第433話 母だの姉だの
「ふん! あーあ! もう! また服を買わないと……」
フンと大きく鼻で息をした、ケイトは破れた服と毛布を胸の辺りで押さえ盾とメイスを拾い始めた。彼女の様子を見ていたキティルとクロースとグレンは顔を見合わせて笑う。
「はは…… 大丈夫そうですね」
「あぁ。そうだな」
「えぇ…… 私達は戻りましょうか」
三人はうなずいてクレアたちの元へと戻った。座ってララはクレアの回復魔法を受けていた。ララは視線をチラッと横に向けた。二人の横でラピはララを心配そうに見つめていた。
「ふぅ…… クレアの治療ならもう大丈夫ね! ありがとう」
小さく息を吐いたララは急に顔を横に動かしクレアに笑顔を向けた。クレアの後ろではダグオンとラピが彼女を心配そうに見つめていた。
「こーら。動かないの! まだ治ってないんですから! メッ!」
「わかっているわよ……」
ララを注意するクレアだった。ララは不満げに口を尖らせ不服そうにする。クレアはララを見て優しくほほ笑む。
「ラピちゃんやダグオンさんに心配かけたくないんですよね…… 偉い偉い」
体を傾けクレアはララの顔を覗き込み褒める。図星をつかれたララは視線をラピに向けすぐに顔を真っ赤にして叫ぶように否定する。
「チッ違うわよ!」
「ほら! 動かないの!」
「うー」
不機嫌な顔でララはうなるような声をあげていた。クレアは笑ったラピはどこか嬉しそうに笑っていた。グレン達がクレア達の元へと戻って来た。クロースとキティルはラピの元へ、グレンは治療中のクレアに近づき声をかける。
「ララは?」
「ちゃーんと大人しく治療を受けてますよ。いいこです」
振り向いたクレアはララの背中を撫でながら笑顔でグレンに答える。近づくグレンにララは訴えかける。
「もう…… グレン! なんとかしてよ! クレアが子供扱いしてくるのよ!」
「子供じゃありません。ララちゃんは妹ですよ。私はお姉ちゃんですから」
首を大きく振り胸を張り真面目な顔で、ララに強く自分は姉だと強く主張するクレアだった。クレアの言葉にララはうんざりとした顔をしてグレンに右手を差し出した。
「あー! もうグレン! あんたの傷薬をちょうだい!」
「俺の薬よりクレア義姉ちゃんの方が治療が早いからな。大人しくしとけ」
薬を出せというララにグレンは治療は魔法の方が早いからと、ララに我慢をするように伝えるのだった。
「聖女オフィーリア様はマンマだが…… クレアさんは姉だが…… ノウレッジは勝手に家族にされんだな……」
「いんやあの二人だけだべよ……」
「うん…… さすがにあんな人はほとんどいないよ。他の大陸でも……」
「そうですね…… 僕も聞いたことがありません」
ラピがつぶやくとクロースとキティルとダグオンの三人は即座に否定するのだった。広くたくさんの人がいるノウレッジ大陸でも自称聖母と自称お姉ちゃんはオフィーリアとクレアくらいである。
すぐにクレアはララの頭にかざしていた手を外した。治療が終わったようだ。
「よし! 終わりですよ」
「ふぅ! ありがとう!」
「ふふふ…… まぁ!」
治療が終わるとララは立ち上がりクレアに礼を言う。クレアは嬉しそうにララの頭を撫でたが、すぐにラ彼女はクレアの手をどかし離れていく。クレアは驚きすぐに寂しそうに自分の手を見つめるのだった。
「おめさ…… あんがとな」
「えっ!? なにが?」
「さっきおらをかばって」
「ううん…… ダメよ」
小さく首を横に振ったララにラピは驚いた顔をする。
「なっなんでだべ?」
「だって最後はグレンに助けられたでしょ。あれが私達だけだったら……」
「そだな…… オラたちも精進するべ!」
「うん!」
ララは大きくうなずいた。二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑うのだった。
