第423話 洞窟に輝く十字
笑顔でララがダグオンに近づき彼の右手を誰かがつかみ勢いよく引っ張る。
「うわ!?」
「よーし! さっそく行くわよ。あんたが道具を置いて来た場所に案内して」
横を向きララが草原を指さしてダグオンを連れて行く。二人は草むらの中へと入っていく。
「まっ待つべや! ララ!」
「もう…… ララちゃん! 待って!」
ラピとキティルが慌てて二人を追いかけて草むらの中へ。クロースはクレアを見て口を開く。
「じゃあわたくしたちも行きましょうか」
「えぇ。グレン君! 付いて来てください」
「了解!」
クロースとクレアが草むらへ入り最後にグレンが二人に続く。グレン達は背の高い草が生えた草原へと姿を消したのだった。
先頭を行くララとラピのすぐ後ろにキティルと追いついたクレアが居て、四人の後ろにクロースとラピが手をつなぎ最後尾はグレンが進む。
歩き始めてすぐにダグオンと並んで歩いていたララが彼の方へ顔を向け尋ねる。
「あんたの魔法道具はどこにあるの? まだ遠い?」
「いえ…… この先にある丘のふもとにある洞窟に……」
前を指して答えるダグオンにララは首をかしげた。
「洞窟? なんでそんなとこに?」
「塔の中の気候に影響がでないようにですかね。ここの生態系に影響が出てしまったらまずいですからね」
「ふーん……」
話しているとララの視界が開けた。草が短くなりところどころはげて地面がむき出しになった広場のようになっていた。広場のような場所は徐々に地面がせり上がり小高い丘になっている。丘の麓にはダグオンが言った通り洞窟があった。洞窟は穴の幅は十メートルほどで高さは二メートルくらいだ、真っ暗に奥は見えない。
「すごいべな…… ここは塔の中だべな? 洞窟まであんだべ……」
「えぇ…… ここはいったい何なのでしょうね?」
「遺跡にはなんの記録が見つかってないので不明ですね」
振り向いたダグオンがクロースとラピに答える。ダグオンの横にいたララは少し考えてから口を開いた。
「軍隊の訓練場じゃない? ほら世界の気候が再現されているんでしょ? 遠征する前とかの訓練にもってこいじゃない」
「良い答えですね……」
笑顔でうなずくダグオンだった。ただ彼はどこか納得がいかないと言った表情をしている。ダグオンの様子に気づいたララは彼に尋ねる。
「なに? ダグオンは違うと思っているの?」
「いえ…… 軍事訓練ではないかな。移住する先の気候になれる…… そっちの可能性が高いと……」
「あぁ。なるほど……」
「えぇ。ノウレッジは地下に町などが多いですからね。なんらかの異変で大陸に住めなくなることを想定していたのかと……」
ダグオンの仮説だと地下遺跡の多さから、古代人がノウレッジ大陸に異変が起きた際の移住先に適応するために作られた施設だという。
「へぇ。ダグオンはすごいのね」
「いえ…… じゃあそろそろ」
「えぇ! 行きましょう」
「わっ!?」
ララはダグオンの手を掴み彼を連れて洞窟へ向かった。クレアが二人のすぐ後ろに続く。グレン達は丘のふもとにある洞窟へ向かったのだった。
中へ入ったグレン達は奥に進む。洞窟はなだらかに地下へと下っていた。先頭を行くララがランタンをかざして奥へと進む。
「まっすぐに奥まで行けるので迷うことはないはずです……」
ダグオンにララに引かれながら口を開いていた。洞窟はまっすぐ歩けば奥まで到達できるという。洞窟に入ってから歩いて数分が経った。
「なっなによ…… あれ?」
立ち止まりランタンを静かに下したララが洞窟の奥を見つめつぶやいた。洞窟の奥の壁に地上から三メートルほどの高さ二赤く光る十字架が浮かんでいる。十字架は大きく高さは二メートルで横の同じくらいの長さがある。
「対ヴァンパイア駆逐兵器。サザンクロスです」
十字架を指し得意げに笑ってダグオンがララに答える。
「サザンクロス……」
前に出て目をおおきく見開いてサザンクロスを見つめるララだった。サザンクロスは光と熱を放ち、ララの頬を照らし、熱が湿った空気を乾かせじりじりとした熱を彼女の肌に届かせていた。
ジッとララは洞窟に浮かぶサザンクロスを見つめ難しい顔で考え込んでいた。
「これは炎…… ううん。この光と熱は…… ただの炎じゃないわ。太陽……」
「はい! 炎の魔法が作る太陽と現在開発中の魔導飛空艇の技術を使ってます!」
