第412話 天井監視所
天井監視所を囲む町…… 天井監視所を中心に放射状に伸びる道に沿って作られた町は整然としていた。雪が積もった真っ白な屋根だが、本来はカラフルで春の終わりから夏のわずかな期間だけは塔を囲む色鮮やかな屋根の景色が見える。
町の外れの雪原に翼を広げた飛竜船ドンドラゴ号の影が大きく旋回する。雪原には小屋がありその前面は雪かきが行われて木製の床が出ている。ドンドラゴ号は旋回しながら徐々に高度を落とし木製の床に着陸した。ドンドラゴ号が着陸すると人が小屋から出て来る。セントリバリティ山脈の極寒では外に待機することは出来ず、小屋は飛竜船の乗客の待合室となっていた。
平原の時と同じようにドンドラゴ号から梯子がかけられ乗客が降りて来る。
「ふぅ! 到着…… さっ寒いわね」
梯子から下りたララが両手を広げた直後に風が吹き抜け、彼女は寒くて体を縮め自信を両手で抱きしめる。横に立ったラピがさむがるララを見て首をかしげた。
「んだか? おらはこれくらい平気だべ!」
「あぁ。あんたウィンターツリー人だもんね…… それに比べてこっちは……」
北国出身のラピは寒さに強く平然としていた。うなずいたララは腕を組んで今度は冷たい視線を横に向けた……
「わっ私はウィンターツリーの南の出身なの! 寒いのは強くないの!」
ララの視線の先には同じように両腕を交差させて凍える寒さに震えるキティルがいた。キティルは必死に言い訳をするがララは両手を上に向け首をすぼめて首を横に振った。
「でも…… あんた魔法で温めているんでしょ? なのにねぇ」
「まっまだ魔法が効いてないの!! うーーー」
顔を真っ赤にして必死に叫ぶキティルだった。ララは疑った目でキティルを見て笑っている。悔しそうにうなるキティルを見てラピが声をかける。
「いくら南つっても…… 雪は降るべや?」
「えっ!? うん。降るけど…… 私は雪が降ったら家にこもって本を読んでたから……」
「なっ!?」
気まずそうに人指し指を胸の前で合わせて押しながら答えるキティルだった。
キティルは雪深いウィンターツリー王国の中でも比較的温暖な南部地方の生まれであり、かつ両親は移住者であるため血筋としても寒さに強くないのだ。ちなみに北国訛りもあまり強くない地域のため、キティルやエリィはほとんど訛らず喋る。
「んなら! 誰かに温めてもらうのがええべ!」
「えっ!? だっ誰に……」
「そうねえ。うーん…… 誰がいいかしら?」
右手の人さし指を立て顎につけ考えるふりをしてララはニヤリと笑い、二メートルほど離れた場所でクレアと話をしていたグレンとを見た。ララはグレンに向かって手を振り彼に声をかける。
「グレーン! キティルが寒いんだって! コート貸してあげなよ」
「はぁ!? なんでだよ!」
首を横に振って断るグレンの元にララが駆け寄って袖を引っ張る。
「だって寒いんだからかわいそうでしょ! ほら脱いで!」
「えぇ…… ちょっと待ってよ」
袖を引っ張られたグレンがコートを外そうとする。予備のコートはたくさんあるのでグレンは自分のを脱いですぐにクレアからコートを借りるつもりだった。
「そんな悪いですよ……」
キティルはグレンの元へやってきて止めている。しかし、彼女の表情はどこか嬉しそうで期待に満ち溢れた目をしていた。横で三人を見てムッとした顔をしたクレアは鞄を開け手を突っ込んだ。
「大丈夫ですよ。いくらでもコートはありますから! はい! はい!」
「はっ!?」
鞄からピンクや赤い色のコートを出した、クレアは両手にコートを持ってキティルに突き出す。
「どれが良いですか? キティルさんなら…… そうですねぇ。このピンクならお似合いですかね。子供が好きそうな色ですし!」
にこりと勝ち誇った顔するクレアだった。子供と言われたキティルはムッとしてすぐに彼女の言葉に反応する。
