第415話 目立っちゃやーよ
酒場”白銀の夢”から出たグレン達は冒険者ギルドへ向かって歩いていた。
天井監視所の冒険者ギルドは塔の根元にある。中心は塔に譲っているが、この町も他のノウレッジの町と同様に教会が出来てから開発が本格的に始まった。ちなみに冒険者ギルドは塔の攻略が始まってすぐに出来ており教会よりも早く作られた。
冒険者ギルドは空へと伸びる塔の正面入り口の向かいに建っている。塔の周囲は石畳みの道で円形に塔を囲っており、塔を中心に六つの大きな通りが放射状に伸びている。
空へとまっすぐに伸びて空へと消えていく巨大な塔を見上げながらララがつぶやく。
「すごい…… 上まで行ったら星もつかめるんじゃないかしら……」
「んだな。でも、さっきの飛竜船に乗って上まで行けばいいんじゃねか?」
「はっ!? なによそれ…… 夢がないわねぇ。ラピは……」
「なんだべ!? 夢ばっか見てっから見習いなんだべ。おめさは!」
見習いと言われたララは悔しそうにラピを睨みつけていた。
「おーい。もう行くぞ」
「あっ! 待ってよ。ほら行くよ! ラピ!」
「おぉ」
冒険者ギルドの前でグレンが二人に声をかけていた。返事をしたララはラピの手を取りつなぐと二人は並んでグレンの元へと駆けていくのだった。
天井監視所の冒険者ギルドは三階建ての大きな建物で、軒先にベッドの前に宝箱と剣が置かれた看板がぶら下がっていた。扉を開けてグレン達は中に入る。中は”白銀の夢”に似た構造で中央に大きな囲炉裏があり、囲炉裏の周りにテーブルと椅子が置かれ壁際にテーブルと椅子のセットが並んでいる。
吹き抜けの構造で入り口の右手にはせり出した二階の部分の部屋と廊下があり、左手の壁には巨大な掲示板が置かれている。
店の奥には冒険者ギルドのカウンターがあり受付担当が立っている。入り口を入ってすぐ右手に二階へ続く階段がありそこには娼婦がならんで立っている。
「なんか…… さっきの酒場みたいだべな……」
「正解だ。元々は酒場と宿屋だったんだ。ここは……」
ラピのつぶやきにグレンが答える。天井監視所の冒険者ギルドは元は酒場が付属した宿だった。
町が開発されるまで天井監視所は極寒雪山を登って挑むダンジョンだった。麓から険しい雪山を登った冒険者達は体力を消耗し、塔の前で野営をするか魔物が徘徊すると危険な塔の中で休息し塔にいどむしかなかった。野営は凍死の危険があり、塔の内部では魔物に襲われる。その為、冒険者ギルドは天井監視所の前に休息所として宿屋を建設したのだった。その名残りで天井監視所の冒険者ギルドは現在でも宿屋と酒場の機能を有していた。
グレン達はクロースを先頭にしてカウンターへ向かう。酒場は賑わっており多くの冒険者達が席に座り酒や料理を楽しんでいた。
「では…… お願いしますね」
「はーい」
クロースが振り返ってカウンターを手で指した。返事をしたクレアは前に出てカウンターの前へと向かう。
「いらっしゃいませ。担当のラウナと申します」
カウンターには緑色のギルドの制服を着た、青い長い髪のかわいらしい女性が居てクレアにラウナと名乗り声をかけてきた。
「冒険者の再登録をお願いします」
「はい。では冒険者の指輪をお願いします」
クレアはうなずいて鞄を開けて手を中に突っ込んだ。鞄にしまっていた冒険者の指を握りしめラウナへと差し出した。ラウナはクレアから冒険者の指輪を受け取った。
「二つ?」
手のひらに置かれた指輪を見てラウナは首をかしげた。ラウナの手には指輪が二つ置かれていた。一つはクレアのでもう一つは……
「えっと…… あと彼も一緒にお願いします」
振り向いたクレアはグレンを左手で指し、彼と一緒に冒険者の再登録をするように依頼する。グレンは驚いてクレアの言葉ん反応する。
「えっ!? 俺もやるのかよ……」
「良いじゃないですか。グレン君も一緒にやりましょうよ」
「はいはい。わかったよ。好きにしてくれ」
適当に返事をするグレンにクレアは嬉しそうに笑いラウナに口を開く。
「では二人一緒に冒険者の再登録をお願いします!」
「はい。かしこまりました」
ラウナは返事をしてしゃがんでカウンターの下から台に乗った丸い水晶を取り出した。彼女がクレアから受け取った二つの冒険者の指輪を右手に持って水晶にかざすと、水晶にうっすらと青白い文字が浮かび上がる。
「実績解除…… えっと……」
