第441話 足元にご用心
丘から見えた雪原に埋もれた雪原へとグレン達は移動を開始した。丘を下りて行くと段々と雪深くなっていく。先頭のクロースは地面の雪にハルバードをつきさして歩いていた。
「誰もいらっしゃらないのですわね…」
顔をあげたクロースが棒がささって雪に埋もれた畑を眺めながている。雪原は見張りも誰もおらず棒の先につけられた旗が風に吹かれはためくバタバタという音だけが鳴っている。
「もう誰も近くにいないのかも知れませんね。クロースちゃんの雷だって聞こえているでしょうしね…… だとすれば近くの階から……」
顔を左右に動かしながら顎に手を置いてクレアがつぶやくいていた。クロースとクレアの後ろにララとラピとダグオンが歩き彼らを見守るようにケイト、キティル、グレンがすぐ後ろを歩いていた。
一人で少しだけ横にそれたララが立ち止まり雪原をみた。
「雪の下に畑か…… いろんなのがあるんだね」
「別におらのとこじゃ珍しくねえべよ。秋に収穫した野菜を雪の下に保管すたりするからな」
「へぇ……」
ララの隣に来たラピが雪を指して答えている。
「天然の保管庫ですね…… 確か魔導保冷庫も雪国の風習から生まれたものでしたね…… 移動式の魔導保冷庫は魔王軍との戦いでも活躍しましたね…… でも、それは戦闘にではなく…… 戦時下の土木建設の作業員の飲食を円滑化し時短に……」
二人の横をダグオンがつぶやきながら通り過ぎていった。彼は雪原を見渡しさらに前へと出て行く。ダグオンに気づいたラピが慌てた様子で叫ぶ。
「おい! おめさ! 雪のすたどうなってかわかんねだから! 危ねぞ!! はなれんな」
「ちょっと! ダグオン! 聞いてるの?」
ダグオンは集中し考え込んでおり二人の声が聞こえないようだ。ララが前に出てダグオンを止めようと手を伸ばす。ラピもダグオンを追いかけララに続く。
「うわああああああああ!!!」
「ダグオン! だめ! キャアアアアアアアアアアア!!!」
目の前を歩いていたダグオンの体は消えて行った。なんとかダグオンの手をつかんでいたララは引きずり込まれようにし一緒に消えた。ダグオンとララは急に深くなった雪に体が埋もれてしまい穴に落ちたようになったのだ。
悲鳴を聞いたグレン達がすぐに二人の元へと駆けつける。
「そこで止まるべ」
二人が埋まった場所に寝転がった、穴を覗き込んでいたラピが振り向いてグレン達を止めた。グレンたちはラピの指示に従い立ち止まる。
ラピはすぐに前を向いた穴を覗き込む。
「大丈夫だべか?」
「うん…… 大丈夫。ダグオンも平気……」
「はっはい…… 重い……」
「うるさいわよ! って! あんたなんてとこに顔をつけてるのよ! エッチ!!!」
穴の奥で折り重なった二人、ダグオンの顔にララの尻が押し付けられていた。自分の尻にダグオンの顔が当たっているのに気づき、ララは顔を真っ赤にしていた。
「苦しい……」
「ちょっとくすぐったいでしょ! 息をしないでよ!」
「そっそんな…… ひどいですよ」
「あはは。もうしゃべんないで!」
穴に落ちた二人は元気そうに喧嘩をしている。ラピは安堵の表情をすると振り向いてグレン達に視線を向けた。クレアはこちらを向いたラピに口を開く。
「二人は?」
「元気にしてるべ。怪我はなさそうにだべな」
「よかったです」
胸に手を置いてホッとして安心したように微笑むクレアだった。
「さて…… ララちゃんは飛ぶの苦手ですからね」
「わかった。じゃあ俺が飛んで中へ行くよ」
「気をつけてくださいね。雪が崩れないように慎重にお願いします」
グレンがララ達の元へ行こうというとキティルが右手をあげた。
「大丈夫ですよ。私に任せてください! みんな! 動かないでくださいね。ハッ!」
キティルは全員に動くなと指示をだし、あげていた右手を杖にもっていき取り出した。彼女は取り出した杖を雪の上につけ先を斜めに傾けた。
「おっ!? これは……」
「ふーん。やるじゃない……」
ララとダグオンを囲む雪が赤く光りだした。地面から炎に包まれた鉄格子の壁がせり上がって来た。炎により周囲の雪が解かされていき、二人を支えるように鉄格子の床が現れた。