ララのつぶやきを聞いたダグオンは嬉しそうにうなずいた。ダグオンは得意げにサザンクロスについて説明していた。
「でも…… あんた…… キラーグレーウルフハウンドに追われてたでしょ? 効果ないんじゃ?」
「うっ…… そっそれは…… 色々と実験をしてたらですね。日除け用の炎を出す前に回り込まれてしまいまして……」
頭に手を置いて恥ずかしそうにす話すダグオンだった。サザンクロスの実験をしていたダグオンは隙を付かれキラーグレーウルフハウンドの背後から襲われ逃げ出したという。
話しをしているダグオンにララはあきれた顔をした。
「ったく。何かあったらどうするのよ。護衛も連れてないんでしょ?」
「だっ大丈夫ですよ! 僕は逃げ足は速いんで! もしクレアさん達に会えなくても逃げきって見せますよ」
「ふーん…… まあいいわ」
走るポーズをして話すダグオンに腕を組んで冷たい目を向けているララだった。すぐにララは腕を下しサザンクロスを指しダグオンに顔を向けた。
「ねえ!? もっと近くで見て良い?」
「もちろんです! ヴァンパイアハンターとしてララさんの意見を聞きたいです」
大きくうなずいたダグオンを見てララは嬉しそうに笑って同じくうなずいた。二人はサザンクロスを向かって歩いていく。クレアは二人に付いていった。
「うん!? あれ?? でも…… おかしいな…… 確か天井に穴が開いてそこから陽が……」
歩き出してすぐにダグオンの視線が上を向き首をかしげた。彼がここに来た時は天井に穴が開きそこから陽が入っていたのだ。
前を見ていたクレアの視線がきつくなっている。彼女の目にサザンクロスが放つ熱で揺らいだ空気の向こうに洞窟の壁が見えている。
「ララちゃん! ダグオンさん! 止まって!」
「なっなによ! へっ!?」
叫んだクレアは右手の人さし指を立て前に浮き出した。彼女の指先から光の剣が伸びていく。剣が壁に届きそうになるとクレアは視線をやや上に上げた。
「そこ!!!」
クレアは指をいきおいよく動かし跳ね上げるようにして上に向ける。剣は壁に削り取るようにして天井へ向かっていった。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
叫び声がして壁に赤黒い血が飛び散った。サザンクロスの後ろを蝙蝠のような翼と持つ魔族が真っ二つなって地面へと落ちていった。
「まっ魔族……」
立ち止まっていたララが地面に落ちた魔族を見て声をあげた。
「お前らがヴァンパイアハンターか…… バーガンの言う通りだな」
天井から声がしてグレン達が視線を上に向ける。
四体の魔族が天井から下りて来た。紫色の皮膚をした二メートルほどの身長の魔族は大剣や槍を持っていた。魔族たちはサザンクロスの前に並んで着地した。
「バーガン…… なるほど……」
右手で背中の大剣に手をかけクレアはララとダグオンをかばうようにして前に出た。視線をサザンクロスの上に向けるクレアの表情がきつくなっていく。
「はい。ヴァンパイアハンターに魔族さんが何か用ですか?」
先頭の魔族がクレアを見ながらいやらしく笑いうなずく。
「あぁ。お前ら一匹に付き報酬がもらえるんだ…… だからこれをぶっ壊せって言われたけどまってたんだよ!」
振り向いてサザンクロスを見ながら魔族が答える。クレアは小さく首を横に振りうつむいた。
「なるほど…… 魔族とヴァンパイアの同盟は続いているというわけですか……」
小さな声で話すクレアに彼女が怯えていると思っているのか、魔族はニヤニヤと笑っていた。
「ヴァンパイアの部下をまだやっているんですね」
「なっなんだと!?」
クレアは顔をあげ微笑み勢いよく大剣を引き抜いて構える。
「チッ! クソが! 全員殺…… なっ!?」
「あっががががが・……」
魔族が目をおおきく見開いた見開いて固まった。一メートルほど離れて隣にいた魔族の顔が白い刀身の大剣で貫かれていた。顔の中央と大剣に貫かれ、圧縮された飛び出しそうな目と口元から血を垂らしながら魔族が助けを求めて手を伸ばしていた。
「よっと!」
ほほ笑みながらクレアは左肩を魔族の方に置いたゆっくりと大剣を引き抜く。刀身を血がつたって地面へと垂れ血だまりに波紋を広げていく。大剣が引き抜かれた魔族が後ろへと倒れていった。




