第427話 月は闇を照らす
視線を動かすグレンだった。彼の視線は担いでいる大剣に向けられ、すぐにガウローリへと戻った。グレンはまるで自分の大剣と、驚愕したガウローリが小刻みに震えわずかに揺れている棍棒を見比べているようだった。
「良い武器を使っても…… 腕がダメじゃあな……」
「黙れ!!!!!! 貴様!!!! 許さん!!!!!!」
口元を緩ませながら話すグレンだった。彼の言葉にガウローリは激怒し右手に持っていた棍棒を投げ捨てた。右拳を握ったガウローリはグレンに殴り掛かった。大きな銀色の拳が突き出され鋭く音を立ててグレンへと迫る。
近づいていくる拳をジッと見つめグレンは静かに大剣を握る手に力を込め肩から下した。
「黙るのはお前だよ!!!」
迫る拳にタイミングを見計りグレンは地面を蹴り、左に移動しながら体を斜め傾け横に向く。グレンの目の前をガウローリの拳が通過していた。グレンを大剣を勢いよく振り上げた。
下から上へと振り上げられた大剣はガウローリの右肘のやや下辺りに命中した。ガウローリの腕は簡単に切り裂かれた。
「ぐわああ!!!」
苦痛に顔を歪めるガウローリだった。ガウローリの右腕の肘から先がいきおいよく上空に飛んでいき、回転しながら天井にぶつかりってグレンの背後へと落下した。
グレンは満足げにうなずき大剣を肩に担ぐ。ガウローリは左手で右腕を押さえ叫び声をあげる。
「グワアアアアアアアアアアアア!! なんてな…… 何度もやっても無駄だ! 俺は…… ヴァンパイアになったんだ!」
余裕の笑みを浮かべたガウローリは右腕を上げた。腕を再生しようと切り落とされた腕に視線を向け力を込めた。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
気合を入れたガウローリの声がむなしく洞窟に響く。クロースの時と違いガウローリの腕からは何も起きない。グレンは必死に腕を再生しようとしているガウローリを見つめ、今度は彼が余裕の笑みを浮かべている。
「なっなぜだ!!! 俺はヴァンパイアに…… クソオオオオオオオオオ!!!」
再生しない腕に声をあげ悔しがるガウローリだった。グレンは視線をまた大剣に向けすぐにガウローリへと戻してうなずいた。
「あぁ…… 俺の大剣も特別製なんだ。残念だったな」
馬鹿にしたように笑うグレンをガウローリは悔しそうに見つめていた。グレンの態度に怒りが頂点に達した彼は天を仰ぎ吠える。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ガウローリの目が紫色に光だし、彼は腰を曲げ地面に左手で強く叩いた。
「全てを消し去れ!!! ダークネスワールド」
顔をあげガウローリが笑う。彼を中心に闇が広がり周囲へと広がっていく。元々暗かった洞窟内は完全に光が消え深い深い闇に覆われていった。
「なっなんも見えね……」
「落ち着きなさい。闇の力で洞窟が覆われただけ。動かないで近くにいなさい」
「んっんだ……」
覆われた闇に動揺するラピに隣にいるララが声をかける。ララの姿見えないラピだったが彼女の声を聞き素直にうなずいたのだった。ララは悔しそうに顔をしかめた。
「ただ…… これは……」
「えぇ。闇の力で魔族の力が増幅されるね。グレンさん…… 大丈夫かな……」
心配そうに周囲を覆う暗闇に視線を向けるキティルだった。ダークネスワールドは闇属性の魔法で周囲を闇で包み込み視界を遮り魔族の力を増幅させる。
「どうだ!!! 永遠の闇の中では何もできまい! 私はお前の姿が手に取るようにわかるぞ!」
グレンの周囲に広がる闇からガウローリの声がする。通常のグレンなら声だけでガウローリの居場所が分かるが声は反響しどこから聞こえているかわからない。視線を左右に動かしグレンは必死にガウローリを探している。足音が洞窟内に激しく響いているガウローリはかく乱するためにグレンの周囲を動いているようだ。
「まずはお前を殺し…… 女どもはヴァンパイアに捧げてやる! 女は高く買ってくれるんだ」
ガウローリの声が聞こえグレンに強く不気味な気配が迫って来るのを感じた。グレンの顔が恐怖からか生気が抜け青ざめていき、額から一滴の汗が垂れていき地面に落ちた。
直後にグレンの背後で暗闇を切り裂きながらガウローリの拳が現れる。
「オリャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「いっ!?!?!?」
