第439話 沈黙の中の調査
雪が積もった丘を徒歩で頂上まで進む。彼らはクロースが稲妻を落としたテントを目指していた進んでいた。最後尾を進むグレンが視線を上に向けたうなずいた。
「さすがだなララ」
「当然よ!」
グレンのすぐ前を歩いていた、ララがいきおいよく振り向き勝ち誇った顔を彼に向けた。ララは両手を上に向けている、彼女の両腕の先にはグレンとクレアが片付けた男二人と彼らの武器が浮かんでいた。ララの特賞能力を使って男二人を運んでいた。
頂上のテントまで来たグレンたちは、オレンジ色で幅十メートル奥行きが二十メートルはあろうかという巨大なテントの前に立った。テントは頑丈でクロースから受けた稲妻でも破壊されずに白い湯気が立ち昇っていた。これはクロースの稲妻がテントに落ちた後、わずかな隙間から内部へ侵入し中を駆け巡ったためである。
ララが振り向いてグレンに尋ねる。
「こいつらどうするの?」
「あぁ。適当にそこら辺に置いてくれ」
「わかったわ」
腕を横に動かしてから下に向け、テントの近くにララは男二人を置いた。グレンは置かれた二人の横でしゃがんだ。
「さて俺はこいつらを…… みんなは中を頼む」
「はーい。行きましょうか。クロースちゃん」
「えぇ。みなさん中へ入りましょう」
返事をしたクレアは皆に声をかけた。二人はグレン以外を連れてテントの中へとは入る……
「ほう…… タイタロス王国式の移動式酒場バルーを戦闘用に改造したトバルですね。元はガルバルディア帝国への遠征時に士気高揚の手段として…… 狭い国土では移動式の住居は不要とされていましたが手軽さから逆に王国領内の市民の流動性を加速させ活発な交流が……」
立ち止まったダグオンがテントを見上げながらぶつぶつとつぶやいている。彼の後ろに居たララが不満げに口を尖らせ眉間にシワを寄せ睨んだ。
「ちょっと! みんな中に入ったわよ。ほら! 行くわよ! もう……」
「あぁ。申し訳ない。すぐ行きます」
ビクッと背筋を伸ばし慌てて振り向いてララに謝ったダグオンはテントの中へと入る。
「だいたいさっきの話なんかみんな知ってるわよ…… まったく……」
腕を組んでララはテントへと入る、ダグオンを見送りながらぶつぶつを不満を漏らし彼に続くのだった。クレア、クロース、キティル、ララ、ラピ、ケイトの六人がテントの中に入った。中には台の上に置かれた長方形の白いプランターが並び壁際には机が置かれている。プランターからは小さな濃い緑色の芽が出ていた。台にもたれかかったり地面にススまみれの人間が何人か倒れていた。
クロースは台へと近づき上半身を前に傾け、プランターの中を覗き込んだ。
「この草は…… グローブ草の幼苗ですわね」
振り向いたクロースはクレアに向かって口を開いた。クレアは彼女と同じように台に近づいてプランターの中を覗き込んだ。
「いくつかは丸焦げですけどね」
「しょうがありませんわ。力の加減が難しいですもの! 気をつけてくださいね」
少し恥ずかしそうに頬を赤くしてクレアの顔を向いて答えるクロースだった。テントの中はクロースの雷撃により熱せられ焦げて煙が上がっているの物がある。雷を自在に操るクロースであっても、屋内にいる生物に視覚や聴覚などに頼らず当てるのはさすがに難しいようだ。
クレアは彼女を見てほほえんでいた。クロースはちょっとだけプクっと頬を膨らませ倒れている人間の元の脇にしゃがんだ。
「なっ何しているべ?」
「おめみりゃわかんべよ。尋問だべ……」
黒いすすを払って倒れている人間を仰向けにして、装備を外すクロースにラピが声をかけてきた。ラピと一緒にいたララが話を聞いて口を開く。
「尋問って…… 死体を漁っているだけじゃないの?」
