第409話 おはようございます
歓迎会の翌朝。グレン達はセントリバリティ山脈へ向かう。ハンター協会にはハンターが滞在できる部屋ああり、グレン、クレア、ラピ、ララの四人は部屋を借りて宿泊した。
支度を整えたグレンとクレアが会長室の奥にある小さな扉の前に立っていた。扉の向こうはキティルの寝室である。
「はああ…… キティルは酔わせたらいけなかったんだよな……」
「ふーん。なんか楽しそうでしたけど?」
首をさすりながら話すグレンに腕を組んで冷たい目を向けるクレアだった。
「なっ!? なんだよ! 大変だったんだぞ!」
「どうだか?」
「ほっ本当だって! きつく首をしめてくるわ…… ベッドに連れってっても寝てくれないし…… 一緒に見てただろ?」
クレアに向かって必死に言い訳をするグレンだった。
「首をしめたんじゃなくて抱き着いてたんですよ…… 寝なかったんじゃなくてあなたを連れ込もうと必死だったんですよ…… まったく」
小さく息を吐いたクレアはグレンに聞こえない声でつぶやき、首を横に振り苦い顔をしていた。首を振った後、クレアは不機嫌そうに口を尖らせている。グレンは気まずくて扉を指して口を開く。
「ほら! さっさと会長を起こそうせ!」
「はいはい。キティルちゃーん。朝ですよー」
「そうだ。もうすぐ出発だぞ!」
二人は扉を強くノックして中で寝ているはずのキティルを起こす。昨夜、酔っぱらったキティルはグレンにダル絡みをし、彼に抱き着きベッドに連れ込もうとした。グレンは彼女を振り払い後処理はクレアが行ったのだ。
「返事がないですね……」
ノックに反応しないキティルに首を傾げたクレアはドアに手をかけた。
「鍵は開いてますね…… グレン君はここに居てください」
「わかったよ」
部屋が施錠されていないと気づいた、クレアはグレンを止めて一人で部屋の中へと足を踏み入れた。
「まあ…… グレン君を置いて来て正解でした」
ベッドの上には布団もかけずにキティルが寝ていた。服ははだけ大股を開きピンクの下着をさらしながら寝ていた。
「ほらキティルちゃん。はしたない恰好で寝ているとグレン君に嫌われますよ。まぁ好かれることもないですけどね」
勝ち誇った表情でクレアはベッドに座り、キティルの肩に手を置いて軽く揺らしながら耳に口を近づけた。
「おはようございます!」
「はっ!?」
耳元で叫ばれたキティルはパチッと目を開けた。クレアはキティルが目を開けると肩から手をはなした。キティルはゆっくりと体を起こし周囲を見渡し困惑していた。
「なんで…… クレアさんが…… 昨日は確かグレンさんに抱っこされて部屋に送ってもらって…… そこで彼と……」
クレアはムッとした顔をした後…… いたずらに笑ってキティルにほほ笑んだ。
「ふふふ。夢ですよ…… 夢」
「夢!? そんな…… ってどうしてクレアさんが知っているんですか?」
「だって部屋に連れ来たの私ですもん…… グレン君も居ましたけど寝かしつけの時は外でしたよ」
「うぅ…… そんなぁ……」
しょんぼりをうつむくキティルにクレアは怪しくほほ笑んでいた。その目は冷たたかった。昨日のキティルは深酒をして酔っ払い、グレンにしがみついて離れずにクレアとグレンによりそのまま部屋へと運ばれた。グレンから引きはがされたキティルはなんとか二人でベッドに入ろうとクレアを追い払おうとしたりして暴れた。怒るクレアにグレンは植物操作によりベッドに彼女を縛り付けなんとか寝かしつけた。
「さあ! 出発ですよ! 準備してください」
「はっはい。すぐに…… 外で待っててください」
飛び上がるようにベッドから出て服を直して身支度を始めるキティルだった。クレアは動き始めたキティルを見て満足そうに笑ってベッドから立ち上がり部屋から出て行くのだった。