「なっ!? まぁそうですね…… 私は若いですからね。地味でババア臭い緑のコートなんかまだ早いですからね!!!!」
キティルは激しく反応した後にすぐに落ち着いた顔をした。小ばかにしたような視線を緑のコートを着て立っているクレアに向け、鼻で笑いながらピンクのコートをひったくるようにして受け取った。
「なっ!? なんですって!」
「なんですかぁ? 怒るとシワが増えますよ。ほらもうピンクはキツイですよね」
勝ち誇った顔でピンクのコートをクレアに当てるキティルだった。クレアは当てられたコートに顔を真っ赤にする。
「きっ着れらあ!!」
叫びながらピンク色のコートをキティルから奪い返すクレアだった。
「見て! 女の闘いよ」
「怖いべ……」
ララは嬉しそうに二人の争いを見て、ラピは顔を引きつらせていた。目の前で繰り広げられる争いにグレンは気まずそうに口を開く。
「あの…… 俺…… 先に行くな! 二人は忙しいみたいだし……」
「「まっ待って!!!」」
さっさと町に向かうべくグレンは二人に背中を向け歩き出す。二人は手を伸ばしてグレンを止めようとした。すれ違うグレンにララとラピは冷たい目を向ける。
「逃げたべな」
「えぇ。いくじなし!」
「うるせえ! さっさと来ないとお前らも置いていくぞ!」
グレンは早足で歩いて町へと向かう。四人は不満げに彼について行くのだった。しんしんと雪が降り積もる平原を抜け、山の町天井監視所にグレン達が到達した。切り立った盆地に立つ町には城壁がなく雪原からいきなり町となり、グレン達は通りの端に立っていた。
「白くて綺麗だね……」
「そだか? 雪なんてすぐに見飽きるべよ」
降り積もった雪にオレンジ色の町の灯りが反射してキラキラと輝いておりララが声をあげた。ラピは雪景色は見慣れた光景のため反応は薄かった。
「えっと…… 先行したハンターと合流しないと……」
「またあ? もしかしてハンター協会って有能な人いないの?」
「今回は助っ人依頼じゃない! ただの先行だ! 怒られるぞ」
今回の任務もハンターからの助っ人以来と勘違いしたララにグレンが訂正する。今回は先行したハンターと合流し共同で任務で当たるのだ。
「むぅ…… あれ!?」
口を尖らせて不満げにグレンから顔を背けたララが何かに気づいた。
「ニャー!!!」
「あら!? かわいい! 猫じゃない」
建物と建物の隙間から真っ白で青と緑のオッドアイの猫が出て来た。白猫はゆっくりとグレン達に近づき鳴いた。ララとクレアが嬉しそうに笑って近づいて来た白猫の前にしゃがんで撫でる。ラピはやや怯えた表情で白猫を見ていた。
「あっ! もしかしてこの猫も!」
「そうですよ。ちゃんと覚えていて偉いですよ」
「ちょっとやめてよ! 子供じゃないんだから!!」
白猫を撫でながらララは何かに気づいてクレアの顔を見た。クレアは彼女に向かって笑顔で大きくうなずきララの頭を撫でた。ララは撫でられるのを嫌がり彼女の手を振り払った。手を振り払われたクレアだったがララの成長が嬉しそうのか笑っていた。
「じゃあ連れて行ってくれますか?」
「ニャーニャー!」
クレアの言葉に白猫は反応し通りを先導するように歩き出した。二メートルほど進む振り返り、皆が付いて来るのを確認する。
「皆さーん。行きますよ」
しゃがんでいたクレアが立ちあがり、皆に声をかけ猫の後に続いて歩き出す。クレアと猫の後にグレン達も続く。
猫の先導でグレン達は天井監視所の町を進む。大通りから右に曲がりさらに左に曲がった。軒先に雪の結晶の上にビールジョッキが掲げられた看板がかかった酒場の前で猫が止まった。店内から漏れた灯りが道の雪をオレンジに照らしている。
「ここは…… ”白銀の夢”ですね」
「じゃあここにいるんですね。入りましょう」
グレン達は酒場の扉を開け中へと足を踏み入れるのだった。




