第436話 見慣れても
頭を下げるクレアをケイオスは悔しそうに見つめていた。クレアは大剣を背中にしまい振り返った。クレアが大剣をしまったのを見てケイオスが口を開く。
「なっなんで…… 俺を殺さないのか?」
「私達は別の仕事で来ているんです。あなたの相手をしている暇はもうありません」
振り向いて首を横に振り優しくほほ笑むクレアだった。クレアは視線をケイオスから彼の後方にいるグレン達に向けた。
「みんな。良いですか? 行きますよ」
「おう! みんな。行くぞ」
「かしこまりましたわ。キティル。いきますわよ」
「うん。行くよー」
グレンが手をあげてクレアに答え皆に声をかける。クロースとキティルがララ、ラピ、ダグオンを連れクレアの元へと向かう。ケイトは唖然として動かない。歩き出したグレンが動かない彼女に気づき振り向いて声をかける。
「置いて行くぞ」
「なんであいつに止めをささないんですか? 装備とか売ればお金になりますよ」
「悪いな。俺達の仕事はあいつを殺すことじゃないんでね」
「えっ?! あっ!? 待って!」
右手を上げてグレンは前を向いてケイトを置いて歩き出した。ケイトは慌ててグレンを追いかける。クレアを追いかけてグレン達がケイオスの横を通っていく。ケイトだけが名残惜しそうに倒れているケイオスを見ていた。
魔導エレベータに乗ってクレア達は八十二階へと向かうのだった。魔導エレベータに乗り込み扉が閉まって上への移動を開始した。
「うん?」
壁際で皆に背を向けているクレアに気づいたグレンが近づいて声をかける。
「どうした? 怪我をしたのか?」
クレアは振り向いた彼女の服は破れたままで左手で押さえている。
「いえ。服が破れただけですよ…… ほら」
「うっ!?」
「なんですか…… いつも見てるくせに……」
「だからって……」
グレンにクレアは破れた服を見せた。縦に裂かれた服から、クレアの綺麗で輝くようなきめ細やかな肌の胸の谷間と黒の下着が見えていた。グレンは胸の谷間を見ると顔を真っ赤にして顔を背ける。
「ムゥ」
二人の会話を少し離れた場所で聞き耳を立てていたキティルが不機嫌になっていく。クロースは彼女の横で笑っていた。
「着替えなよ」
「わかってますよ」
「おう。じゃあ俺は向こうを向いているよ」
振り向こうとしたグレンの手をクレアはつかんで引き止めた。
「グレン君はいいですよ。弟ですし! いつも見てますもんね」
「えっ!? いやそれは……」
手を強く引っ張るクレアにグレンは顔を真っ赤にした恥ずかしそうにしていた。
「はいはい! グレンさんはこっち!」
「えっ!? おっおい……」
「グッグレンくん! もう!」
二人の間にキティルがいきおいよく飛んで来た。クレアが握っていた手を振り払うとグレンの背中を押していく。手を伸ばしてグレンと止めようとしたクレアにキティルは舌を出したのだった。
「ララちゃーん! クレアさんが着替えるから! ダグオンさんを連れて来て!」
「わかったわ。ほら行くわよ」
「わっわ!」
キティルはララにダグオンを連れてくるように指示をした。返事をしたララはダグオンの手をとって引っ張っていく。
「振り向いちゃダメですよ」
「あんたもよ!」
「わかったよ」
「はっはい!」
グレンとダグオンはクレアと反対側の壁際に壁を向いて立たされ、振り向かないようにキティルとララが監視されるのだった。クレアは鞄から予備の服を出して着替えるのだった。
着替えが終わりグレン達は魔導エレベータが八十二階に到着するのを待っていた。着替えを終えたクレアは魔導エレベータに顔を向けていた。彼女の視線は扉の上部へと向けられている。
「もうすぐですね。寒いですからみんなコートを着てください。グレン君はエレベータを止めてください」
「おう」
クレアは皆にコートを渡そうと、しゃがんで鞄を床に置いて開けグレンに指示を出す。返事をしたグレンはクレアからコートを受け取り扉の前へと向かい。コートを着たグレンは視線を上に向けた。