「そういや…… あんたは良いの? 黄金を取られちゃったじゃん。あいつが逃げたのも多分あれを手に入れたからだと思うし……」
黄金をグアラに渡して良かったのかと尋ねるララだった。クロースはララの言葉を聞いてニヤリと笑っていた。
「あぁ。あれか? あれは金じゃねべよ。おらの尻の尻尾の抜け毛だべよ! 兎耳の獣人の水とかツバをつけ丸めて磨くと黄金に輝くんだべさ」
「そうなの? 尻尾の毛……」
ラピから真実を聞いて驚くララだった。ラピはララの反応が嬉しいのか笑っていた。ラピがグアラに渡したのは金ではなくラピの抜け毛を固めた物だった。
「フェイクゴールドだべな。なつかすな」
「んだ!」
「おぉ! あれが噂の……」
クロースの言葉にラピが大きくうなずいた。ラピがダグオンは二人の会話に興味を持っていた。ラピの毛を丸めて磨いた物はフェイクゴールドという。
会話の内容がわからないララは首をかしげてダグオンに尋ねる。
「ねぇ? なによフェイクゴールドって?」
「あぁ。はい…… ウィンターツリー王国のオーガリ半島にはかつてですね……」
うなずいたダグオンが話を始めた。ウィンターツリー王国の北部オーガリ半島には、かつてグリンガル鉱山という金山があった。オーガリ半島はウィンターツリー王国中から人が集まり繁栄した。ラピの故郷である山間部の大きな川沿いのラビリッツ村も例外ではなかった。ラピリッツ村は農業や川での漁が盛んでフェイクゴールドは魚の疑似餌に使用されていた。金山が発見されると川は漁業ではなく砂金を求める人で上眼つくされた。川の土をあさると金ではなく、疑似餌として使用して外れて土に埋もれていた金色の丸まった毛が発見されることが多くなりいつしかフェイクゴールドと呼ばれるようになった
金はすぐに掘りつくされ金山は閉鎖された。ラピリッツ村も昔からの漁業と農業の村へと戻った。フェイクゴールドはかつての金山の賑わいを示す土産としてラピリッツ村の名物となっている。
ダグオンの話を聞いたララは小さくうなずいた。
「なるほど…… あれはただの土産品なのね」
「まぁ毛の塊ですからね。ただ、土産品として人気がありますから…… あれを売れば三十ペルくらいにはなりますよ」
ララとダグオンの近くにグレンとクレアが立っていた。会話を聞いていたグレンはラピに視線を向けつぶやく。
「やるじゃねえか…… ラピ」
「えぇ…… でも……」
「あぁ。そうだな」
グレンとクレアと顔を見合わせてうなずき心配そうにラピを見ていた。ラピは視線に気づいて勢いよく振り向いた。
「なっなんだべ? おらの尻をジッと見つめて」
振り向いたラピにダグオンが自分の腰から生えた丸く短い尻尾を見つめていた。
「いやあこの毛が金色になるんて不思議だなと……」
「んだべか? よく見ていいべよ」
ダグオンはフェイクゴールドに興味を持ったようだ。ラピは笑顔で尻尾をよく見ていい答えた……
「なっ!? ダグオンさん!? 何するべか! そこは尻で……」
顔を真っ赤にするラピだった。真剣な表情でダグオンはラピの尻尾に手を伸ばし触っている。彼の手が尻尾を触るたびにラピの尻に当たっている。ララは慌ててダグオンに向かって叫ぶ。
「ちょっと! ダグオン! あんた何やってんのよ!」
「いやだって良く見せてもらえると」
「だからって人のお尻をさわることないでしょ!」
「尻…… あぁ。臀部じゃないですよ。尻尾は腰の下部から……」
ダグオンは真面目な顔で答えるとララは眉間にシワを寄せた。
「そういうことじゃないの!!! こっち来なさい!!」
「わっわ……」
ダグオンの首根っことつかんだララは引きずっていく。ラピは恥ずかしいのか顔を真っ赤にして尾っぽをさすっていた。グレンとクレアは首を横に振り、クロースとキティルは苦笑いをしていた。




