第414話 最高ランクは身近に
すぐにでも天井監視所へと行こうと盛り上がる、グレン達に向かってクロースは申し訳なさげに口を開く。
「ただ…… 天井監視所に行くには問題が……」
「なっなにが問題なんだ?」
クロースが残念そうに首を横に振り、グレンの問いかけに答える。
「セントリバリティ山脈の気候が再現されている階層にはロック権が指定されいます。」
「ロック権? なにそれ?」
腕を組んで首をかしげるララにクレアが口を開いて答える。
「冒険者特権の一つですよ。未到達の遺跡の階層を最初に発見した冒険者が優先的に探索できるように入れる人間を限定できるんです」
「えっ!? ずるい……」
ロック権はノウレッジにいる冒険者の権利の一つである。冒険者が見つけた物は教会が介入しない限り全ては冒険者の権利が優先される。ダンジョンや遺跡も同様で発見者に優先権がある。先に荒らされないように遺跡に入れる冒険者を限定できる。
「まぁ…… 教会の威光を使えば権利のはく奪は出来ますわ」
「そんなことをすればここの冒険者からの不満がでるよな。あいつら教会の介入を嫌うからな…… ロック権を使っているのが冒険者か?」
グレンの質問にクロースが静かにうなずいた。
「はい。バーガンというB1ランクの冒険者ですわね」
「そいつは?」
「人間ですわね。確認済みです。ヴァンパイアじゃなく協力者…… もしくはただ金銭でしたがっているだけでしょう」
バーガンは天井監視所の攻略を専門にしている冒険者だ。彼は天井監視所の屋上を目指すトップグループであり今回グレン達が調査をしたい、八十二階から八十八階まで一番に到達しロック権を有している。ヴァンパイア化しているわけではないようで、サウスゲート牧場のガーバーのようにヴァンパイアに協力をしている人間のようだ。
「ロック権の除外条件は?」
グレンがクロースに尋ねる。ロック権は発見者が全て優先されるわけでなく、ロック権の対象外となる条件を必ず指定しなければならない。
「除外対象はありません。ロック権を使って天井監視所の八十二階から八十八階に自分の仲間以外を入れないようにしているんです」
「なるほどね。よく文句が出ねえな」
「えぇ。一階から百階は探索がほぼほぼ終わってますのよ。百階以上をロックしない限りは不満は出ません」
「じゃあ…… ランク指定か? そっちは? まぁ当然……」
クロースに尋ねるグレンだった。ロック権の除外条件はある程度発見者の自由につけられるが、唯一冒険者ランクだけは必ず指定する必要がある。冒険者ランクを設定すると設定されたラック以上の冒険者にはロック権は適用されないのだ。
グレンの問いかけにクロースは淡々と答える。
「はい。ランクはA1ランク以上ですね」
「はああ!? A1ランクって最上級の冒険者じゃない! そんな人簡単に見つからないよ!」
「えぇ。だから問題なんですわ」
クロースの話を聞いたキティルが声をあげた。ノウレッジの冒険者ランクの最上位はA1ランクだ。現在このA1ランクにいる冒険者は七人しかいない。
七人のうち一人は引退しており、一人は大陸追放後に死亡している。残りの五人はここから西のフロントラインで絶賛活躍中だ。フロントラインは聖都ギガンゴスが進行できるように道を立てるために設けられる拠点で、そこでは冒険者の報酬が最も高く危険だ。A1ランクの者がフロントライン以外で活動することは滅多にない。その為、ロック権を使いランク指定をする場合はほとんどがA1ランク以上に設定し他の冒険者を締め出すのだ。
A1ランクの冒険者など簡単に呼べるわけがないと落ち込むキティルだった。グレンは余裕の笑みを浮かべる。
「じゃあ。頼んだぜ?」
「えっ!? どっどういうことですか?」
「どういうって…… まぁ。そういうことだよ。なぁ!?」
グレンは首をかしげてクレアの顔を覗き込む。クレアは顔を歪め渋い顔をしてた名息をつく。
「はあ…… そうですね…… あまり気が進みませんが……」
「どっどういうことですの?」
驚いた表情でクレアを見るクロースとキティルだった。グレンは得意げな顔をしてクレアの肩に手をかけた。
「クレア義姉ちゃんは元A1ランクの冒険者だ」
「とっくに引退しましたけどね…… 再登録するの面倒です……」
首を横に振って渋い顔をするクレアだった。引退したA1ランクの冒険者はクレアだった。
「えっ!? ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
キティルがひどく驚きクロースは呆然としてすぐに我に返り口を開く。
