第421話 それは厳しさではないのでは
胸を張ってグレンを指して得意げに笑いながらララが口を開く。彼女の背後にキラーグレーウルフハウンドが倒れている。
「どう!? 私の実力よ! いた! ちょっと! 何するのよ!」
「なにが実力だ! 勝手に飛び出しやがって! しかも人に向かって短剣を飛ばしただろ!」
グレンは獣化全解放を使用して手を伸ばして彼女の体をつかんで担ぎあげた。ララは頭をグレンの背中側にされ、足を胸にして担がれている。左肩に乗せられ怒鳴りつけられたララはしょんぼりとしている。
「だって…… それに…… 別に本当に当てる気なんかないよわよ。わかってたでしょ!」
「あぁ…… でもお前は何もわかってない」
「えっ!?」
ララを肩に担いだままグレンが振り返り剣を抜いた。直後……
「グワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
草むらが激しく揺れてキラーグレーウルフハウンドが飛び出して来た。キラーグレーハウンドの頭の二本の角が激しく青く光り出す。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
キラーグレーウルフハウンドの上下に並んだ上部にある二十センチの角から水が飛び出し二メートルほどの長さの水柱となった。首を大きく横に動かすキラーグレーウルフハウンド、水柱が草むらへと向かって行く。
「水剣か!」
「キャッ!」
グレンが体の向きを変えいきなり動かれたララが声を上げる。横に振られて水剣が近くの草を切り裂いていく。キラーグレーウルフハウンドがまた首を振り、今度はグレンを伸びた水剣で斬りつけて来る。正面から首を狙って鋭く伸びて来る水剣、グレンは右手を素早く振り上げた。
「ほっと!」
勢いよく伸びて来た水剣にグレンは右手に持った剣を振り下した。グレンの剣が水剣にぶつかり真っ二つに切り裂いた。しかし、切り裂かれた水剣が再び伸びて元に戻るとグレンの首へ向かって来た。向かって来る水剣を見てグレンは唖然とした目をおおきく見開きララは目を閉じた。だが、直後にグレンの口元は緩みにやりと笑う。
水剣はグレンの手前で何かに座れるように短くなり消えて行き、キラーグレーウルフハウンドの角が空を切った。
「グワアアアアアアアア!?」
驚きの声があげキラーグレーウルフハウンドは何度も上下に頭を振っている。水剣を出そうとしているようだが、青く光った角の先端からは水がチョロチョロと零れ落ちるだけだった。
「はははっ!? 俺の特殊能力は”森のソムリエ”だ。木は水を吸い上げるから…… な!」
「わっわ?」
地面を蹴ってグレンはララをかついだまま飛び上がった。飛んだままグレンはキラーグレーウルフハウンドの背中をまで行くと、右腕を引き剣先を心臓へと向けた。右手に力を込めグレンは勢いよく前に突き出す。
「終わりだよ!」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
グレンの剣がキラーグレーウルフハウンドの心臓を貫き鳴き声が平原に響いた。グレンは右腕を引きぬいた。キラーグレーウルフハウンドは両足を広げへたり込むようにして地面に倒れた。
「他は…… いないな…… ふぅ……」
着地したグレンは振り返り視線を草原に向け、キラーグレーウルフハウンドの後続がいないこと確認する。後続がいないことを確認すると、小さく息を吐き視線を横に向けた……
「いっ!?」
「なっなによ…… どうしたの?」
驚いて声をあげたグレンは顔を真っ赤にしてすぐにそっぽを向いた。彼の声を聞いたララが首をかしげた。
「あらららら…… ララちゃんも毛玉パンツなのね」
グレンが動いたことによりララのスカートの裾がまくり上がり、白く飾り気のない下着が丸見えになっていた。それを見たキティルが嬉しそうに反応した。ララの頬は一気に真っ赤になり目に涙を浮かべる。
