第420話 飛び出す教授
天井監視所五十階の平原をグレン達は歩いている。草が刈られた道は土で整備され歩きやすく平らにされていた。先頭はクレアでララとラピが続きすぐ後ろにクロースとキティルが並んで歩き最後尾にグレンがいる。
「風…… すごいべな」
ラピの頬をそよ風がなで周囲から緑の香りがが漂う。周囲を見渡し声をあげるラピだった。彼女の目には足首ほどくらいのグレートアーリア平原と違い、自分の身長よりも高いうっそうとした草が映っていた。
「魔法で出来ないことはないわよ…… 全ての魔法は自然現象を再現できるから…… それを…… 魔導石に……」
歩きながら手を空にかざし風を手に受けながら難しい表情をするララだった。
「おっおい…… なんだよ」
「いっいえ! 何でもありませんよ!」
キティルがすっとグレンの背後に移動し背中に隠れた。彼女の行動に困惑するグレンだった。振り向いたクロースが微笑み口を開く。
「ふふふ。いきなりララさんに質問されるから逃げてるだけですわ」
「クックロースちゃん!」
慌てるキティルだった。クロースの指摘通りにキティルはララから、難しい魔法の質問をされないか怯えてグレンの背中に隠れたのだった。
「はははっ! キティルはしょうがねえな」
「嫌いな勉強から逃げるのはグレン君と一緒ですけどね」
「うっうるせえな」
クレアが振り向いてグレンにほほ笑みながら口を開いた。彼女の言葉にキティルはハッと何かを思いついた顔をした。
「そうだ! だったら私とグレンさんの二人で勉強会を……」
グレンの背中の服を強く握ったキティルは顔を真っ赤にして話している。だが、クレアとクロースとグレンは視線を鋭くし横に動かした。
「グレン君!」
「あぁ。わかっている…… キティル! 悪いな。少し静かにしてくれ……」
「はい。静かにしてくださいまし!」
「えぇ!? はっはい……」
キティルはクロースとグレンからほぼ同時に静かにするように言われて落ち込んでしょんぼりとする。クレアはララとラピの側へ行き背中の大剣に手をかけ二人を背中に隠した。キティルとクロースがグレンに近く移動しており、ララとラピとクレアの三人との間に数メートルほど開いていた。
静まり返る草原にかすかに草が擦れる音が聞こえてくる。音は徐々に大きくなっていく何者かが草むらの中を駆けてグレン達に近づいて来ているようだ。
激しく草が揺れた直後……
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
背の小さい男の子が叫びながら草むらから飛び出して来た。男の子はちょうどグレン達の間に飛び込んで来た。クレアを見た男の子は彼女の前にへたり込み助けを求める。
「たっ助けてください…… あら!? クックレアさん……」
手を伸ばした男の子はクレアを見て名前を口にする。クレアは彼のを顔を見て驚いた顔をする。
「えっ!? ダグオンさん?」
飛び出して来たのは聖都の大学教授であるダグオンだった。ダグオンを見たグレンは呆れた顔をする。
「またクローディアに黙って出かけたのか?」
「えっ!? あはは…… 彼女には内緒で!!!」
笑いながらダグオンは両手を前に合わせて懇願する。グレンが言った通りで彼は助手兼護衛のクローディアに黙って天井監視所にやって来ていた。
「でっ!? 助けるって?」
「あっ! そうだ! 来ます!!」
ダグオンが自分が飛び出した来た草むらを指さした。その直後に魔物が草むらから顔を出す。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
額から二十センチと十センチくらいの上下に並んだ二本青い角を生やした、一頭の灰色の毛が長く耳が垂れた犬のような魔物が飛び出して来た。ダグオンを追いかけて来たのか彼と同じ場所に出て来た。
「はっ!」
「うわあ!!!」
クレアはダグオンの腕を引っ張り自分の背中に隠す。大剣に手をかけたまま間に出て、三人をかばうように立った。グレンとクロースとキティルが武器を抜いた。狼はダグオンを探しているのか視線を動かしていた。
