第410話 苦手なんです
丘の頂上に着くと二十人弱の人が集まっていた。人々は四列に並んでいる。グレン達に気づいたエルフの女性が声をかけて来る。エルフの女性は青い長い髪に片目だけの眼鏡をかけた緑色の瞳をした明るい雰囲気をしていた。彼女は緑の制服に腰にベルを付け右手首にチェーンを巻き先に水晶をぶら下がっている。
「どちらへ何名様ですか?」
「えっと…… セントリバリティ山脈の天井監視所に五人です…… えっと”マンマの愛おしい子”で予約されているはずですか」
「はい! うかがってます。ではこちらへ」
エルフの女性は左手で眼鏡を押さえる。彼女の眼鏡のレンズ文字が浮かんでいるのが見える。すぐにグレン達に笑顔を向けた彼女は彼らを左端の列へ案内した、そこは二人の男が並んでいてグレン達は彼らの後ろに並ぶのだった。
グレン達が並んで数分すると……
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…… !!!」
遠くの方で鳴り響く巨大な魔物の鳴き声が風に乗りかすかに聞こえた。エルフの女性は腰に付けたベルを右手に持って鳴らす。彼女の手の水晶が定期的に強く光った。
「まもなく到着しまーす。風圧にお気をつけください!」
エルフの女性が響くとグレン達が影が覆って高速で過ぎ去っていった。ララとラピが視線をあげ空を見上げた……
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
空に視線を向けたララとラピに赤く巨大なドラゴンが翼を広げ、上空で咆哮をあげている姿が見えた。ドラゴンの背中には円筒形の小さな窓が付いた金属製の籠が乗っていた。
「ドっドラゴン…… えっ!?」
グレンが青ざめた顔で静かに後ずさりした。クレアそっと彼の手を握った。手を握られたグレンがクレアを見るといつものように彼女は優しく笑っていた。グレンが笑顔を返すとクレアは嬉しそうにうなずいた。
ドラゴンは旋回しながら下降していく、徐々に描く円が小さくなってグレン達の前に着地した。二十メートルほど巨大なドラゴンは翼をたたみしゃがんだ姿勢になる。背中に乗った籠の後方の扉が開いて白い服を着た男性が出て来て地上へ梯子を下す。
「天井監視所行き飛竜船ドンドラゴ号到着です。前の方に続いてお乗りください」
エルフの女性が声をあげた。グレン達の前に着陸したドラゴンは飛竜船というものだ。四大強国の一つタイタロス王国にはドラゴンテイマーと呼ばれる一族がいる。彼らは太古の昔から飛竜族と契約を結び飛竜を使役して来た。魔王討伐でドラゴンテイマー一族は飛竜と共にその教会に協力した。彼らは輸送船として魔王討伐に貢献し、戦争終結後も協力関係は続きドラゴンテイマーたちは人々や物資を乗せる飛竜船として活躍していた。
ノウレッジにある飛竜船は二十隻ほどで、定員は二十名で路線は主に大陸の北側に向けられている。ノウレッジの北側は極寒の地で線路はまだ延伸中で川は半年以上に渡り凍結するため魔導起動船の運航も難しい。空を飛ぶ魔導飛空艇の導入はまだ先であり、飛竜船が北への人や物資の輸送の大部分を担っている。
「さあ行こう!」
「んだな!」
「あっ! 待ってよ」
ララとラピが勇んで梯子を上り飛竜船へ乗り込み、二人をキティルが追いかける。グレンは黙って三人が梯子を上る姿を見ていた。クレアがそっとグレンの横に立ち声をかける。
「行きますよ…… 大丈夫ですか? 無理なら一人で飛んでも」
「ううん。大丈夫だ…… ただ…… 怖かったら……」
「はい。手をギュッとしますから」
クレアがうなずくとグレンは嬉しそうに笑った。キティル達から少し遅れてグレン達も飛竜船に乗り込むのだった。梯子でドラゴンの背中に上がったグレン達は白い制服を着た船員により円筒形の籠の中へと通された。円筒形の籠の中は両脇に扉がある五メートルほどの長さの廊下が続く。廊下の脇の扉には船員が倉庫や作業室や仮眠室やトイレなどがある。廊下を抜けると壁に沿い窓の前に四角いテーブルと椅子がテーブルを囲むように三脚が設置され並んでいる。
