が火傷して時に姉ちゃんがやってくれたんだ。本当はダメらしいけど…… 軽い火傷だからな」
恥ずかしがるクロースにグレンが笑顔を向ける。彼の背後から二つの人影が近づいて来ていた。