「キラーグレーウルフハウンドか……」
草むらから飛び出して来たのはキラーグレーウルフハウンドという魔物だ。ガイアス平原にも生息する魔物で長い毛は高い守備力を誇り、青い角は水属性の魔法の結晶であり獲物をしとめるために使用される。
「がるううううううううううううう!!!」
口角をあげたキラーグレーウルフハウンドの垂れて毛で見にくい目が赤く光り、牙には獲物の血が付いている。しかし、キラーグレーウルフハウンドの目は通常薄い緑色で夜間は青く光るはずだ。
「目が赤い…… クレア義姉ちゃん!!!」
「はい!」
鞄から赤い縁の眼鏡クリアブルーアイを出しクレアが駆けた。牙から血を滴らせている狼へレンズ越しに見るクレアだった。彼女の目に見えるキラーグレーウルフハウンドは毛先がピンク色に輝き縁どられたようになっていた。クリアブルーアイを通してヴァンパイアを見ると、皮膚や毛先がピンク色にかすかに光るのだ。
「ヴァンパイアですね。行きますよ!」
「よし! 任せて!」
「えっ!? おめさ何を!?」
ララが走り出してキラーグレーウルフハウンドに向かって駆け出した。ラピが叫ぶとララは振り返る。
「私があいつを倒すのよ! ヴァンパイアハンターなんだから!」
「おめさは見習いだべ!」
「うるさい! べー!」
舌を出して不機嫌そうにするララだった。クレアはあきれた様子で首を横に振る。
「もう…… グレン君!」
「チッ! 世話がやけるな」
ララは前を向いて右手を上げた。彼女のベルトから銀の短剣が四本が飛び出して彼女の周りに浮かんでいた。同時にグレンがキラーグレーウルフハウンドへ向かって行く。キラーグレーウルフハウンドをグレンとララで挟むようになった。
「グレン! 手を出すんじゃないわよ」
「はいはい。残念だが早い者勝ちだ」
「あら!? そうなの?」
笑ったララは右手に指を二本立て前に倒した。銀の短剣四本がキラーグレーウルフハウンドへと向かって飛んで行く。しかし、短剣はキラーグレーウルフハウンドの上を通ってなぜかグレンへと向かって来る。
「チッ! ふざけやがって」
グレンは飛んでくる銀の短剣を避けずにそのまま見つめていた。四本の銀の短剣は左右に別れグレンの顔と太ももの横をの短剣が通り過ぎていった。
「ほら! こっちよ!」
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ララがキラーグレーウルフハウンドに向かって叫んだ。キラーグレーウルフハウンドは彼女に向かって飛び掛かる。前足を出して口を開け牙からよだれを垂らしながらララへとキラーグレーウルフハウンドが向かって来る。視線を上に向けララは左手を前にだした。
「ガウアア!?」
キラーグレーウルフハウンドの動きが空中で止まった。キラーグレーウルフハウンドの前足、後ろ足が後ろに引っ張られるようになって困惑した表情を浮かべる。ララの特殊能力《サウザンドアーム》により前後の足を押さえつけているのだ。グレンは黙って静かに剣を持ったままララを見つめている。
「ふふ。動けないでしょ? さあ! 終わりよ!」
右手を上に向け指を自分に向かってララが曲げた。グレンの頭の上を四本の短剣が猛スピードで戻っていく。空気を切り裂きながら銀の短剣はキラーグレーウルフハウンドへと飛んで行く。
「グハ!!!!!!」
キラーグレーウルフハウンドの頭、右前足、左前足、と短剣が次々と貫いていく、最後は背中から胸へと突き刺さる。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
胸が短剣を貫き、キラーグレーウルフハウンドが激しく上げた。キラーグレーウルフハウンド目の光が消え声がおさまるとララはゆっくりと左手を下した。同時に空中に浮かんでいたキラーグレーウルフハウンドの体が地面へと落下した。
ニコッとほほ笑みララは勢いよく振り返った。