魔導エレベータは入り口の上部に各階を示すパネルがある。パネルが停止したい階が表示された際に入り口横にある停止レバーを引くと任意の階にエレベータを停止できる。
「よし……」
魔導エレベータが八十一階から八十二階に移動を始めた。グレンは手を伸ばしレバーを引こうと……
「私が止めたい!」
グレンの視界にララの背中と頭が見えた。走って来たララがグレンとレバーの間に体を入れ自分が引くと言い出したのだ。
「ダメだ…… どけ」
首を横に振ったグレンはララの前にでようと体をいれる。ムッとしたララは横に移動しグレンの脇から彼の前へとまた割り込んでレバーに素早く手を伸ばした。
「やーだ! 止めるの! いいじゃんやらせてよ」
「あっ!? こら!」
ララはレバーを引いたが硬くて動かない。首をかしげて振り返りグレンに動かないとララは訴える。
「あれ? 動かないよ! グレン!」
必死にレバーを引くララを見ながらグレンは笑って答える。
「あぁ。八十二階はロックがかかっているからな。指輪をかざさないといけないんだ。だからダメだって言っただろ」
「えぇ…… うぅ…… 止めたかったのに」
ララはグレンの話を聞いてレバーから手を離ししょんぼりとうつむいた。グレンは首に手を持って行きチェーンを外す。チェーンの先には冒険者の指輪が通されている。グレンはチェーンについた指輪をララの顔の前に突き出した。
「ほら…… 使えよ」
「良いの? わーい! ありがとう! グレン大好き!」
冒険者の指輪を受け取り大好きといいながらグレンの足に抱き着くララだった。グレンはいきなり抱き着かれて驚いた顔をする。
「おっ!? あぶねえだろ。はいはい…… まったく調子が良いな」
「えへへ」
左手を伸ばしてララの頭を優しく撫でるグレンだった。ララは嬉しそうに笑っていた。二人の後ろでクレアとキティルが苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「なんですかね…… グレン君め……」
「本当にグレンさんもララちゃんも…… いい加減にしてほしいです」
不機嫌そうに腕を組むクレアに恨みがましい目をララに向けるクレアだった。二人のさらに後にたつクロースとラピは笑っていてダグオンはなぜ二人が笑っているのかわからず首をかしげていた。ケイトは寂しそうにグレン達を見つめていた。
ララがレバーを引きしばらくしたら魔導エレベータが停止した。扉がゆっくりと開くと外から一気に冷たい空気勢いよく吹き込んで来た。
「うおお…… さみい」
「うん…… なんなのよ…… これ……」
腕を交差させ着こんだコートを持ってさむがるグレンとララだった。二人の横を平然とした顔でクロースとラピが通り過ぎていった。
魔導エレベータの外へとグレン達が出た。周囲は木が無くセントリバリティ山脈にそっくりで雪の隙間からごつごつとした岩肌がのぞく光景が広がっていた。
「さて…… 闇雲に探すと遭難しそうだな」
「そうですね……」
周囲に雪が積もった真っ白な山の風景にグレンがつぶやくとクレアはうなずいて答える。
「大丈夫ですわ」
二人の会話を聞いていたクロースがポケットから地図を出して広げた。
「地図によると…… グローブ草の群生地グリティア山に近い気候はここから南東みたいですわ」
「じゃあまずはそこだな」
「えぇ。行きましょう」
南東を目指してグレン達は歩き出した。
グレン達が八十二階に到着した頃…… ここは五十階の魔導エレベータの近く。クレア達が立ち去りケイオスは一人で道に取り残された。ここは塔の中でダンジョンである、すぐに回復しないと魔物や盗賊に襲われる。彼は必死に寝返りを打って仰向けになり、胸のポケットに入っているはずのポーションに手を伸ばす。天井を見つめながら悔しそうに彼がつぶやく。
「クソ…… 舐めた真似を…… はっ!?」
天井を見ていたケイオスが目を見開いて驚いた顔をするのだった。




