第429話 もっもういりません
階段を上りグレン達は休憩所の二階へと上がった。二階は短い廊下と大きな扉があった。扉の向こうは長方形の大きな広間になっており、左右の壁にはズラっとベッドが並んでいる。グレン達は左右に別れてベッドを確保した。
グレン、ダグオン、ララ、ラピが入り口から左の壁に並んでベッドを確保して使用する。四人の向かいにクレア、クロース、キティルがベッドを確保した。
ララとラピは同じベッドに座って喋っていて、ダグオンは本を見て難しい顔をしている。グレンはベッドの上に座って足を伸ばしキティルも同じように座って休憩を取っていた。クロースとクレアは話をしていた。
「そういえば…… グレンさん! 少しよろしいですか?」
「うん!? なんだ?」
クレアと会話していたクロースが何かを思い出してグレンを呼んだ。返事をしたグレンはクロースに視線を向ける。
「グレンさんは…… ヴァンパイアの再生を無効にしてましたよね?」
クロースはグレンとの戦いで斬られた、ガウローリが再生しなかったことを思い出したのだ。尋ねられたグレンはうなずいた。
「あぁ。それか…… クレア義姉ちゃん。頼む」
「はーい。これを渡さないといけませんでしたね」
ベッドの上に置いていた鞄を開けてクレアは手をいれた。丸く薄い蓋つきの缶を取り出してクロースに向かって差し出した。彼女はクレアから差し出された缶を受け取り蓋を開ける。
缶の中にはキラキラと輝く粒がちりばめられた白く濁ったドロッとしたワックスが入っていた。
「これは……」
ワックスを見たクロースは顔をグレンに向けた。グレンは伸ばしていた足をベッドから下し立ち上がる。
「前に再生するクィーンデスワーム用に使ったユニコワックスにグダール塩湖の塩を入れて改良した物だ。その名もヴァンパイアキラーワックスだ」
クロースのベッドの近くに歩きながらグレンは説明している。缶に入ってたのは体を再生せるクィーンデスワーム用のユニコワックスにグダール塩湖の塩を加え、ヴァンパイア用に改良したヴァンパイアキラーワックスだった。グダール塩湖の塩は日光により魔力蓄積させる。塩はヴァンパイアの日除けを無効化する以外にヴァンパイアにもダメージを与える。
ユニコワックスは通常ではヴァンパイアに使用しても無駄だ。しかし、グダール塩湖の塩を混ぜることによりは傷口に塩によるダメージが加わり、ユニコワックスが傷口から体内に浸透しヴァンパイアの再生能力を押さえつける。
まじまじとユニコワックスを見つめてたクロースが口を開く。
「でもユニコワックスって…… 確か材料は……」
「そうそう。クレア義姉ちゃんの……」
「グッ! グレン君!! 食事の前ですよ!!!」
「あっ!? 悪い……」
慌ててグレンの口をふさぐクレアだった。
ユニコワックスの材料は沸かした水に、ワックス草、ハナビダケの粉、レインボーベリーと若い女性の小便だ。キラーヴァンパイアワックスの材料に使われのはもちろんクレアから採取したものである。
顔を真っ赤にしてクレアはクロースに顔を向けた。
「クロースちゃんも内緒ですよ」
「えぇ…… わかりましたわ」
顔を真っ赤にして口元に右手の人さし指を当てる、クレアにクロースはうなずいて返事をした。グレンは二人を見てにんまりをした顔をする。
「もし材料が足りなくなったらクロースもお願いな」
「えっ!? がっ頑張ります……」
「グレン君!!! 怒りますよ!」
にやにやといやらしく笑うグレンだった。クレアはグレンを叱りつけるのだった。グレンは舌を出して笑って逃げるように自分のベッドへと戻る。
「わっわたしも手伝います!」
「へっ!?」
ベッドに戻ろうとしたグレンの背後から声がし振り向いた。グレンの視線には右手をあげたキティルの姿が見えた。頬をピンクに染めやや下を向きグレンの返答を待つキティルにムッとしたクレアが、驚いて回答できないグレンの代わりに彼女に答える。
