第424話 記憶をめぐっても
魔族の顔が一気に青ざめていく。クレアは血が滴る大剣を下した姿勢で静かにたたずみ彼を見つめていた。魔族は眉間にシワを寄せ持っていた大剣に力を込めた。
「クソ!!! まずはあいつを……」
「余裕がありますね。逃げなくていいんですか? もうあなただけですよ?」
直後に頬に生暖かい液体がかかり魔族は視線を横に動かした。
「いっ!?」
目を見開いて声を上げる魔族だった。見開かれた視線には黄色の光を纏ったグレンが剣で魔族の胸を貫いていた。逃げないようにつかんでいた魔族の左腕を押しグレンは剣を引き抜く。
「よっと! こいつらは心臓を狙う必要がないから楽だな」
魔族を投げ捨て笑いながら話すグレンだった。
「こちらも終わりましたわ」
「あっ……」
声がして青い顔で魔族が振り向いた。クロースが魔族の脳天にハルバードを振り下し頭を叩きつぶした姿で笑っていた。四体いた魔族はあっという間に一体になってしまった。
「すげえべな……」
「本当……」
クレア、グレン、クロースの実力に驚愕するララとラピだった。ただ、ララは不満げに口を尖らせると腕を組んだ。
「それにしてもあんたは……」
腕を組んだララが視線を横に向けた。そこにはダグオンの横に立つキティルの姿があった。キティルはララの言葉を聞いて慌てて口を開く。
「わっ私はダグオンさんを守っているの!!!」
「ふーん……」
大学教授で戦闘能力の高くないダグオンを守っているというキティルに、目を細くして疑いの眼差しを向けるララだった。
「もう! 本当だよ! だって…… 魔法使いだから前に出ない方が……」
「わかってるわよ。冗談。ごめんね」
「むぅ……」
自信なくうつむくキティルにララは笑って冗談たというララだった。キティルは頬を膨らませるのだった。
グレンとクレアとクロースは正面と左右の三方から魔族に近づく。
「さあ…… じゃあささっと片付けようか」
「そうですわね! 邪魔ですわ」
「片付けちゃダメです! 適当に痛めつけて情報を吐かせないと……」
三人は好き勝手言いながら魔族との距離を詰める。紫色だった魔族の顔は恐怖で青くなり鼻水と涙が垂れそうになり震えている。
「あっああああ…… ああああああああああああああああああああああああ!!!!」
翼を広げた魔族はグレン達に背中を向ける、飛び上がり逃げていく。クレアは黙って見つめ握った大剣に力を込めた。
「逃がしま…… あら!?」
上を向いたクレアが横に一歩だけ動いて首をかしげた。クレアの横に魔族が持っていた大剣が落ちて来て地面に刺さる。洞窟の天井からわずかに日が差し込んで、彼女の頬に白く丸い光が照らされた。
「大きいですねぇ」
「そうだな…… って気づいてだろ?」
「まぁ…… 動かないんで寝てるのかと……」
「あぁ俺もだ……」
顔を見合わせてグレンとクレアがうなずく。二人を見ていたクロースが笑い視線を上に向けた。
天井に丸い相撲取りのような体形の魔族が浮かんでいた。魔族の体長は五メートルほどで長い尻尾が生えている。右手には待ち手に紫色の布が巻かれた大きな棍棒を持ち肩にかつぎ、飛んで逃げた魔族の翼を掴んで捕まえた。皮膚は暗い赤色で顔が細長く頭髪はなく額から二本の角が生えており手足が長い。
「どこへ行くつもりだ?」
「あっあああああ…… それは」
掴んだ魔族を自分の顔に近づけ巨大な魔族が口を開く。低く腹に響くような声がグレン達に聞こえる。
「情けない…… 魔王様に地獄で謝れ……」
首を横に口を大きく開ける巨大な魔族だった。顎が外れたようになった魔族の細長い顔はさらに長くなった。口は一メートル以上に開いていた。巨大な魔族はつかんだ魔族を自分の口へとゆっくりともっていく。牙の間に真っ暗な闇が魔族の目に見え段々と近づいて来る。
