第426話 交じり合う闇
クロースの目にガウローリの右腕と首から触手がうごめく姿が見えた。切り落とされた首と腕にも同じように触手がうごめいていく。それぞれの斬られた触手同士が引かれあうようにして伸びて行きからみあう。絡んだ触手は縮んで首と腕を元の場所へと引きずっていった。あっという間に切り落とされた右腕と首は元に戻ってしまった。
「どっどういうことですの?」
戻った首と腕を見て困惑するクロースだった。ガウローリは笑い光った赤い目を向けていた。
「ヴァンパイアだよ…… 胸糞悪いがな……」
「えっ!?」
左手で首に当て動作を確かめるように、棍棒を持った右手と首を左右に軽く動かしながらガウローリは不服そうにクロースに答えるのだった。
「まあいい…… 力を欲するにはリスクが付き物だからな」
「はっ!?」
ガウローリは右手を大きく振り回すと前に出てクロースへと向かって行く。先ほどよりも速くガウローリはクロースとの距離を詰め彼女を横から棍棒で殴りつける。クロースは飛び上がって棍棒をかわしたのだった。
「ガウローリさんはヴァンパイアになったんですね」
「あぁ。そうだな」
「どうやったんでしょう?」
右手の人さ指を立て顎に当て上を向き考えながらしゃべるクレアだった。
「さあな…… あのイプラージのせいだってことは確かだな」
「ですね。ちょっとクロースちゃんには厳しいですかね」
「そうだな……」
うなずいたグレンは前に出た。左手袋に埋め込まれているフェアリーアンバーを取り外す。動き出したグレンにクレアが声をかける。
「グレン君!?」
振り向いたグレンは優しくクレアにほほ笑んだ。
「俺が行くよ。後でクロースにもキラーヴァンパイアワックスを渡してくれ」
「そうですね。わかりました」
返事をしたクレアにグレンは前を向きフェアリーアンバーを持っている左手を上げた。そっとグレンは胸に手を当てる。彼の目の奥が光りだし黄色のオーラを纏う。彼は左手を下すと同時に右手に持つ剣ムーンライトにフェアリーアンバーをはめた。グレンのムーンライトは月樹大剣へと変化し彼は肩に担いだのだった。
グレンが視線をクロースとガウローリへと向けた。ガウローリはクロースを追い回し距離を詰め棍棒を振り上げていた。
「はははっ!! ほらほら! 逃げるだけか!」
「クッ!」
背後を見ながら駆けるクロースに巨大な棍棒が自分に向かってくるのが見える。地面を蹴った彼女は横に飛んだ。棍棒がクロースの横の地面に叩きつけられ、砂埃が舞い彼女は顔をしかめる。
「心配するな! お前のような生意気な女の扱いには慣れているからな。かわいがってやるぞ」
棍棒を持ち上ニヤニヤと笑いながらクロースを舐めるように見るガウローリだった。クロースは
「ふふふ。お断りですわ!!」
クロースが左手をガウローリへと向けると稲妻が彼女から飛んで行った。
「わたくしは面食いですのよ。不細工な魔族は嫌いですの!」
「チッ!! ふざけるな!」
「なっ!?」
ガウローリは拳を握り稲妻を叩き弾いた。弾かれた稲妻はクロースへと戻っていく。
「キャッ!!!」
「終わりだあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
弾き返された稲妻は駆けている、クロースの足元へと落ちた。彼女は衝撃でバランスを崩して転んでしまった。にやりと笑ったガウローリは叫びながら、両手で持った棍棒をクロースへと向かって振り下ろした。クロースへと棍棒が高速で向かってくる倒れた彼女に大きな影が覆うのだった。
「クッ……」
クロースは左手を前に出して棍棒を防ごうとするが間に合いそうもない。彼女は静かに目をつむった。直後に大きな音が響く。
「えっ!? あっあれ!?」