グレンが振り向くと同時に大剣をガウローリの拳に叩きつけた。握られた拳の指に大剣はめり込み切り裂いていった。グレンの大剣はガウローリの腕を肘の辺りまで縦に切り裂いた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ガウローリが声をあげた。彼の左腕は上部をえぐられたようになり下半分だけが残っていた。膝をついてうずくまったガウローリは顔をあげグレンを驚愕の表情で見つめていた。
「なぜだ…… ダークネスワールドは全てを隠し……」
顔を歪めて悔しそうにガウローリが喋っている。グレンは大剣を肩にかつぎにんまりと笑う。
「月の女神ルーナの優しき光は暗闇を照らし…… 皆を優しく包み込み闇に潜む邪悪なる者から守る…… ってな!」
「なっ!?」
グレンは笑いながらガウローリへと向かって歩いていく。月は闇夜を照らす。グレンが持つ月樹大剣はやんわりとした月光を放っており、グレンの特殊能力月のほほ笑みによって彼の目は月光が輝く限りどんな闇に覆われても見えるのだ。
肩に大剣をかついだグレンがガウローリへと近づくと洞窟を覆っていた闇は消えて行った。
「グハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
うずくまるガウローリへ近づいたグレンは彼を蹴り上げた。
「よっと!」
「うぐは!!!!」
仰向けに倒れたガウローリの胸の上にグレンはーリの胸に下りて踏みつけると、心臓に大剣の剣先を突きつけ口を開く。
「さて…… お前にイプラージを渡したのは誰だ?」
「ふん。しゃべるものか!」
グレンから顔を背けたガウローリだった。グレンはすぐに振り向いてクレアに声をかける。
「あっそ…… クレア義姉ちゃん。こいつ喋るくらいなら死ぬってさ!」
「そうですか。じゃあ……」
顎に手をついたクレアは考える振りをしてすぐにグレンに向かってうなずいた。
「構いません…… どうせ上に居ますよ」
「あぁ。そうだ…… な!!!!!!!!!」
返事を聞いたグレンは即座に大剣をガウローリの心臓へと突き立てた。硬く重い感触がグレンの両手に伝わる。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
ガウローリの断末魔が洞窟内に響き渡った。目の赤い光が消え動かなくなるとグレンは大剣を引き抜いた。グレンはガウローリから飛び下りて着地すると大剣を振って血を拭った。ガウローリの体から紫色の煙が立ち昇っている。
「あっああああ!!!!!!!」
「うわ!? なんだよ!?」
ダグオンが駆けて来て立ち昇る煙を見て悔しそうにしていた。彼に続いてララとラピが来てキティルとクレアもグレンの元へとやって来た。
顔をグレンに向けダグオンは不満げに口を開く。
「なんですぐに殺しちゃうんですか! サザンクロスを使えばさっきのイブラージを成分が……」
「えっ!? 急にいうなよ……」
「はっ!? そうだ! 今からでもサザンクロスで…… あーーーー!!! そうだ吹き飛んでたんだ!!」
頭を抱えて大騒ぎするダグオンだった。彼はサザンクロスを使いたいようだが、サザンクロスはガウローリによって吹き飛ばされ壁に埋まっている。騒ぐダグオンに首をかしげてララが尋ねる。
「どうしたの? サザンクロスが必要なの?」
「サザンクロスには成分分析用の装置がついているんです。それがあれば…… でも壁に遠くにあって……」
「よーい! なら任せて!」
「えっ!?」
笑顔で胸を叩いたララは壁に埋まった、サザンクロスに向かって両手を向けるのだった。
「はああああああああああああああああああああああ!!!!」
真剣な表情で声をあげるララ、サザンクロスが小刻みに震えている。
「そうか! ララさんの特殊能力ですね!」
「うん…… ちょっと黙ってて……」
「あっ! それは失敬!」
右手をあげて謝るダグオンだった。直後にサザンクロスが壁から抜けた猛スピードで飛んで来た。ララはサザンクロスが迫って来ると両手を天井に向けた。サザンクロスは彼女の手の動きに反応してララの上に急停止した。サザンクロスの光は消え白い十字架へと変わっていた。
ララは浮かんでいるサザンクロスを見て小さく息を吐いた。
「ふぅ…… これをどうするの? もう光ってないみたいだけど?」
「はい。大丈夫です。採取するだけですから! ガウローリから出ている煙のところへ移動させてください」
「うん。わかった!」
返事をしたララは両手をゆっくりとガウローリへと向けた。サザンクロスはガウローリの上へと向かっていった。サザンクロスはガウローリから出る煙の上に浮かんでいた。ダグオンはそれを見て満足そうにうなずく。
グレン達は紫の煙の中に浮かぶサザンクロスを不思議そうに見つめていた。