グレン達の周りにも同じような炎の壁が現れていた。
「これは……」
「グレートファイアウォールですよ! ファイアウォールの強化版です。ララちゃんと私達を守りながら雪を溶かしているんです」
強力なファイアウォールの炎が周囲の雪を溶かして行った。あっという間に丘と畑の雪が溶けていった。雪原が消えたグレン達の前に垂直に崖のようになった地形とその下に広がる畑が見える。
十メートルほど切り立った崖の途中で、円筒の炎の壁に囲まれララとダグオンは立っていた。鉄格子と炎の隙間から見える畑を見てララが声をあげる。
「すごい雪が深かったんだねぇ……」
「ほんとですね…… わっ」
「大丈夫よ。大人しくしなさい。上へ連れて行ってくれるわ」
グレートファイウォールの鉄格子の床がゆっくりとせり上がっていく。グレン達がいる崖の上へと二人は移動した。崖の上へとくると鉄格子が横に開いた。二人が外に出るとグレン達が迎える。クレアが前に出て声をかける。
「怪我はありませんか?」
「ないわよ。大丈夫」
「僕もです。ただ眼鏡がララさんの重さで……」
「何ですって!!!」
ダグオンの言葉に激しく反応するララだった。心配そうに二人を見ていたクレアは元気な姿にほほ笑みララの前にしゃがみ頭に手を伸ばす。
「よかったです。ららちゃんはダグオンさんを助けて偉いですよ」
「もう! やめてよ。クレア!」
「あぁ。こら」
ララの頭を撫でるクレアだったが、彼女の手を振り払い逃げるララだった。逃げられたクレアは不満げに口を尖らせたのだった。
クレアの手から逃げたララはキティルとラピの元へと来た。
「キティル…… ありがとう。ラピもすぐに来てくれて……」
「いいべさ。見習いの面倒みるのがハンターの務めだべ」
「そうね。私も協会長だし見習いの尻ぬぐいするのが仕事だもん」
「もう! なによ! 二人共嫌いよ!」
両手をあげて怒るララにラピとキティルは笑っていた。元気にしているララを見たグレンが口を開く。
「じゃあ下に行くか……」
「そうですわね。ほら! 皆さん行きますよ」
「わっ!? なにするべ!」
クロースはラピの背中に周りむと彼女を抱き機抱えて飛んだ。グレンはダグオンに向かって口を開く。
「ダグオン! こっちへ来い。クレア義姉ちゃんはララの面倒を見てやってくれ」
「はーい。ララちゃん! 行きますよ。戻って来てください」
「うぅ…… わかったわよ」
返事をしたララは不服そうに口を尖らせクレアの元へ戻って来た。クレアはララと手をつなぎ一緒に飛ぶ。キティルは一人で飛ぶとグレンはやって来たダグオンを脇に抱えて飛んだ。
「えっ!? えっ!? 私は? すいみませーん! 私は飛べないんですけど!!!」
飛び上がったグレンが振り返った。崖の上でケイトが一人だけ残り両手を振っていた。クレアは申し訳なさそうに答える。
「すみません。自力でお願いします」
「そうだな。お前も冒険者だろ。なんとかしろよ」
「そっそんなぁ……」
ケイトはしょんぼりとうつむいていた。ケイトを崖の上に残してグレン達は先に地上へと下りた。崖の下にある畑には濃い緑色の芽が出ていた。
「これが全部グローブ草だな……」
「そうですわね…… さてどうしますか? クレア……」
「うーん」
視線を上に向け考え込むクレアだった。横にたつグレンがニヤリと笑った。
「全部抜いちまおうぜ」
「えっ!?」
驚いた様子でグレンに顔を向けるクレアだった。グレンは小さくうなずいて口を開く。
「グローブ草の幼苗は煮だすと火傷の薬になる…… 俺達は偶然この畑を見つけた冒険者だ」
「なるほど…… ここは宝の山ですね。下の冒険者ギルドに持って行って換金しましょう」
「そうですわね……」
クロースとクレアが大きくうなずいた。グレンはララとラピとダグオンに顔を向けた。
「おい。みんな! 収穫だ。これを全部引っこ抜け!」
「んだ!」
「よーし! 任せて」
「いいですね」
返事をした三人は意気揚々と畑へと向かって歩いてく。ダグオンとラピは腕まくる仕草をし、ララは右腕を上に突き上げていた。vvv