指輪を水晶の上で動かしながら浮かび上がった文字を読むラウナだった。指輪の動きに合わせて文字が変わっていく。
「クレアさんはA1ランクで登録…… あぁ。あちらの彼は実績解除でA1ランクに昇格ですね…… うん!?!?!?!?!?」
目をおおきく見開いて何度も水晶に浮かび上がった文字を見つめるラウラだった。
「A1ランク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
酒場にラウナの声が響いた。店内にいる冒険者達が食事の手を止めカウンターの前に居る、クレア達を見つめ騒然としていた。
視線が自分達に向けられていると感じたクレアはラウナに声をかけ急かす。
「あっあのまだですか?」
「はっはい!!! 終わりました」
「じゃあ指輪を返してもらっても良いですか……」
「えっ!? あっ! はい! お返しします!」
返事をしたラウナはすぐに指輪をクレアに返却した。指輪を確認したクレアは鞄に素早くしまうと右手を上げラウナに挨拶をする。
「じゃあ…… 私達はこれで」
「ちょっちょっと待ってください!」
離れようとするクレアをラウナは慌てて止めた。立ち止まり振り向いた
「お二人は天井監視所に挑まれるのですか?」
「えっ!? あっはい。ちょっと行きたい場所があって……」
「何階ですか?」
ラウナは追加で質問をしてくる。クレアが困惑した表情を浮かべると、スッとグレンが横に来て彼女の腕をつかむ。
「クレア義姉ちゃん…… もういいだろ? 帰ろうぜ」
「あっ!? まっ待てください。どちらへ向かう予定なのか教えてもらえませんか?」
「嫌だね…… 俺達が行く前に金目の物を奪われちまうだろ? それとも他の奴らにも聞いてるのか?」
「いっいえ……」
右手の親指を立て後ろを指しながらラウナに尋ねるグレンだった。彼女はグレンの質問にうつむき首を横に振った。彼女の質問は仕事ではなく、現れるはずのないA1ランクの冒険者の興味だけだった。
冷たい目をラウラに向けたグレンはクレアに寄り添いカウンターから離れる。
「みんな行くぞ」
「えぇ。キティル。ララさん達を……」
「はい。二人共いくよ」
グレンとクレアを先頭にしてキティルとララとラピの三人が続き、クロースが最後尾を進む。先頭を行くグレンとクレアが立ち止まり鋭い視線を前に向けた。
「なぁ!? さすがに……」
「大丈夫よ! どうせ名前だけよ……」
周囲の声が聞こえグレンは顔をしかめてクレアはうつむいている。すっと近くに座っていた五人の冒険者が席を立った。
五人は鉄の胸当てを装備した軽装の黒髪の青年剣士、重厚な鎧に身を包んだ斧を背負った赤髪の女性戦士、小柄で細身の革の鎧に身を包んだ盗賊風の肩までの長さの紫髪の女性、神官服を着て長い帽子を被った中年男性、真っ黒なローブに身を包み金属の長く先端が月の形をした杖を背負った魔法使いの老婆だ。
「なんだ? お前ら……」
歩いていたグレンとクレアの前に席を立った五人の冒険者が立ち塞がった。剣士が前に出た自分の右手に手をあてた。
「俺達は天井監視所の第三攻略班”夕闇の嵐”だ! あんたA1の冒険者なんだろ? 協力してくれないか?」
五人は夕闇の嵐という冒険者パーティだ。天井監視所は冒険者の実力により、第一から第六まで班に組み分けされている。第六が一番下で第一が一番上級となる。
「あぁ。そうかい…… 残念だな。俺達はもう仲間がいるんでね。どいてくれないか…… チッ!」
右手を左右に振ってグレンが断ると五人は一斉に武器に手をかけた。
「だったら…… お前らの指輪をよこしな…… そしたら俺達はあいつらを探せるんだ!」
剣士が声を低くしてグレンに向かって口を開いた。彼らはグレンとクレアから冒険者の指輪を奪うつもりのようだ。
「指輪をだと…… チッ」
舌打ちをして顔を横に向け背後にあるカウンターに目を向けるグレンだった。カウンターに居たラウナは何もしない。酒場で冒険者同士が喧嘩をするのは日常茶飯事であり我関せずといった様子だ。
グレンは今度は横に立つクレアに視線を向けた。
「さて…… どうする…… えっ!?」
「ウギャアアアアアア!!!!!?」
目の前に居たクレアの姿がグレンの視界から消えた。クレアは瞬時に五人の前の背後に回り込むと、大剣で老婆の魔法使いの足を払って転ばせたのだった。




