第440話 雪下に眠るもの
倒れた死体の服を見ていた、クロースがハッと目を見開いて振り向きクレアを呼ぶ。
「キティル、クレア…… ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
呼ばれたクレアがクロースの元へとやってきた。クレアがやってくるとクロースが横にずれた。クレアは彼女の横にしゃがみキティルは二人の後ろから覗き込む。
二人が来るとクロースは死体から十字架を引っ張り出して二人に見せる。
「これを……」
「聖十字架…… この人は教会の……」
大きくうなずくクロースだった。死体の胸からひっぱりだされた青い小さな宝石が埋め込まれた銀色の十字架で、先端に黒い革製の紐が結ばれている。この青い宝石が埋め込まれた銀色に磨かれた十字架は聖十字架と呼ばれるもので、ノウレッジで教会に所属する人に聖女から支給されるものである。聖十字架を持つということは教会所属している者だということだ。ちなみに十字架は自分で用意することも出来るが、聖女オフィーリアより授かったという名誉があり大半の者は聖十字架を使用する。
「この人が福音派の人ってことは」
「いえ…… 福音派であれば蛇十字ですよ」
「そうですよね…… はぁ」
ため息をつき残念そうにするキティルだった。グローブ草を栽培している関係者に教会の人間が紛れこんでいる事実にキティルは落ち込んでいるようすだった
「もう想定していたでしょ。教会も侵食されているって…… そんなに落ち込まないでくださいまし」
「ちっ違うよ! 分かってたけど面倒だなって……」
「えっ!? ふふふ…… あなたもずいぶん図太くなりましたわね」
振り向いて微笑むクロースに、キティルは少し恥ずかしそうに頬を赤くした。
「まぁ…… 私の憧れの人が…… そんな感じなんで…… 私もそうなれればなって…… いつかその人の隣に…… キャっ!」
顔を真っ赤にして目を輝かせて両手を胸の前に組むキティルだった。クレアはムッとしていきなり立ち上がった。クレアとクロースの間に立って前を覗き込んでいたキティルの左肩の下から、立ち上がろうとしたクレアの右肩がぶつかる。突き上げらるようになったキティルは後ろに尻もちをついた。
「なっなにするんですか」
「ごっごめんなさい。そこに火が! 火があったんです」
わざとらしく床を指すクレアを頬を膨らませたキティルが口を開く。
「ウソですよね!? 私は火が近くにあったらわかります!」
「えっ!? そんなことありませんよ。そこに火があったんですー」
舌を出して床を指すクレアだった。二人を見てクロースは首を横に振った。
「ほら! もうおやめなさい。騒ぐとグレンさんが来ちゃいますよ!」
「はーい」
「もう……」
返事をするクレアにキティルは少し悔しそうに彼女を睨むのだった。しばらくテントの中を調査したクレア達はテントの外へと出た。
テントの外には男二人の死体が置かれていた。グレンの姿が見えず心配そうに首を左右に動かし彼を探すクレアだった。
「あれ!? グレン君?」
「おう! こっちだ」
声がして振り向いたグレンは上って来た反対側の丘のヘリに立っていた。クレアたちは彼の元へと向かうとグレンが近づいてきた。
「尋問は終わりましたか?」
グレンが近づくと立ち止まり笑顔でクレアは彼に声をかけた。グレンは大きくうなずき立ち止まって、コートのポケットに手をつっこんだ。
「あいつらから特に何もなかったな…… これくらいだ」
ポケットから手を出したグレンの手には短剣が握られていた。グレンは短剣の刃をつかんでクレアに差しだした。クレアはグレンから短剣を受け取った。短剣は金色で鍔と握り手が装飾され柄の部分が丸く赤く塗られた片刃の短剣だった。刀身は銀色に磨かれ十センチほどで短い。短剣は戦いで使用するというよりも装飾品という意味合いが強いようだ。
短剣を受け取ったクレアは大きくうなずいて隣に立つクロースに短剣を見せた。
