第422話 幼い教授と天才魔法少女
左肩にララをかついだグレンが草原の前に立っている。ララは額に手をかざして緑が広がる草原の奥を覗いていた。
「ただ草が生えているのに何が珍しいのか?」
目を輝かせ草原を見つめるララに首をかしげるグレンだった。
「はあっ!? 私は見えないもん!」
地面に立っても自分より背の高い草が生える草原を見渡すことはできない。グレンの肩に乗れば草より高くなり草原の奥を見えるのだ。グレンはララの言葉にうなずきまじまじと彼女を見つめる。
「あぁ。そうか。チビだもんな。ララは……」
「はあああ!? 違うもん! 成長中だもん! いつかクレアよりもナイスバディになるからね! グレンも予約するなら今の内よ」
「いや…… 遠慮しとくよ」
「プク!! 何よ!! グレンのくせに!」
頬を膨らませグレンを睨みつけるララだった。ララはふと視線を下に向け、ニヤリと笑った。ララはグレンの脇腹へと手を伸ばす。
「この!」
「あはは! こら! やめろ! くすぐるな! もう! 降りろ!」
「キャッ!」
グレンの脇腹をくすぐるララだった。グレンは彼女の服の背中の裾をつかんで持ち上げそのまま地面へと下ろしたのだった。
「あー…… もう一回!」
「ダメだ! 先を急ぐんだ…… なっなんだよ?」
右手を立てて甘えた声でもう一回というララに首を振るグレンだった。グレンがふと横を見るとキティルとクレアが彼に冷たい目を向けていた。
「別にです……」
「はい。良いですね仲良くて……」
「あっうん…… うん!?」
首をかしげたグレンが視線を戻すとララと同じくらいの身長のくらいの人影が彼女に向かって走っていくのに気づいた。
「すっ素晴らしい!」
「えっ!? ちょっと!? なっなによ!」
「そういや…… ダグオンのこと忘れてた……」
駆けて来たダグオンがララの両手をつかんでしっかりと握る。ララは顔を真っ赤にして叫びグレンはダグオンと再会したことを思い出す。
「いやああ! あなた! 素晴らしいあれは…… 基本的な物体浮遊魔法ですよね? でも魔物の手足を同時に…… あれが多重魔法だとは時間差がなさすぎなような……」
ダグオンは目を輝かせてララを褒めていた。彼女から手を離し銀の短剣を覗き見ながら興味深くみつめている。最初は気味悪がっていたララだったが彼の言葉を聞いて目をおおきく見開いた。
「あんたすごいわね。あれはただの多重魔法じゃないわ。私の特殊能力千手念動力よ」
「おぉ! なるほど! 千手念動力…… つまり千の手を使うように物を……
だから同時にあれだけの数の物体を操作できたんですね。でも…… それだけじゃにですね。あなたの高度な魔法操作があればこそですね」
「えぇ。そうよ! あんたわかっているわね」
自分の特殊能力を見抜いた上で褒めるダグオンにララは気持ちよさそうに返事をしていた。
「その短剣は銀製…… ヴァンパイア用ですね。空気抵抗が少なく飛ばしやすいように鍔を細くしてますね」
「すごい…… そうよ。ここまで見抜いたのあなたが初めて!!」
「いやああ。それほどのことでもないですよ」
手を頭の後ろに持って行き嬉しそうに謙遜するダグオンだった。二人の後ろで話を聞こえていたラピはあんぐりと口を開けていた。ラピのすぐ後ろにはクロースが立っている。
「なっなんだべ…… あのひと…… 言っている意味がわからね……」
「ダグオンさんですわ。聖都の大学で教授をされている優秀な人ですわよ」
「だっ大学教授だべか!? おっおらたつと同じくらいだべ…… ララも飛び級だって言ったべ…… 二人共すごいんだべな」
ラピはララとダグオンを羨望の眼差しで見つめていた。
「あなたすごいわね…… 私はララ! ヴァンパイアハンターよ! 見習いだけど」
話をしていたララはダグオンが気に入ったのか、はっきりと名乗り徐々に声を小さくして見習いをつける。彼女は今度は自ら手を出して握手を求める。
「これはご丁寧に…… ダグオンと申します。」
ダグオンは恐縮しながらララの手を取って握手する。
「銀の短剣の形といい高い魔法工学知識がおありのようですね」
「えぇ。もちろんよ。魔法は呪文だけを覚えればいいんじゃないわよ。気候や工学の知識は必要なのよ……」
話をしながらララは視線をキティルへと向けるのだった。
「もう…… やめて…… ちゃんと色々勉強するから……」
ララに視線を向けられキティルはしょんぼりとうつむくのだった。キティルの態度にララは得意げな顔をしていた。クレアがララの横から近づいて来て声をかける。
「こーら。ララちゃん。キティルちゃんをいじめないの!」
「別にいじめてないわよ。魔法学校の同期として心配しているのよ」
「ふふふ。そうですか」
口をとがらせ不服そうにするキティルを見てクレアは優しくほほ笑んだ。ダグオンはクリアブルーアイをかけたままのクレアに声をかける。
「どうですか? クリアブルーアイは?」
「はい。とても役に立っていますよ」
眼鏡のふちを持って笑ってうなずくクレアだった。ダグオンは嬉しそうに笑う。
「よかったです。近いうちに透視機能を付けて壁越しでもヴァンパイアを感知できるようにしますからね」
「なっなに!? どういうこと? もしかしてクリアブルーアイって」
「はい。ダグオンさんは魔法道具にとても詳しいので、ヴァンパイアハンター協会から依頼して作ってもらったんですよ」
「あんたすごいのね」
クレアの話を聞いたララは両手を胸の前に持って行き羨望の眼差しを向けていた。
「ははは……」
右手を頭の恥ずかしそうにするダグオンだった。二人を見てほほ笑んだクレアがダグオンに尋ねる。
「さて…… ダグオンさん。襲って来たキラーグレーウルフハウンドはなんであなたを?」
「はい。ある魔法道具の実験に来たんです。そしたら…… 襲われて…… ここは世界の気象を再現しててそれに最近はヴァンパイアの噂があって丁度いいので……」
ダグオンは魔法道具の実験のために天井監視所を訪れてキラーグレーウルフハウンドに襲われたようだ。彼の話を聞いていたクロースがハッとして口を開く。
「あっ! もしかして前に頼んだものですか?」
「はい!」
「でも…… だったらなんで護衛のクローディアさんと一緒にこなかったんですの?」
「えっ!? あの大学の許可が…… だからこっそりと……」
首をかしげたクロースにダグオンは気まずそうに答える。実験の許可が下りなかったので内密に行っていたようだ。
「グレン君と一緒の悪い子ですね…… はぁ」
「なっなんだよ!」
疑いの目をグレンに向けるクレアだった。両手を合わせてダグオンはクレアに懇願する。
「だっだからクローディアさんには黙ってください」
「はいはい。わかりました」
「それでついでに…… 魔法道具の回収を手伝ってほしいんです。置いて来てしまったので……」
目をつむって両手を合わせときおりチラッとグレンとクレアの様子を見るダグオンだった。クレアはダグオンの行動を見て大きくため息をつく。
「はあああ。どうしますグレン君?」
「あぁ。良いよな? キティル」
「はい。キラーグレーウルフハウンドがヴァンパイアですからヴァンパイアハンター協会の仕事ですね」
キティルが大きくうなずいて返事をした。両手を下してダグオンの顔がパアっと明るくなったのだった。