グレンとクレアとハンター協会の前で、準備を終えたララとラピがすでに待っており少ししてキティルが出て来た。
「遅い! 何やってんのよ」
「ごっごめんね……」
腕を組んで出て来たキティルに遅いと文句を言うララだった。クレアとグレンは顔を見合わせて笑っていた。ちなみにララとラピは早めに引き上げたため、キティルの昨夜の醜態は知らない。
全員がそろいグレン達は出発した。ハンター協会から通りを左手に向かい途中で右にまがり広い通りに出た。通りをまた左に進むと地下街の端の壁へと出た。壁には大きなトンネルがあり通りはその中へと続いている。トンネルは明るく地下街と同じように灯りがともされていたが、ララは怖いのかそっとクレアの手をつかんでいた。
トンネルは二十メートルほどですぐに大きな金属の扉が見えて来た。扉の前には二十人ほどが並んでたっていた。クレアと手をつないでいたララが横を向いて首をかしげた。
「なにここ?」
「この扉の向こうは魔導エレベーターですよ。地上と地下街と聖都につながっているんですよ。来たみたいです!」
「わああ!」
ブザーが鳴りゆっくりと扉がせり上がっていく。中は広くうっすらと青く光る透明なチューブに円形の板に浮かんでいた。並んでいた人々は慣れた様子で扉の中へ入っていった。
「行こう! ラピ」
「んだな」
笑顔で前をさしララはクレアから手をはなしてラピと一緒に魔導エレベーターの中へ。グレンとクレアとキティルの三人も二人に続いて魔導エレベーターの中へ入るのだった。
「眺めがいいべ」
「うん。こっちは昨日竜が飛んでた方角だよねぇ」
奥まで進み透明な魔導エレベーターから外を見つめ、嬉しそうにするララとラピだった。グレン達は二人の後ろに立っていた。腕を組んでグレンは視線を二人が見ている風景に向け苦々しい顔をして舌打ちをする。
「チッ…… なんで…… 船は船でも…… はあ……」
ため息をついたグレンに気づいたララが振り向き彼の顔を見て驚く。
「わっ!? どうしたの? グレン? 怖い顔をしているけど?」
「なっ!? なんでもねえよ……」
頬を赤くして顔を背けて答えるグレンだった。彼の様子を見て横に立っていたクレアが嬉しそうにほほ笑む。
「ふふふ…… 大丈夫ですよ。お姉ちゃんが一緒に乗ってあげますから!」
「なっ!? なんでそうなるんだよ!」
「なーんだ! もしかしてグレン…… 怖いの?」
「ちっちげえって!」
必死に否定するグレンにララは口を押さえ馬鹿にしたように笑っていた。
「グレンさんもおっかながるんだべな。ララと一緒だべ」
「なによ! ラピ!」
舌を出して逃げようとするラピにララを捕まえようと手を伸ばした。二人を見ていたクレアが厳しい顔をする。
「こーら! 魔導エレベーターでは静かにしなさい」
「「はっはい!」」
クレアに注意された二人は同時に返事をし背筋を伸ばすのだった。魔導エレベーターは数分で地上へと到達した。
「あれ!? 壁が……」
地上に魔導エレベーターが到達すると透明な青白い光る透明なチューブが消えて行った。
「あぁ。魔導エレベーターの顔は魔導橋梁と同じで上の魔石で作り出した魔力の結晶なんだ」
「へぇ」
ギガンゴスシティを地上と町を結ぶ魔導エレベーターの壁は魔力で作り出したものだ。以前は木などで組まれた物を使っていたが、ギガンゴスがしゃがんだり立ち上がったり移動したりするため、何度も組み立て直す必要があった。
魔導エレベーターから出たグレン達は追従者の列を抜け草原へと出る。両脇に柵が置かれた草原の広い街道をグレン達は歩いていく。
しばらくすると頂上が平坦な小高い丘が見えて来た。丘には人だかりとその近くに緑色の服に帽子をかぶった耳が尖ったエルフの長い青い髪の女性が立っていた。グレン達は丘へと登っていくのだった。




