第417話 今は暖かい
冒険者ギルドから出たグレン達は近くの塔へと向かっていた。巨大で高く空へと消えていく塔にグレン達の視線は自然と上に向き塔の先を見上げていた。グレンとナウローが二人に並んですぐ後ろにクレアがララとラピとキティルが居てクロースが最後尾に続いていた。
「一階と二階は町の施設が入って気候変動もないです。二階から魔導エレベーターで任意の階に勧めますよ」
「ありがとう」
歩きながらナウローが天井監視所についてグレンに話していた。話をしながら振り返りナウローはクレアに視線を向け尋ねる。
「皆さんは何階へ行かれるんですか?」
「えっと…… 八十二階から八十八階ですよ」
「あぁ。ちょっとした依頼が受けているんだ」
前を向いたナウローは少し考えてからまた口を開く。
「そこは…… バーガンがロックしているところですね…… あぁ。だからA1の冒険者ランクが必要だったんですね」
「まあな…… バーガンってやつは知っているか?」
「えっ!? えぇ。以前一緒に仕事しましたが…… 物静かなやつでしたね。実力も高くて第一攻略班に属してます」
ナウローが天井監視所の八十二階をロックしているバーガンについて話している。グレンは相槌を打ちながら彼の話を聞いていた。
「でも…… よくわからないんですよね…… あいつがいまさら八十二階をロックして…… 何をしているんでしょうかね……」
首をかしげてつぶやくナウローだった。天井監視所の攻略は三百階を目前としており第一攻略班であるバーガンがロックをする理由がないのである。バーガンにグレンは適当に答える。
「野菜を作ったり家畜を買ったりしたりしているだろ?」
「そんなことわざわざセントリバリティ山脈の気候でやることじゃないですよ。三十階前後にはもっと適した気候が再現されているんですから」
「そりゃそうだな……」
「しかも冬ですよ。今は暖かいですけど冬になんか全て凍りますから!」
周囲を見ながら笑うナウローだった。寒さに凍えながら暖かいというナウローをグレンは唖然として見ていた。グレンが固まっているのにナウローが気づき声をかける。
「どうしたんですか?」
「いや。いまは暖かいって……」
「暖かいですよね。だって春ですから暖かいじゃないですか!」
「えっ!?」
凍える風が吹きつける町に見渡し鼻息荒くするナウローだった。ナウローの言葉に呆れるグレンの後ろから声が聞こえる。
「んだな!」
「えぇ…… まさかこれくらいの寒さで根をあげているんですか?」
「いやいや…… 普通に今も寒いだろ…… まったく……」
雪国育ちの二人の言葉にグレンはさらにあきれた顔をする。グレンの表情を見てナウローは笑う。
「ははは。まぁ慣れない人には春でも寒いですよね。でも…… 八十二階はセントリバリティ山脈の冬ですからね。本当に寒いですよ。しっかり防寒対策をしないと大変ですよ」
「ありがとう。そうするよ」
二人の話をすぐ後ろで聞こえていた、ララが驚いた表情をしてグレンに尋ねる。
「うん!? どうして? 冬の階に向かうの? グローブ草は春に収穫するんだから春に行けばいいじゃない?」
グレンは振り向き懐から薬の本を出し、ページをめくりながらララに口を開く。
「あぁ。グローブ草はな冬に芽吹いて雪の下で寒さに耐えながら春まで栄養を溜めるんだ。セントリバリティ山脈の降り積もった雪によって遮られた光の中で育った根っこだからこそ強力な日除けになるんだ……」
「そうか! だから…… 冬の季節の階に行くのね……」
「あぁ。きっと冬に栽培して収穫する前に春の階に移動させるだろうからな」
大きくうなずくララにグレンは右手の親指をあげて笑う。二人の会話を聞いていたキティルが目をおおきく見開いた。
「グッグレンさん? いつの間にグローブ草のことを……」
ぺらぺらとグローブ草について話すグレンに驚くキティルだった。
「あぁ。グローブ草の根は薬草だからな。ここに来るまでに本で読んでおいた……」
「はぁ…… すごい」
本を閉じてキティルに見せつけるようにして持って得意げに話すグレンだった。彼の勤勉さに感嘆するキティルだった。
グレン達は円形の幅広い道を渡り塔の前へと移動した。十メートルを超える巨大な金属製の開かれた扉がグレン達の前に見える。扉の前には二人の神聖騎士が立っていた。
「これが…… 天井監視所だべか」
「すごい。広い。町の中に町があるみたい……」
塔の内部は広大で町が建設され、屋根は高く塔の先のように見えない。天井監視所の各階層に天井の中心に巨大な魔導石が浮かんでいる。魔導石の内部には膨大な魔力が込められており、キティルが作るような小さな太陽が輝き明るくし夜は暗くなり小さな月となる。天井にも魔導石が敷き詰められている。昼は太陽の魔力を魔導石が吸収し夜になると月がその魔力を吸収し昼夜を繰り返す。
