地下に眠る黒剣
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!
「月城陰丸は主として朝星棒・死棘を従える者である。俺の力を認め受け入れ、魔を滅する一振りとなれ」
何度目かもわからない宣言を行い、そしてまた同じように、掴んだ手のひらを強くはじかれる。
日之出学園で貸し出している廉価版の武器とは比べ物にならない弾かれ方をされ続けて、いい加減に手が痺れてきていた。
格の高い武器は、Noではなく固有名で管理される。当然、宣言の難易度も増す。
自分を慰めるように、腰に携えた木製の小刀を握り締めてから、陰丸は朝星棒の隣にあった日本刀を掴む。
掴んで、取り出して、そして気づいた。
「これ、姉貴の」
4年前。日之出学園の早期卒業をかけて、姉貴が当時の学長と決闘を行った時に使っていた武器だ。
結果は圧倒的で、現役を退いたとはいえ一流の退魔士相手に『怪我を負わせずに完封する』なんて余裕すら見せて、夜子は易々と卒業していった。
「そんな昔から、こんなの使ってたのかよ……」
明らかな業物に、陰丸の胸の内をどす黒いものが満ちていく。
「月城陰丸は主として大太刀・三日月を従える者である。俺の力を認め受け入れ、魔を滅する一振りとなれ」
ざくり、と音が聞こえてくるようだった。
弾くというより、刃物を突き立てられたような強烈な拒絶を受けて、陰丸は大太刀を取り落とす。
ぽたぽたと血が流れる自らの手をぼんやりと見つめて、それからだらりと腕を下ろす。
やり場のない怒りが、沸々と煮えたぎっていた。
「……ふざけんな」
なんでこんな目に遭わないといけないんだ。
ただ才能がないというだけで、生まれつきの資質なんていう陰丸にはどうしようもないことのせいで、どうして、こんなに苦しめられる。
「ふざけんな!」
姉貴の大太刀なんて一瞬でも見たくない。雑に拾って、遠くに投げ捨ててしまおうと振りかぶる。
そのときだった。
『……儂…声…聞こ…るか?』
不明瞭な、雑音交じりの音が奥から聞こえてきて、陰丸はぴたりと動きを止める。
『聞こ……いる…ら、来…。…の元…』
声帯を震わせているというより、鉄を叩いたときの金属音に近い響きだった。それが連続して、人語を形成している。
薄気味の悪さを感じながらも、陰丸は武器庫の奥へと進む。
光のまったく当たらない奥の奥。鉄錆と黴の臭いがひどい武器庫の行き止まりまで行ったのは初めてだった。
そこには、堅牢な鉄扉があった。
扉自体も極めて頑丈そうで、さらに何重もの鎖が取っ手にかかり、強固な封で閉じられていた。
その封が、一瞬のうちにじわりと黒く腐食した。
『だいぶ近づいたようじゃの』
今度は明瞭な声がして、封が弾ける。
どういう理屈なのか、するすると鎖もほどけて地面に落ち、音もなく鉄扉が開いた。
陰丸は、冷泉と、以前親父に言われたことを同時に思い出す。
「月城家が封を守る……魔剣」
半ばおとぎ話として聞いていたけれど、実在したのか。
『さあ、もっと降りてこい。久方ぶりの客人よ』
封の弾けた扉の向こうで、妖しい声が陰丸を誘う。
◇
扉の奥にあったのはらせん階段だった。
石造りのそれを、こつこつと一歩ずつ降りて行く。
―――親父か姉貴を呼ぶべきだ。
頭ではわかっていた。封が外れ、中にあるものが外界に影響を及ぼした。緊急事態とも言える状況なのだから。
だが、陰丸は1人きり、誘われるままに進んでいった。
もうどうにでもなれという気持ちと、期待する気持ちを少しだけ抱えて、長い長いらせん階段の最深部まで降り立つ。
「……こんなところが、あったのか」
地上が陥没してこないのが不思議なぐらいの、広大な地下空間だった。
一般的な平屋建てを、5つも6つも積み重ねられそうな高さがある。奥行きは1キロトラックがすっぽりと入るぐらい。
『良いぞ、もっと来い。儂の前まで早く来い』
そんな最奥がおぼろげにしか見えないぐらいの空間の真ん中に、それはあった。
台座に突き立てられた、一振りの黒剣。
―――長い。
姉貴が使っていた大太刀・三日月は刃長がだいたい2メートルぐらいだが、それよりもさらに長い。両刃で、刀身はずぶずぶと沈みこんでいきそうな深黒に輝いていた。
そして近づいてみると、不可思議な声の謎も解けた。
『ようやっとじゃな。待ちくたびれたわ』
黒剣が微小に震えて、それが人語を形成している。
なにがなんだかわからなくなって、陰丸は頭を抑えた。
「剣がしゃべった……? ……本格的におかしくなったのか、俺は」
『現実逃避に走るでないわ。これ以上儂を待たせるつもりかこの虚けが』
「帰ろう」