「へっ!? ちょっと! グレン! 戻して! 早く! エッチ!!!」
「えっ!? あぁ…… うん…… わっわかった」
必死に叫びながらララはグレンの背中を何度も叩く。グレンは顔を背けたままそっと左手で彼女のスカートの裾を直した。
「戻したぞ! こら暴れるな! もう」
「うるさい! エッチ! 馬鹿! 変態!!」
ララに声をかけるが彼女は暴れて足をバタバタと動かしていた。渋い顔をしたグレンは担いでいたララを地面へと下ろす。ララは恥ずかしそうにスカートの裾を掴んでグレンを睨んでいる。グレンはララの視線に気まずく顔を背ける。そこへ……
「ププ……」
「キッ!!!」
近づいて来たキティルがララの背後でわざとらしく吹き出している。ララはキティルを睨みつけ腕を組んで鼻息荒くする。
「まったく…… レディの下着をさらすなんて…… 最低ね!!!! グレン!!」
「あぁ!? もとはといえばお前が油断するからだろ! キラーグレーウルフハウンドは群れで行動する。単独のことはほとんどないんだぞ!!!」
「うっ…… でも私はヴァンパイアハンターだから…… 魔物の習性なんか……」
グレンの言葉にララはうつむきながら言い訳をする。目つきをきつくしてグレンはララにさらに言葉を続ける。
「ヴァンパイアも集団だろうが! それにここに来るまでジャイアントレッドアーミーアントと戦っただろ! 魔物がヴァンパイア化するくらい頭に入れて置け」
「そうか!? そうよね…… ごっごめんなさい」
「あぁ…… なら良い」
頭を下げるララにうなずくグレンだった。顔をララは嬉しそうに笑う。二人の元にラピを連れクレアとクロースがやって来る。
「ララさんに少し厳しすぎなのでは?」
「そうか? これくらい普通だろ? 俺なんか訓練だとか言われて魔物の群れの真ん中に放り出されたんだぞ?」
「えぇ!? 本当ですか?」
グレンがクレアを見つめながら話す。驚きながらクロースはクレアに視線を向けた。
「えぇ。グレン君は異端児で頑丈ですし…… 戦闘経験がほとんどないのにシャイニングドラゴンの攻撃を一回かわしたんですから……」
顎に手を置いてグレンを見ながらクレアが答えている。クロースは彼女の話を聞いて渋い顔をしていた。クレアはハッを目を開き明るい顔をした。
「それにいざとなったら私が助けてましたから! まぁ腕の一本や二本食われたところで私の魔法なら再生もできますし……」
「なぁ!? ひどいだろ?」
グレンはクロースに同意を求めるだった。クロースは青ざめた顔でドン引きしながらうなずく。
「えっ…… えぇ」
「んっんだ……」
クロースの横にいたラピがクロースに同意する。近くで話を聞いていたララがグレンの側へと歩いて来た。彼の足元に立ったララは腰を軽く叩く。
「あんた苦労してるね…… ねえ? ちょっとしゃがんで」
「なっなんだよ!」
ララはグレンの服の裾をつかんで引っ張ってしゃがめという。グレンは嫌がりながらも従ってしゃがむ。グレンがしゃがむとキティルとクレアの顔が歪む。
「もう一回!」
「わっ!? もう……」
グレンがしゃがむとララは彼の肩に飛び乗った。今度は胸側を頭にしてララは横を向いて笑う。
「ほら! 立ってよ!」
「はいはい…… はぁ……」
「わーい」
ため息をつき首を横に振りグレンが立ち上がった。ララは嬉しそうに両手と両足を伸ばす。
「あっちー!」
「はいはい」
ララは草原を指してグレンに行けと指示を出す。グレンは嫌な顔をしながらも彼女に従うのだった。グレンとじゃれつくララを見てキティルとクレアは苦虫をかみつぶした顔をする。
「やっぱりララちゃんは…… もっと厳しくしないとね……」
「そうですね。グレン君もお仕置きです……」
グレンとキティルは顔を見合わせて笑顔でうなずく。クロースは苦笑いをしてラピは二人の雰囲気に顔を青ざめさせるのだった。




