第437話 塔の中に降る雪
グローブ草の群生地を目指して歩くグレン達だった。クロースが地図を見ながらクレアと二人で先導し、ララ、ラピ、ダグオン、キティルとグレンが二人の後ろに続き。少し離れた最後尾にケイトが進む。皆はコートを着ているが、キティルはコートを着ずに背負う杖の先端がわずかに赤く光らせていた。
歩いている途中で静かに雪が降る始めた。
「雪か…… 本当に気候を再現しているんだな」
「えぇ。こんなの今の魔導気象学でも再現できるかどうか……」
ひらひらと空から落ちて来た雪に手を出すグレンだった。雪の結晶を見ながら再現された気候に感心するグレンに同意するララだった。
グレンは近くを歩くキティルに声をかける。
「キティル…… みんなを温められるか?」
「はい。任せてください。ウォームアップ!!!」
背中に手を回し杖を抜いたキティルは先端を天にかざすように両手で持った。杖の先端が強く赤く光り出し小さな炎が現れた。同時に杖の周囲に暖かい空気が広がっていく。キティルが使ったウォームアップという魔法で、魔力によって作られた炎によって部屋などを暖める魔法だ。
「すごいぽかぽか! やるわね。キティル」
「えへへ」
ララに褒められ嬉しそうにキティルが笑っていた。雪の中をキティルに暖められグレン達は先に進む。暖かい空気から出ないようにグレン達は広がらず間隔を狭くして進んでいた。
しかし、天気はさらに荒れていき吹雪へと変わった。雪交じりの凍えるような風がグレン達に吹き付ける。
「うぅ…… 寒いわね……」
「あぁ…… 大丈夫か?」
両腕を組んで震えながらララが声をあげる。グレンが彼女に声をかけていた。ララは顔をあげ雪を顔に受けながらキティルに口を開く。
「キティル! 火の力を強めて……」
「はーい。ちょっと待って!」
返事をしたキティルは両手で杖を持って空に向かってかざして力を込める。炎が少し大きくなり暖かさが増していく。周囲が暖まりララとキティルの顔がほんのりとピンク色になり、ホッと安堵の表情を浮かべる。そこへ強い風が勢いよく拭いて来た。強い風でコートの裾が飛ばされないようにグレン達が手で押さえる。
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!!」
キティルが声をあげた。コートを着てない彼女のスカートの裾が強風でめくり上がったのだ。青く腰の辺りが透けて下着が丸見えになった。顔を真っ赤にしてめくり上がったスカートを慌てて押さえるキティルだった。
「毛玉じゃない! スケスケよ!」
「ララちゃん!!! はっ!?」
真っ赤な顔で何かに気づいたキティルは振り向いた。グレンが顔を背けて気まずそうな顔をしているのが見える。キティルはグレンに恥ずかしそうに小さな声で尋ねる。
「みっ見ました?」
「見てない! 見てない!」
必死に首を横に振るグレンだった。スッと彼の横に人影が近づき耳元でささやく。
「何色でしたか?」
「青! いてええ!!!!」
グレンの足が何者かに踏まれた。彼の横に頬を膨らませたクレアが腕を組んで立っていた。
「ブゥ!!!! 嫌いです」
「ずるいぞ! 色はしょうがないだろ?」
「じゃあ形は? 透けてましたか?」
「しっ知らねえよ!!!」
頬を赤くしてグレンはそっぽを向いた。クロースは二人を見て笑っていた。スカートの裾を左手で押さえて恥ずかしそうにしているキティル、彼女の右手は杖を持っている。キティルの杖の先端の炎が小さくなり
周囲を暖かめる空気が吹き付ける風より弱くなり寒くなっていく。
慌ててララがキティルに向かって声をあげる。
「ちょっと! キティル寒いわ! もっと火を強くして」
「まっ待ってよ…… というかララちゃんが……」