籠の先頭には小さな扉があり別の部屋に続いていた。籠の中央に白い制服に帽子をかぶった顎に髭を生やした中年の男性が立っていた。
最後尾だったグレンとクレアが籠に入ると扉を開けていた船員が扉を閉めた。
「空いている席に座ってください」
グレン達の後ろから船員が席に座るように促す。ララとラピは二人で座り隣にクレアとグレンとキティルが並んで座る。グレンは窓の正面に座り左にクレア、右にキティルが座っている。
乗客が全員座ると籠の中央に立っていた中年男性が口を開く。
「おはようございます。私はドンドラゴ号の船長ドドンガといいます。これより皆様と空の旅をご一緒させていただきます」
ドドンガは笑顔で頭を下げると籠の前方の扉から隣の部屋へ入っていく。隣の部屋は操舵室となっている。操舵室と言っても地図と羅針盤が置かれた台と伝声管のみが置かれている。ドラゴンテイマーは竜の言葉を使いドラゴンに指示を送るため、伝声管で指示を出すのだ。
「ドドンガです。まもなく離陸します。揺れるので席に着いていてください」
天井に設置された伝声管からドドンガの声がした。直後に竜が首をあげ体を起こし地面を蹴って飛び上がった。船内は揺れて羽ばたくドラゴンの翼が窓に見えた。
「くっ……」
青ざめた顔してグレンが窓から目を背けた。
「グレンさん? どうしたんですか?」
「いや…… 別に…… ちょっとな……」
キティルはグレンの様子に気づいて下から覗き込むようにして彼に声をかける。グレンは心配させないように笑顔を作って彼女に向かって首を横に振って大丈夫だと伝える。
「グレン君はドラゴンが少し苦手なんですよ……」
「えっ!? クレア義姉ちゃん……」
心配そうにクレアがグレンを見て口を開く。グレンは少し恥ずかしそうに頬を赤くする。
「そうだったんですね。まぁドラゴンは強くて怖いですもんね」
納得したようにキティルはグレンを見てうなずいた。グレンは五年前にダイアたちに裏切られシャイニングドラゴンに襲われた、それ以来、似た姿のドラゴンをやや苦手としている。
「おっ!? ちょっ!?クレア義姉ちゃん!?」
「だからこうやってお姉ちゃんが手を握ってあげないとですね」
「なっ!?」
クレアはグレンの左手をそっとつかんで自分の近くに持って行き両手に優しくつつむ。勝ち誇った笑みを浮かべるクレアにキティルが目を鋭くして睨む。
「だったら私も手を握ってあげますよ!」
「えっ!? キティル…… それは…… ちょっと」
「まぁ!」
キティルはグレンの右手をつかんでクレアと同じようにした。両手をつかまれたグレンは前かがみになり困惑した様子で二人を交互に見ている。
見せつけるようにギュッと自分の胸の前でグレンの手を愛おしそうに握る、キティルにクレアは目をおおきく見開きムッとし頬を膨らませる。
「グレン君はお姉ちゃんじゃないと安心しないんですよ。ほらグレン君……」
「うっ!? ちょっと!」
「クッ!!」
グレンの左手を引っ張ってクレアは自分の胸元へ持って行き谷間に滑り込ました。柔らかく温かい感触に包まれる自分の左手にグレンは顔を真っ赤にする。キティルは視線を下に向け、自分の胸を見て敗北を悟り悔しそうに顔をする。しかし、あきらめずにグレンの右手をひっぱり胸から腹へ動かしさらに下へ……
「だったら私は……」
「おっおい! やめろ! もう! まだ酔ってんのかよ!」
「えっ!? もう逃げないでくださいよ」
キティルはグレンの手を自分のスカートの中へいれようとした。慌ててグレンは彼女の手を振りほどき抜いたのだった。
残念そうにするキティルにクレアは勝ち誇って笑っていた。そんな彼女をキティルは鋭く睨みつけるのだった。
「熾烈な争いね……」
「んだな……」
隣の席で三人の様子を見ていたララとラピがつぶやくのだった。飛竜船は大きな翼を広げ大空を飛んで行くのだった。