「いらないですよ! 私ので間に合ってますから!」
「なっ! それはグレンさんが決めることですね?」
「はあ!? 良いんです私はグレン君のお姉ちゃんですから!」
「なんですか? それ!」
キティルとクレアはグレンに顔を向けた。ほぼ同時に二人はグレンに向かって口を開く。
「グレンさん! 私のもいりますよね?」
「私のだけで必要ないですよね? グレン君!」
「えっ!? えっと……」
二人は前かがみになり顔をグレンに近づけるようにして回答を迫る。
どちらかを選べば片方から怒られ、かといって両方いらないや両方いると答えると二人から怒られる。グレンにとってどれを選択しても面倒なことになるのは決まっていた。
困惑してクレアとキティルを交互に見ていたグレンの手を誰かが引っ張った。
「ねぇ。グレン! お腹空いた!」
「えっ!?」
ララがグレンの手を引っ張り腹が減ったと訴えてきた。普段はララのわがままに手を焼いているが、この時ばかりは渡りに船だとばかりにグレンは彼女の手を引いた。
「よし! 飯食いに行こう! ダグオン! 付いて来い」
「えっ!? 僕はまだお腹は空いて」
「いいからあんたも来なさい!」
「わっわ!!!」
振り向いて首を横に振ったダグオンに不機嫌そうに右手を手を伸ばしたララだった。彼女は右手を上に向け指を曲げ先を上に向けた。ダグオンの体が浮かび上がりララの元へゆっくりと移動してくる。
グレンとララは二人で部屋を出て行こうとして、ダグオンは二人の後を浮かび上がってついて来る。
「うまく逃げたべな……」
「んだな。おらたちも行くべ」
部屋の出入り口に向かって歩くグレンの背中につぶやくラピにうなずくクロースだった。クロースは首を横に振ってから振り向く。そこには睨み合うクレアとキティルが立っていた。
「余裕のない人とあきらめの悪い人…… ふふふ。楽しいですわ!」
ほほ笑んだクロースはラピの手を取って口を開く。
「ほらクレア! キティルも! 置いて行きますよ!」
「待って下さい。クロースちゃん」
「あっ! 待ってよー!」
クロースとラピが歩き出すとクレアとキティルは慌てて追いかけて行くのだった。一階へと下りたグレン達は食堂へ入った。食堂は四角く広い空間で四人掛けのテーブルが並んでいた。奥には長いカウンターがあり置くには図鍋が並んだいるキッチンが見える。
「さて…… 何を…… うん!?」
食堂の中央にテーブルがどかされており、人だかりができていた。グレンとクレアは顔を見合わせてうなずいた。ララとラが人だかりに興味を持って見つめている。
「こっちの席にしましょう」
「えっ!? うっうん……」
「ほら早くしろ」
クレアとグレンがララとラピに声をかけ、人だかりから離れた場所へと皆を連れて行った。酒場で広い場所が出来て人だかりができているのはだいたいは喧嘩が起きている。グレンとクレアの二人は冒険者支援課での経験から分かっていた。
二つのテーブルにララ、ラピ、ダグオンが一緒に座り、グレンとクレアとキティルとクロースが座った。
「やっやめてください!!!」
女性の悲鳴が聞こえてきた。チラッと視線を向けてグレンとクレアはすぐに戻した。
「グレンさん…… 助けないんですか?」
向かいに座っているキティルがグレンに尋ねると、面倒そうにまた人だかりに彼は視線を向けた。
「どうせ…… 冒険者パーティ同士の喧嘩とかだろ? 俺とクレア義姉ちゃんはもう支援課じゃないしな」
「えぇ。余計にトラブルになるだけですよ。特にグレン君が……」
「うるせえな」
ムッとするグレンにクレアは微笑んでいた。
「ラピ!? ちょっとあんたやめなさいよ!」
「そうですよ! 危ないですよ」
隣のテーブルから声が聞こえ視線を向けたグレン、彼の目にラピが立ち上がり人だかりに向かうのが見えた。