「あぁ。ごめんね。ほら私も手伝ってあげるから!」
ララはキティルの元へ駆けて行き彼女が持つ杖を一緒に持った。先端にある炎が強くなり周囲の空気がまた暖まっていく。
「ふぅ…… これで安心ね」
「うん。ありがとうララちゃん」
「とっ当然よ」
「ふふふ」
褒められたララは照れ隠しで腕を組んでぶっきらぼうに答える。キティルは彼女を見て優しくほほ笑むのだった。ララとキティルから少し離れた所でラピとクロースが並んで立っていた。
炎に照らされ一息を付いているキティルとララを見たラピが首をかしげる。
「おめら学校ではどうしてただ? ここくらい寒いべ?」
二人が卒業した魔法学セントリバリティ山脈と同じくらい寒い場所にある。一時的とは言え寒冷地で過ごして寒さになれているはずの二人が寒がるのが不思議なようだ。
「だって魔法学校は常に温められているからね」
「うん。魔導暖炉みんなでお芋とか焼いたりしたよね」
「そうそう! 懐かしいわねえ!」
ウィンターツリー魔法学校の敷地内は魔導機器が充実しており冬でも暖かく過ごせる。二人は懐かしそうに魔法学校での生活を話している。ラピは二人の会話を笑顔で聞いていたがどこか寂しそうだった。
暖められたグレン達は吹雪の中を再び歩き出した。しかし、吹雪はどんどん強くなっていき、視界が遮られて二メートル先も分からなくなる。
「クレア…… さすがにもう……」
「ですね。どこかに避難しましょう」
「近くに洞窟があるみたいですわね。そちらに向かいましょうか」
クロースが腕を伸ばして道の先を指した。近くに小さな洞窟があり、グレン達はそこで吹雪をやり過ごすことにした。
道の脇に大きく盛り上がった丘があり、半分近く雪に埋もれた洞窟の入り口が見えた。グレン達は雪をかき分け洞窟の中へと入った。
洞窟は五メートルほど行くと広い空間に出た。天井は高さは五メートルほどで広場のような空間の中央に焚火の痕跡がある。どうやら洞窟はグランたちのような雪を避ける冒険者達に頻繁に利用されているようだ。
グレン達は焚火を再利用し火を起こした。濡れたコートをかわしながら吹雪がおさまるのを待っている。グレン、ダグオン、クレア、キティル、ケイトが焚火を囲んでいる。ララ、ラピ、クロースは洞窟の入口で見張りをしていた。
「皆さんは何を探しているんですか?」
焚火の向かいでケイトが並んで座るグレンとクレアに向かって尋ねてくる。
「あぁ。グローブ草って薬草が必要でな。ここなら取れるらしい」
視線をケイトに向けグレンが答える。ケイトは指を顎にあて少し考えてから口を開く。
「聞いたこと無い草ですね……」
「あぁ貴重な物だからな」
グレンはうなずいた。二人の会話を聞いていたダグオンが話に入って来る。
「確かにグローブ草は貴重ですね…… デクスター岩でガイアス竜のツバを付けながらすりつぶすと太陽の光を通さない樹液が出てきます」
「詳しいな…… うん!? なぁ? ダグオン…… ゴッドスキンケアパウダーって知っているか?」
「はい? えっとどこかで……」
ダグオンはグレンの質問に顔をあげ何かを思い出している。彼はおもむろに自分の鞄から手帳を取り出して開いてパラパラとページをめくっていく。
「あぁ。はい! 帝国薬師協会とガーバル製薬の依頼で作りましたね。まぁ僕はグローブ草の加工技術を開発しただけですけど……」
「なんでも作るんだな……」
あきれた顔をするグレンだった。ダグオンはゴッドスキンケアパウダーの作成にも関わっていたようだ。
「でも…… そうかゴッドスキンケアパウダーにしたんですね…… 僕はスーパー太陽遮断粉って提案したんですけどね……」
ぶつぶつとつぶやくダグオンにグレンとキティルは苦笑いをするのだった。