「やっやめ…… ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
「ゴリゴリ。バキバキ…… クチャクチャ……」
巨大な魔族は魔族の頭からかぶりついて食べ始めた。魔族を食べる魔族をキティルは怯えた様子で見つめ、ララとラピが目を背け、ダグオンは興味深く魔族の行動を見つめていた。
「仲間を…… なんでことを……」
顔をしかめてグレンがつぶやく。彼の隣にいるクレアとクロースは平然と魔族を見つめている。
「久しぶりに魔族さんらしい魔族さんですね」
「えぇ。いまだにそんなことしている人もいるんですわね」
二人は魔族と何度も刃を交えており、魔族が同種族を食う姿に動揺することなく普段通りに話している。
「お前らは…… 確か…… オリビアの……」
巨大な魔族が視線を下に向けクレアとクロースを見たつぶやいた。どうやら巨大な魔族は二人をことを知っているようだ。
「うん? あなたは私達のことを?」
「あら!? そんな方まだいらしたんですの…… もう残りは少ないはずですけどねぇ」
クロースとクレアは巨大な魔族を知らないのか、話しながら首をかしげいる。何十万という魔族と対峙してきた彼女たちに目の前の魔族の記憶はないのは当然ではある。二人が自分を知らないことに巨大な魔族は眉間にシワを寄せ不機嫌になっていく。
「我が名はガウローリ!!! 元魔王軍第十一師団団長だ! 久しぶりだな…… クレア…… クロス!!」
魔族はガウローリという彼は魔王討伐軍の師団を率いていた将軍のようだ。名乗られた二人だがどうもピンとこないようで不思議な顔でガウローリを見つめている。
「えっと…… 覚えておりますか? クレア?」
「確か…… トリニスタン砂漠のリトルギャビン村を襲った…… 魔族じゃないですか?」
「そんな方いらっしゃいましたっけ? 私の記憶だとタイタロス王国…… テイスガーデン広場で対峙したような」
二人がそれぞれガウローリと対峙した場所をあげていく。ただ……
「違う!!! 俺はタイタロスのジーフコ城でお前らと戦ったんだ!」
右手を大きく振ってクロースとクレアを怒鳴りつけるガウローリだった。グレンが三人の会話を聞いてあきれた顔をする。
「もうどうでもいいよ…… どうせここで終わるんだからさ」
「そうですね」
「えぇ…… 思い出すのも面倒ですものね」
クレアは大剣の剣先をガウローリへと向けて心底面倒そうな顔をした。
「なっ舐めおって!!!!」
ガウローリは眉間にシワを寄せグレン達を睨みつけた。彼は食べかけで頭と上半身の半分がない、魔族をグレンたちに向かって投げつけた。グレン達は飛んで来た魔族を軽々と飛んでかわした。ぐしゃっという音がして魔族の体がつぶれ血が飛び散った。
天井に張り付いていたガウローリは翼を広げ地上へと下りて来た。
「あぁ!!!」
「ダメです! 待って下さい」
ダグオンが声をあげ駆けて行こうとしたキティルが首根っこをつかんで止めた。サザンクロスの上に来たガウローは棍棒で吹き飛ばした。サザンクロスは横に飛んで行き壁に突き刺さった。
「もうあんたダメよ。グレン達に任せなさい」
「うぅ……」
キティルに首を掴まれてもなおも進もうとするダグオンを注意する。ダグオンはしょんぼりとうつむいた。ララを追いかけて来たララも彼女の後ろにやってきた。
「でも…… グレンさん達はなんであんな挑発するべか…… 普通に戦っても大丈夫だべ?」
「私達がいるからよ」
「「えっ!?」」
驚くララとラピにキティルはほほ笑んでうなずいた。
「挑発すればガウローリの注意は私達に向かないでしょ。何かを守って戦うってのは難しいのよ」
「そっか…… 私達も頑張らないとね」
「んだべな」
ララとラピは大きくうなずいた。サザンクロスが居た場所にガウローリが下り立つ。グレンとクロースとグレンは彼と対峙するのだった。




