第428話 途中で休憩を
ガウローリから吹き出していた煙が消えた。銀色の皮膚が元の赤色へと戻っていった。
「終わりましたね……」
うなずいたダグオンは上着のポケットから小さな箱を取り出した。手の平に乗せられるほどの小さな宝箱のような形の木箱をダグオンは倒れているガウローリの横に置いた。ダグオンが箱を開けるとサザンクロスは箱の中へと吸い込まれた。サザンクロスを吸い込んだ箱は自動で閉じられた。
箱の横でしゃがんでいるダグオンの近くにラピがやってきた。
「しまっちまうべか? 調査するじゃねだか?」
「はい。ここでは出来ないので大学に持って帰って調査するんですよ」
「へぇ」
ラピの質問に振り向いて笑顔で答えるダグオンだった。彼は箱をポケットに戻し立ち上がる。ダグオンが立ち上がるとクレアが口を開く。
「じゃあ行きましょうか」
「あぁ。時間食っちまったからな」
グレンはクレアにうなずいて返事をするとダグオンに顔を向けた。
「ダグオンはどうする?」
「えっと…… グレンさん達と一緒に行きます! サザンクロスの実験が終わってないんです!」
一緒に行くというダグオンにグレンが小さくうなずいた。
「構わないけど……」
グレンはやや困った様子で答える。ダグオンを勝手に連れて行っていいのか少し迷っているようだ。クレアはグレンと同じことを心配していたようで、彼女はすぐにグレンに続いてダグオンに追加でたずねる。
「大丈夫ですか? クローディアさんに怒られませんか?」
「えぇ。大丈夫ですよ。グレンさん達と一緒なら仕事の延長って言い訳しますから……」
視線をそらして言葉を小さくしていくダグオンにグレンは目を細くし疑った顔を向けた。
「本当だろうな? 俺達が勝手に連れてったとか言うなよ」
「えっ!? もっもちろんですよ! ははは……」
ごまかすように笑いながら何度もうなずくダグオンだった。グレンは苦い顔で彼を見つめクレアの耳元でささやく。
「あれは俺達のせいにするな」
「えぇ。ごまかしてますね…… ふふ。グレン君と一緒です」
「うるせえな……」
口を尖らせ不満げにするグレンにクレアは微笑んでいた。ララがダグオンの元へとやって来た。
「なによ。あんたも一緒なの?」
「えぇ。もう少しだけご一緒いたしますよ」
「まぁ別に良いけど……」
右手をあげ笑顔で挨拶するダグオンにララは不満げにして口を尖らせ腕を組んで返事をした。彼女は表情は不満げだったがどこか嬉しそうだった。
ラピはララを見てつぶやく。
「なんか嬉しそうだべ……」
「ふふふ。そうですね。二人共似てますからね」
二人を見てほほ笑むクロースにラピは首をかしげいた。ダグオンもララは共に飛び級で大学と魔法学校を卒業した。学校では同年代はおらず年上の友人しかおらず、同年代で話が合う者に会ったのは互いに初めてで嬉しいのだ。
グレン達はダグオンを連れ天井監視所の八十二階へ向かうことになった。洞窟から草原の道へと戻り魔導エレベーターへと向かう。
クロースとクレアを先頭にしてキティル、ララ、ラピ、ダグオンが並んで続き最後尾はグレンが歩いている。魔導エレベーターが近づいてきたようで茶色の円筒の筒が見えて来た。天井監視所の魔導エレベーターは塔の中に塔がたっているような不思議な光景だった。
しばらく歩くと平原に脇道が見えた。緩やかな坂で上った先に二階建ての木造の大きな家がある。脇道に近づくとクレアがクロースに顔を向け口を開く。
「クロースちゃん。もう今日は……」
「わかりました。行きましょうか」
うなずいたクロースは脇道を手で指した。二人は脇道から坂を上って建物の前に立ち止まった。二人の後ろに立った
「ここは……」
「休憩所ですわね。天井監視所の魔導エレベーターがある階には冒険者ギルドが管理する休憩所があるんですのよ」
振り返りクロースが前の建物を指してララに答えた。ここは冒険者ギルドが建設した休憩所だ。休憩所は冒険者であればいつでも無料で利用でき食事も提供される。