「タイタロスの短剣ですね」
「そうですわね。確かタイタロス王国軍に入隊するともらえたはずですわ」
「詳しいな」
見ただけで短剣がどこの国のものかわかる二人に感心するグレンだった。クレアはグレンに短剣を見せて答える。
「これ私達ももらったんですよ。魔王討伐軍は各国の軍隊を兼ねてましたから」
「あぁ。なるほどな……」
うなずくグレンにクレアは微笑む。
勇者候補だった二人は各国軍隊と行動をともにすることが多々あった。タイタロス王国の軍は入隊時に王から短剣を送られる。勇者候補の二人もそのしきたりに従いタイタロス王から短剣が送られたのだ。
「じゃあこいつらはタイタロス王国軍ってことか」
「どうですかね。私達と同じ勇者候補かも知れませんよ」
男二人の死体に視線を向けるグレンだった。首をかしげて自分を指すクレアだった。
「まさか。勇者候補さんは大事にとっとくのか? すげえな。俺には出来ねえよ」
「あぁ。グレン君なら乱暴に扱って壊して王様から怒られますね。冒険者ギルドの職員証も何度か無くしてますからね」
「なっ!? じゃっじゃあクレア義姉ちゃんはちゃんと保管してるのかよ?」
にんまりと笑うクレアにグレンはムッとした顔でもらった短剣をちゃんと保管しているのかと尋ねた。クレアは目をおおきく見開いた。
「えっ!? かっ鞄の奥に…… もう五年も……」
「ふっ俺と変わらねえじゃねえか」
「そうですね…… 変わりませんね。一緒です」
「えっ!? あぁうん」
クレアはグレンの手を握り自分の胸の前に持って行って首をかしげほほ笑み。グレンは彼女にほほ笑み返し見つめ合う。二人は雪から照り返される光によって輝いているように見える。
「ムゥ……」
「ふふ」
不満げに口を尖らせているキティルの横でクロースはあきれて笑っていた。二人は見つめ合うクレアとグレンから少し離れた場所に立っていた。
「さて……」
クロースはおもむろに歩き出し、見つめ合う二人へと近づいた。二人の間に立って左右を見たクロースは渋い顔をして手を叩いて声をかける。
「ほら! いつまでもくっついてないで仕事をしてくださいな」
「わっ!」
「あっ!」
声をかけられたグレンはクレアから手をはなした。手を離されたクレアはハッとして寂しそうにした。グレンは顔を赤くしてクロースに口を開いた。
「べっ別にくっついてな…… おっおい!?」
「えへへ仲良しですからね! 私達は!」
笑ったクレアはグレンの腕にしがみついた。グレンは驚いて少し離れた所にいるキティルは苦々しい顔でグレンにしがみつくクレアを見ていた。
「離れろ。別に仲良しじゃねえだろ」
「ぶぅ……」
クレアにしがみつかれた腕を動かし手を伸ばし、グレンは彼女を押して腕からはなした。はなされたクレアは不満げにしキティルは満足そうにうなずいた。
クロースは視線を横に動かし後ろを見て首を横に大きく振り口を開く。
「それで…… 丘の向こうには何かありましたか?」
「あぁ。あるっちゃあるな。とりあえず見てみな」
うなずいたグレンは丘の向こうを指した。彼は歩いてクロースとクレアを連れて行く。キティル達も三人の後に続く。
「あれは……」
丘のヘリに立ったクレアが向こう側を見てつぶやいた。丘の向こうは雪原が広がっていた。
「なにもないですよ?」
「えっと……」
首をかしげるクレアにグレンが答えようとすると先にラピが口を開く。
「いやあるべよ! 畑がいっぱいだべ」
「んだな。雪のしたにはグローブ草があるべ」
畑があるというラピにクロースがうなずいて同意する。横に顔を向けキティルが口を開く。
「えっ!? どこ? ラピちゃん?」
「あの棒と棒が目印になっているんだべ。雪の下に畑があるべよ」
得意げな顔でラピは雪原を指して答えた。雪原には等間隔で旗の青色の旗がついた棒が雪から顔を出していた。雪の棒は間に畑があることを場所を示しているのだ。