「あぁ。確かにあなた冒険者してましたわね…… でも最上位まで上り詰めていたなんて…… 活動してたの半年でしたわよね」
「えっと…… 正確には四か月と二十三日ですね…… A1だったのは三ヶ月と七日くらいですかね」
顎に右手の人さし指を当て上を向き思い出しながら話すクレアだった。彼女の言葉にキティルは愕然として声を震わせる。
「ウッウソ…… じゃっじゃあ二週間でA1に…… 私なんか…… C1になるのも大変だったのに……」
うつむいてぶつぶつとつぶやくキティルだった。クロースはクレアに視線を向け寂しそうにつぶやく。
「もったいないですわね」
「しょうがないですよ。他にやることが出来たんです!」
「やることって……」
首をかしげるクロースににやりと笑ったクレアはグレンに手を伸ばした。
「お姉ちゃんとして弟の面倒を見るです!」
「おっおい! やっやめろ……」
クレアはグレンの腕にしがみつくと彼の顔を覗き込んでほほ笑む。やめろと言いながら恥ずかしそうに頬を赤く染めグレンは嬉しそうに笑っていた。
「相変わらず仲が良いですわね…… まったく……」
二人を見てあきれて笑うクロースだった。キティルは目をおおきく見開いて怒りだす。
「はっ!? なんですか! それ! キッ!!!」
「なっなんだよ……」
「ふふふ……」
グレンを睨むキティウにクレアは勝ち誇った顔をするのだった。
「じゃあ…… まずは冒険者ギルドに行くか…… クレア義姉ちゃんの冒険者資格を復活させてもらわないとな」
「はーい」
「A1冒険者が復帰なんて大ニュースになりますわね」
「ふふ。私はなんかもう忘れられた存在ですからね。噂にもなりませんよ」
クロースの言葉にクレアはほほ笑む。話を聞いていたキティルは何か気づいてクレアに声をかける。
「でも大丈夫なんですか? 確か冒険者って仕事しないと資格停止じゃ?」
「あぁ…… それは大丈夫。俺達は冒険者支援課に所属していたからな。その日数は冒険者資格の停止からは除外されるんだ」
「なるほど。そうなんですね」
グレン達はすぐに酒場を出て冒険者ギルドへと向かうのだった。天井監視所の冒険者ギルドは塔のすぐそばにある。町の中心へと向かって歩く。
「うー……」
「どうしたべ? おめさ唸って」
歩くララが不服そうにしておりラピが声をかける。ララの様子を見たグレンがニヤリと笑って口を開く。
「ララはテオドールで間違って冒険者ギルドに突撃したからな。気まずいんだよ」
「ふふふ。そうでしたね」
顔を見合わせてクレアとグレンが笑った。二人はソーラからララがテオドールが起こしたことの顛末を聞いていた。
「なっ!? ちょっと! なんでグレンがそれを知っているのよ」
「えっ!? 私も知ってるよ。ブルーボンボンさんに放り出されたんだよね」
「キティル!!」
両手を上げてキティルに向かって行くララだった。キティルは素早く身を翻して逃げっていた。
「まぁお転婆さん達ですわね……」
「んだな」
「んだ…… はっ!?」
口を押えるクロースに隣を歩くラピは首を傾げ彼女を見上げている。
「クックロースさん…… あんたその訛りはウィンターツリーの人だが?」
「えっえぇ…… ウィンターツリー王国北部ウーガルが故郷なんですわ。おっおめさは?」
「おらはオーガリ半島だべ!」
「おぉ! あそこだべか! パタパタはよく食ったべよ! おめも好きだべ?」
クロースの言葉に笑顔でうなずくラピだった。ラピは目を輝かせクロースの手を握り顔を覗き込み娑喋る。
「んだ! なつかしな! おらはウーガルツリーアップルのパイが好きだべ。おめさもか?」
「んだんだ! 今度つくるべやよ」
「んだ! やったべ!」
手をつないで二人はしゃべりながら歩いていく。仲良く歩くラピとクロースの背中を見てほほ笑むクレアだった。
「思った通り気が合いましたね。北国出身同士でラピちゃんもクロースちゃんも嬉しそうです」
「そうだな…… でも……」
うなずいたグレンだったが首をかしげて視線を二人にむけた。
「んだんだ?」
「んだ! んだんだ?」
「んだんだんだ!! んだんだ!」
仲良さげに会話するクロースとラピの声が聞こえてくる。グレンは二人の会話に不思議な表情をしてさらに首をかたむけクレアに口を開く。
「さっきからずっと…… んだってだけで会話してないか?」
「えっ!? あぁ!! ほんとだ!」
二人の会話を聞いて目を見開いて驚いた顔をするクレアだった。グレン達は天井監視所の冒険者ギルドへと向かうのだった。