「そっそうですよ」
ララの言葉にケイトが同意する。振り向いたキティルが口を開いてララに答える。
「死体からでも情報は取れるんだよ。死体からどんな魔物にやられたか持ち物からどこの人間かとかわかるからね」
「ふーん……」
答え終わってどうだと言わんばかりの得意気な顔をするキティルだった。ララは腕を組み目を細めて視線をキティルに向けた。視線に気づいたキティルがララに口を開いた。
「なっなに?」
「いやぁ。キティルにしては良いこと言うなって思って…… グレンかクレアからの教えでしょ?」
「なっなんでわかるの!? あっ!?」
受け売りの知識だと見透かされ、慌てたキティルはすぐにハッとして自分の口に手を当てた。ララは彼女を見て首を横に大きく振り勝ち誇った顔をした。
「甘いわね…… 人の言葉じゃなくて自分の経験で語りなさいよ」
「うっう……」
しょんぼりとしてうつむくキティルだった。二人を見ていたクロースがあきれた顔をした。
「これじゃどちらが協会長かわかりませんわね」
「えぇ…… すぐに会長が交代するかも知れませんね」
「クロースちゃん! クレアさんまで! ひどいですよ!」
クレアはララを見て優しくほほ笑み。彼女を見たララは満足そうにうなずき親指を立て任せろとアピールする。キティルは慌ててクロースとクレアに向かって声をあげたのだった。
ララはキティルに向かって手を出してにんまりと笑った。
「いいわよ。いつでも会長を代わってあげるわよ!」
会長を代わってやるというララにすぐにラピが口を開いた。
「おめさは見習いだべ! ちょうしこくでねえ!」
「なっなによ! 良いじゃない! 別に見習いが会長でも!」
「ダメだべよ……」
腕を組んでプクっと頬を膨らませララにラピは首を大きく振るのだった。二人を見てクロースとクレアは顔を見合わせて笑っていた。
皆から少し離れたところの机でダグオンが真剣な表情をしていた。
「プラントにグローブ草の幼苗…… 幼苗は群生地に持って行くものでしょう…… うん!?」
左右に歩きながらぶつぶつとつぶやき歩いていた。ふと視線を机の向けた彼はなに気づいた。机の上には何か星図の上に文字と図形が書かれた紙が置かれていた。
「これは何でしょうか…… 何かの術式…… 火が…… まずい!」
雷で熱せられた机の上の紙が燃えダグオンが見つけた紙に火が付きそうになった。慌ててダグオンが神に手を伸ばした。直後……
「あっ! 火が! 危ない!」
「うわああ!!」
ダグオンの後ろに居たケイトが火を見て慌てて彼を突き飛ばした。ケイトはメイスを取り出し机の上にわずかに上がった火を叩いて消す。大きな音がテント内に響いた。
「なんですの? ケイトさん!」
大きな音にクロースが反応しケイトに声をかけた。ケイトはハッとしてメイスで火を叩くのを止めた。
「ごっごめんなさい。火が見えたんで叩いて消したんです……」
「そうですか……」
クロースに謝り机を指して説明するケイトだった。突き飛ばされたダグオンにララとラピが駆け寄る。ララが手を伸ばし声をかけた。
「あんた大丈夫?」
「はっはい…… でもあれが……」
「あれ? なんだべ?」
勢いよくダグオンが立ち上がりケイトが叩いて机の前へと駆けて行った。机の上の火は消えていた彼が見つけた紙はケイトのメイスに叩かれボロボロになっていた。
「あーあ…… これはもう読めませんね……」
「あははは…… ごめんなさい……」
机の上でボロボロになった紙を見て嘆くダグオンだった。ケイトはごまかすように笑いながらダグオンに謝るのだった。クレアは視線をケイトへと向けてほほ笑むのだった。
首を横に振ったクロースは尋問へと戻り、倒れていた人間の服の中に手を入れ覗き込んだ。




