第413話 稲妻の待つ酒場
酒場は巨大な長方形の囲炉裏があり、それを囲むようにカウンターが設置されている。壁際に四人掛けのテーブルが並んでいる。吹き抜けの構造で囲炉裏の左手側と入り口から奥からエル字型に柱が並び二階部屋と廊下部分がせり出している。入り口から見て最奥に小さなカウンターがあり裏のキッチンへ続く小さな扉と横手に二階へ行く階段が見える。
「えっと…… ジロリ……」
左右に首を振ったクレアは睨みつけるような目を上に向けた。
ここは寒空に暖を取れる場所も兼任しているようで、下着姿の女性が宿の二階の廊下に立ってグレンに向かって手を振っていたのだ。グレンは手を振られているのに気づいたが、面倒なことになるのを別っているので反応しない。
グレン達はクレアを先頭に酒場を奥に進むと、カウンターに座っていた女性が右手を上げた。
「こちらですわ!」
「クロースちゃん!」
カウンターに座っていたのはクロースで、クレアを見つけると笑顔で声をかけていた。彼女が先行したヴァンパイアハンターだった。クレアが近づくとクロースは彼女と握手をして肩に手をかけ挨拶する。
「よくきてくれましたわ…… あら!? かわいらしいハンターがお二人も?」
握手をしていたクロースがララとラピに気づいてクレアの体の横から顔出した。クレアは振り向いてすぐにまたクロースに顔を向ける。
「えぇ。期待の新人さんですよ。一人は見習いですけどね……」
「あら!? それは楽しみですわね…… ふふふ」
クロースはクレアから手を離し後ろに居るララとラピの前にしゃがみ胸に手を当て頭を下げる。
「こんにちはわたくしはクロースですわ」
「ララよ」
「ラピだべ?」
「あら!? ふふふ」
嬉しそうに笑ってラピに向かって微笑むクロースだった。ラピは自分を見て上品に笑うクロースに首をかしげていた。二人の横からキティルがクロースに声をかける。
「クロースちゃん! 任務ご苦労様」
「あら!? 会長さん…… よくきてくださいました」
「やっやめてよ…… キティルでいいよ」
立ち上がって深々と頭を下げるクロースに慌てるキティルだった。
「あら!? 新人さんの前だから気を使ったのに……」
「なっなによ…… もう!」
首をかしげてとぼけるクロースにキティルは口を尖らせ不満げにしている。二人を見てクレアとグレンは笑っていた。クロースはグレンを見て近づいて手を出して握手を求める。
「グレンさんもよくきてくれましたわ」
「えっ!? あぁ…… 仕事だからな」
「ふふふ」
自分と握手をして恥ずかしそうに顔を赤くするグレンにほほ笑むクロースだった。グレンの態度にクレアとキティルは不満げにしていた。
「じゃあ…… あちらの空いてる席に行きましょう」
「はーい」
カウンターの近くに開いている席へ移動しようというクロースだった。グレン達は四人掛けのテーブルに椅子を二つ持って来て六人で座った。
「仕事の話の前に…… 皆さん夕食はまだですわよね?」
「うん。お腹空いたわ」
「あらあら。じゃあ先に食事にしましょう。すみませーん」
腹をさするララを見て、クロースは先に食事をしようと提案し黒ズボンに白シャツの茶色の髪をしたウェイターを呼ぶ。クロースと合流したグレン達は食事をとったのだった。
運ばれてきたコールドニアシカという鹿の肉をワインで煮込んだシチューだった。
「これが美味しいですわよ。クレアはきっと気に入りますわ」
「わーい。ありがとう!」
両手を広げるクロースにグレン達は食事を始めた。スプーンでシチューをすくって食べたララが目を見開いた。
「美味しい!」
「うめな!! うめ!」
シチューが気に入ったのかラピはかき込むようにして食べる。彼女が食べる様子を見てクロースはほほ笑んでいる。
「ふふふ…… あら!? 口が汚れますわよ」
ラピの口元がシチューで汚れたのを見てクロースはハンカチを彼女の口元へ持っていく。
「んだ…… ありがとな」
「いえいえ…… おめさはよく食ってえれな!」
「えっ!?」
「あっあら…… なっなんでもありませんわ……」
驚いた顔をするラピにハッとしたクロースは首を横に振って慌ててハンカチをしまうのだった。食事が終わり各自の前には飲み物だけが置かれている。
クレアが腹をさすりながら口を開いた。
「お腹いっぱいです。さて…… そろそろお仕事の話を始めましょうか」
「えぇ…… まずはグローブ草の群生地ですわね。ありますよ。ここから南東にあるグリティア山に……」
うなずいたクロースはすぐに話を始めるが、すぐに残念そうに首を横に振った。
「でも、今期の収穫は先日に終わってしまいました」
「えっ!? じゃあ…… もう仕事は終わりか? やったぜ」
「もう! グレン君!」
仕事がなくなったと喜ぶグレンを注意するクレアだった。クロースは今度は大きく首を振り笑顔で話をする。
「いいえ…… 残念ですがそうじゃありません。グローブ草は冬山のごく短い春にだけ収穫できるものなんです」
「うん。だから貴重で採れなくてゴッドスキンケアパウダーは高額…… でもそれが何が?」
首をかしげるキティルにクロースは視線を町の中心に向かって視線を向けた。
「本当の群生地は天井監視所なんですわ」
クロースの言葉の意味がわからず皆が首をかしげていた。
「群生地が天井監視所ってどういうことなの?」
キティルの問いかけに少し間を開けて答える。
「皆さんはご存知ないと思いますが天井監視所の内部は古代遺跡になってまして…… 内部は階層によって大陸の気候…… いいえ。全世界の気候が地域別に季節ごとに再現されているんです」
古代遺跡である天井監視所は各階層で世界の気候が季節ごとに再現されている。ちなみに一階がノウレッジ南西の春、二階が夏となっている。
話を聞いていたグレンだけが理解したようでハッとした表情でうなずく。
「なるほど…… つまりそういうことか!」
「わかっていただけましたか? さすがグレンさんですわ」
笑顔でクロースにさすがと言われ恥ずかしそうにする、グレンにムッとした顔をするクレアだった。キティルはグレンとクロースを交互に睨んでいた。
「ちょっと! 二人で通じあってないでちゃんと説明してください」
「そうですよ! グレンさんとクロースちゃん。なんか感じ悪いですよ!」
「えっ!? あぁ。悪い。えっと…… つまりだな……」
グレンとクロースは驚いて顔を見合わせた。すっとグレンがクレア達に説明を始める。
「天井監視所でセントリバリティ山脈の気候を再現している階でやつらはグローブ草を栽培してんだよ」
「えぇ。二ヶ月前に冒険者が到達した八十二階から八十八階がセントリバリティ山脈の気候にみたいですわね」
ヴァンパイアたちはグローブ草に適した気候の階層を使って栽培をしているという。
「じゃあ! そこを監視すればええべな。グローブ草の根を工場へ運びだすべな」
「おぉ! おめさ冴えてるな! いいすんじんだべ!」
「えっ!? んっんだ……」
「あっ…… ふふふ……」
ハッとして頬を赤くしクロースはごまかすように笑っていた。クレアは二人を見て笑って口を開く。
「グローブ草の根を天井監視所からわざわざ運ぶとは思えませんね…… おそらく工場も天井監視所の中にありますね」
「あぁ。そうだな…… よし! 早速行こうぜ」
グレンがすぐに天井監視所へ向かうというとララとラピとキティルとクレアが大きくうなずいた。