わずかに空気が震えたが自身に何も起きないクロースはゆっくりと目を開けた。そこには黒い大きな背中が右手に持った大剣を水平に棍棒を防いでいた姿だった。
「ふぅ…… 大丈夫か?」
「グッグレンさん!!!」
振り向いてグレンはクロースに笑顔でうなずいた。大剣を受け止めるグレンを見たガウローリは悔しそうに顔を歪めている。
「ふん!!!」
「うわああああああああああ!!!」
全身に力を込めグレンは足を伸ばし腕を軽く振って棍棒を押し返した。ガウローリは押され腕をあげさせられ格好になり後ろにわずかに下がった。
大剣を下して肩にかつぎグレンは不敵な笑みを浮かべ、ガウローリを見つめている。ガウローリはグレンを睨みつけ彼を怒鳴りつける。
「なんだ!? お前は? 邪魔するな!!!」
怒鳴られても平然としてグレンは左手を自分の胸に持って来てガウローリに口を開く。
「俺は…… ヴァンパイアハン…… いや。銀の化け物を絶対殺すマンだ!」
「なっ!? ふざけおって!!!」
ふざけるグレンにガウローリは怒りだし駆け出した。怒りに任せて彼はグレンに棍棒を振り下す。グレンはニヤリと笑って向かって来る棍棒へと大剣を振り上げる。
「ウガアア!!!!!」
棍棒はグレンの大剣によってあっさりと弾かれた。ガウローリは後ろに押されたようになり後ずさりする。大剣を持った両手を腰の横まで持って行って構えた、グレンは飛び上がりガウローリへと迫っていく。
「ほら!」
「クっ!」
グレンはガウローリの首を狙って体の横から大剣を出して斬りつける。ガウローリは必死に棍棒を大剣の軌道へと持って行って防ぐ。大きな音がしてガウローリは衝撃で横に一歩動いた、彼は衝撃で倒れないように必死に踏ん張って耐えていた。
「まだだ!」
大剣を引いたグレンは剣を振りかぶり、ガウローリとの距離をつめていく。
「クッ! クソ!!!!」
迫るグレンにガウローリは右手に持っていた棍棒で彼を叩き落とそうとする。横から迫って来る棍棒に気づいたグレンは体の向きを変えた。迫って来た棍棒にタイミングを合わせて頭上から大剣を振り下した。大きな音が洞窟に響き衝撃でわずかに空気が震えていた。
「うわああああああああああああ!!」
衝撃に耐えられずにガウローリは吹き飛ばされ近くの壁に背中から激突した。着地したグレンに洞窟が震え砂埃が天井からパラパラと落ちてい来ていた。壁にはガウローリが右手に棍棒を持ったままへばりつき衝撃で半円形にへこんでいる。
「クソ!」
悔しそうに顔を歪めガウローリは壁から這い出るようにして出て来た。グレンを睨みつけた彼は持っている棍棒を強く握りしめた。
「なっ!?」
ガウローリが持っていた棍棒を構えようとした。しかし、棍棒はひび割れていき、やがて持ち手から先が粉々に砕けてしまった。洞窟の床に棍棒の破片がバラバラと落ちていった。
「ばっ馬鹿な…… この棍棒は魔神樹で作られた特別な……」
砕かれた棍棒を持って信じられないという表情を浮かべ、声を震わせるガウローリだった。魔神樹は闇の力を宿した実がなる木だ。闇の魔力で満たされた幹は硬く頑丈であり武具や道具に加工される。魔族との相性が非常に高く。魔神樹で作られた武具は魔族が使用すれば、木刀であっても簡単に鋼鉄の鎧を切り裂くと言われている。
ただ、地上で見ることは出来ず闇の力を満たした日の当たらない洞窟でしか育たない。そのため魔神樹で作られた物は大変貴重で高価なものだ。魔王討伐後は魔王軍から魔神樹の武具が大量に盗み出された。武具は人間向きでないため、武具としてではなく美術品として高額で取引された。
「よっと」
着地したグレンは視線を上に向け、棍棒の持ち手を持って愕然としているガウローリを見つめていた。