グレン達はナウローの先導で塔の内部に作られた町を進む。ナウローは立ち止まり振り返って笑った。彼の前には五階建ての長方形の細長い建物が見える。グレンがナウローに顔を向け尋ねる。
「ここは?」
「酒場ですよ…… 上は宿屋で冒険者は料理も宿もただで利用できるんですよ。少し休みましょう」
休もうというナウローにグレンは眉間にシワを寄せ不服そうに口を開く。
「おいおい。休んでる場合じゃ……」
「ふふふ。ここはリバリティベアの煮込みが絶品なんですよ」
得意げな顔をするナウローだった。先を急ぎたいグレンがさらに強く断ろうと口を開こうとしたがその前にクレアが目を輝かせ割り込んでくる。
「うわああ! いいですね。食べましょう」
「賛成! お腹空いたわ! しかもタダでしょ? いいじゃん!」
クレアの言葉にララが同調するグレンは二人をあきれた顔で見た。
「もう…… ララ…… クレア義姉ちゃん…… わかったよ。行こうか」
「はい。ではどうぞ」
首を横に振るグレンの横で笑顔でナウローが酒場の扉を開けた。
酒場は四人掛け四角いテーブルが並び左手に長いカウンターが見える。カウンターにもテーブルにもたくさんの冒険者が座っていた。
カウンターの手前には階段があり二階へと続いている。店内を見たラピが首を左右に動かしてからナウローに視線を向け口を開く。
「ここに囲炉裏はねだか?」
「はい。気づいている思いますけど塔の中は外より暖かいんですよ」
「んだべか……」
わずかにうなずくラピは少しだけ残念そうに見えた。ナウローは彼女を見て優しくほほ笑んだ。グレン達は店内の空いている席へとやってきた。彼らは四人掛けのテーブルをくっつけ一つの長いテーブルにする。
「あれ!? ナウローさんじゃない? 今日は……」
テーブルを移動していたグレン達に青いミニスカートの制服にエプロンを着て、頭にリボンを付けた耳の尖った魔族のウェイトレスがやって来てナウローを見つけ声をかけて来た。彼女はグレン達を見て不思議そうに首をかしげた。
「新しい冒険者の案内だ。名物の煮込みを頼む。後は適当に追加するからさ」
「あっ! わかりました」
元気に返事をするとウェイトレスはカウンターに向かって行った。グレン達は席につき料理が運ばれるのを待っていた。ナウロー、グレン、ララ、ラピが並んで座り、向かいにはクレア、クロース、キティルが座っていた。クレアは前に座るナウローに視線を向けた。
「それでナウローさんは私達に何かお話があるんですよね?」
冷静に淡々とクレアが口を開いてナウローに尋ねる。ナウローはうなずいて真剣な表情で話を始めた。
「二週間ほど前に天井監視所の五十階で十人の冒険者が行方不明者になったんです」
「別に珍しいことでもないですね? 古代遺跡は危険なものですから」
クレアの言葉にナウローは素直にうなずいた。古代遺跡である天井監視所は長い年月放置され魔物巣窟と化したダンジョンだ。天まで伸びる最上階への道は険しく探索する冒険者が行方不明になることは珍しくない。
「えぇ…… ただ。彼らのランクはB1で実力を持っていたいました。五十階の魔物に遅れをとるとは思えません」
「冒険者の指輪の反応はありませんか?」
「それが…… 五十階に全て外されて置いてありました」
「ということは誰かが冒険者さんたちを連れて行ったんですね」
視線をグレンに向けたクレアだった。グレンは彼女の言葉に同意するようにうなずいた。
「それで…… 私達に彼らを探してほしいと?」
「はい。一週間ほど前に八十三階で行方不明者を見たという情報があったんです。でも…… その噂が広まるとバーガンは階層を荒らされると言ってロック権を強くしてA1ランク以外を弾いたんです」
「なるほど…… 怪しいですね。表向きは階層を荒らされるのを避けるため…… 実は……」
ナウローは小さくうなずき頭を下げてから気まずそうに口を開く。
「さっきグレンさん達を襲った奴らは仲間が行方不明になんです…… だから二人の指輪を……」
間を少し開けクレアは視線をグレンに向け考えてから小さくうなずき答える。
「わかりました。探してみます。キティルさん。良いですよね?」
「はい…… ただ報酬はもらわないと」
「ですね」
キティルとクレアは期待した目でナウローを見た。彼は大きくうなずき胸を叩く。
「大丈夫です。ギルドで一人発見に月一万ペルが支払われます。有用な情報でも五千ペルでます」
「いいですね。やりましょう。グレンさん。クレアさん」
キティルの言葉にグレンとクレアは顔を見合わせてにっこりと微笑んで二人はうなずいた。ナウローの顔が明るくなった。