「じゃあ休憩するの?」
「はい。もう夜ですからね。八十二階への移動は明日にしましょう」
「そうね。わかったわ」
ララがうなずくとクレアは木製の大きな扉を開けた。グレン達は扉を開けて休憩所の中へと入った。
「わあ…… 良い匂い……」
「えぇ…… 後で夜食を楽しみましょう!」
うれしそうに笑ってクレアとララが声を上げた。
扉の向こうは奥に階段が見える広い通路で、右手にカウンターには緑色の制服を着た二人の女性が立っていた。女性は一人は短い銀髪のエルフの女性で、もう一人は黒髪の長い人間の女性だ。階段の脇には両開きの大きな扉がある。扉の向こうは食堂になっており、夕食を取っている冒険者多いようで廊下まで料理の匂いが漂っていた。
「いらっしゃい。冒険者の指輪を……」
「あっはーい」
エルフの女性がクレアに声をかけ彼女は冒険者の指輪を女性に渡した。
「はい。休憩は二階。食事は一階でーす」
冒険者の指輪をクレアに返却して、エルフの女性は階段とその横にある扉を指して説明していた。
「わかりました。ありがとうございます」
うなずき右手を上げ礼を言うクレアだった。グレン達は休憩所の奥へと進む。
「A1ランク……」
「うそ! 噂の…… じゃああの人もA1……」
背後かから聞こえる声にグレンは視線を横に向けて気にしていた。数時間しか経ってないが、A1冒険者が現れたという噂がここまでも広まっているようだ。
「わっ!?」
「ダメですよ。まずは二階に行って休憩です」
「えぇ。お腹空いてるに……」
食堂に向かおうとしたララの首根っこつかんで止めたクレアだった。ララはしょんぼりとして腹をなでる。直後……
「はっ!? あわわ……」
キュルルルという間の抜けた音が廊下に響いた。クレアの顔が真っ赤になってうつむいてしまった。音は彼女の腹が鳴った音だった。
「なんだクレアだってお腹すいてるんじゃない!」
「うっ…… だっだって……」
恥ずかしそうに声が小さくなるクレアだった。うつむいて彼女は横を向いてグレンをチラチラと見ていた。そのクレアを見てほくそ笑むキティルだった。グレンの横に立ったキティルは彼の顔を覗き込むようにして自分の顔を近づけて口を開く。
「ふふふ。クレアさんって食いしん坊ですね…… 塔の下で夕飯をいっぱい食べたのに」
「うっ! うぅ……」
クレアに聞こえるくらいの声でグレンと話すキティルだった。クレアはしょんぼりとうつむいている。うつむくクレアを見てグレンは優しくほほ笑み両手を頭の後ろに持って行き口を開く。
「あぁ。いいんじゃね…… 俺はクレア義姉ちゃんが美味しそうに飯食ってるの好きだしさ」
「グッグレン君!」
頬を少しだけ赤くするグレンだった。彼の言葉にクレアは顔をあげ表情がパアっと明るくし目を輝かせていた。ムッとしたキティルはグレンを睨みつけた。
「キッ!!!」
「なんだよ…… なんで睨むんだよ!」
「フン!」
腕を組んで勢いよく鼻から息を吐くキティルだった。
「おもれえな……」
「んだな……」
すぐ後ろで三人の様子を見ていたラピがつぶやいて横に立っていたクロースが同意する。二人は顔を見合わせて笑っていた。
「ふふーん。まぁグレン君は出会った時から私が一杯食べるのを見て喜んでましたからね」
勝ち誇った顔でクレアがキティルを見て笑った。クレアにキティルは冷たい視線を向け口元を緩ませた。
「ふっ…… そりゃあ…… 魔物みたいに吸い込むように食べる人は珍しいんじゃないですかね。ほらオリビアちゃんみたいに!」
「なっ!?」
「なんですか?」
クレアが声をあげるキティルはとぼけた顔で馬鹿にしたように笑う。二人はそのまま睨み合うのだった。間に挟まれ気まずそうに口を開く。
「あっあの…… もう行こうぜ……」
「「キッ!!」」
「なんだよ…… もう」
二人は声をかけてきたグレンを睨みつけて来た。睨まれたグレンが首を横に振るのだった。