『ま、待て待て待ってくれ』
頭を抑えたまま踵を返そうとすると、なんだか慌てた調子で黒剣が叫ぶ。
『儂を握れ、そして使え。なに案ずるな副作用の類はない』
「……こんなとこに封印されてる奴の言ってることなんて信用できないよ。喋る剣ってだけでもう意味わからないのに」
『じゃが、お主は力が欲しいのだろう』
やっぱり帰ろうとした陰丸の足が、止まる。
『最初から怪しんでいるなら、そもそもなぜ降りてきた。おおよそ真っ当な手段では叶わぬ相手がいて、それでも我を通したくてここまで来たのではないのか』
「…………」
『何度も言うが案ずるな。副作用はない』
「……………………信用するとでも?」
『疑うのなら、宣言だけでもすればいい』
がたがたと台座に刺さったまま刀身を震わせて、黒い両刃剣は言う。
『それでお主が弾かれれば黙って帰ればよい。宣言が通れば携えればよい。心配するな、お主ほどの才覚なら儂も扱えようぞ』
「お前、人を見る目ないぞ」
陰丸に才覚なんて砂粒ほどもありはしない。やっぱりこいつは信用できない。
ただ、どうせ戻ったところで、かび臭い武器庫で不毛な宣言をし続けるだけなのは確かで、陰丸は台座に上がった。
「弾かれたら帰るからな」
吐き捨てるように言って、黒剣の柄に手を添える。
「……握ったな」
直後、背後で涼やかな声が響いた。
◇
刀身を震わせるのとは違う、明らかな肉声に陰丸は驚いて振り向く。
しかし、そこには誰もいない。
「こっちじゃこっち」
今度は前から声がして、首を戻す。
陰丸が握る黒剣にもたれかかって、黒いワンピースの少女が楽しげに笑っていた。
「………ええと?」
「なんじゃ呆けた顔をして。間抜けな面じゃのう」
くつくつと肩を震わせる少女の足から頭まで、じっと眺める。
見たところ、年は十代の前半ぐらい。
腰まである黒髪と透き通るような白い肌は育ちの良さを感じさせるが、意地の悪そうな笑い方が様になっているせいかお嬢様には見えない。なんというか、学級に1人はいるいじめっ子といった感じだ。
「…………誰?」
「お、やっぱり見えるのか。楽しいのう、嬉しいのう。人との会話なんていつぶりじゃろうか」
「いや、だから誰?」
「剣じゃよ」
少女は、台座に突き刺さっている剣を指さして胸を張った。
「この世に二振りとない最強の誘魔剣、レイラ様じゃ。お主に絶大な力を与えることを保証しようぞ。さあさあ、一緒に外に出よう」
「……………」
さて、どうしようか。
封印されていた魔剣を無断で持ち出す。当然だがやってはならないことだ。
だが、ここまで来た時点で手遅れな気もするし、藁でも魔剣でも縋るものがなければ陰丸の人生は詰む。
そうすると判断基準はやはり、使えるか否かになるだろうか。
などと考えていると、レイラと名乗った少女がぴくりと肩を揺らした。
「悩むのはわかるが、あんまり時間はないようじゃぞ?」
問い返す時間も、必要もなかった。
レイラの言葉の直後、地下空洞が揺れ始める。
揺れは段々と大きくなり、一定の周期を持ち始め、そして呼応するように台座の奥の地面から岩の化け物が形成されていく。
剣を握ったまま後ずさった。
「ゴーレム!? なんでこんなところに」
しかもでかい。日之出学園の校舎が4階建てで、おそらくそれ以上の背丈がある。
ゆらゆらと陰丸の周りを浮遊しながら、レイラは笑う。
「そりゃ、封印には番人がつきものじゃろう。なに心配はいらん、普段お主が狩っている魔物に比べれば楽勝じゃ」
「魔物なんて狩ったことないよ」
半ば混乱に押されるように剣を引き抜こうとするが、びくともしない。それで完全にパニックになって上ずった声が出た。
「抜けないんだけど!?」
「じゃーかーらー、宣言をしろと言っているじゃろうが。ほれ早くしろ、あちらさん振りかぶっとるぞ」
鼓動のような揺れは収まり、ゴーレムは既に臨戦態勢だった。
―――もうどうにでもなれ。
やけっぱちになって叫ぶ。
「月城陰丸は主として誘魔剣・レイラを従える者である。俺の力を認め受け入れ、魔を滅する一振りとなれ!」
そのときの感覚を、陰丸は一生忘れないと思う。
弾かれる痺れとは違う、柄が掌に吸い付く感覚。剣先まで五感が伸びていき、気が循環しているのを感じる。
レイラは後ろから陰丸の首に腕を巻き付けて、耳元でささやいた。
「承った。よろしくの、主様」
すぽん、とあっけなく剣が抜けて、勢い余って陰丸は後ろにごろごろと転がる。
直後、ゴーレムの巨大な拳が台座を粉々に粉砕した。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




